第47回 生と死を考えるきっかけに

■第46回ウルトラショート翻訳課題の講評

<課題文>
[Five minutes into this ridiculous escapade, and already Scott McFarlane thought it was a bad idea. Waiting around in an almost completely empty room for someone he’d never met seemed a waste of time, but the second part, the thing for which he’d been “hired,” was considerably more idiotic.]

He hadn’t been in this house before today and didn’t have his bearings, so it was probably a stroke of good luck that he wasn’t required to move around a lot. Still, he wasn’t comfortable without a strong sense of the geography of the place, and there was little he could do unaccompanied to improve that situation.

<解説>
英語的に難しいところはありませんが、さらっと読めるように訳すのが難しいと思います。最初に対象外の部分を簡単に説明すると、「このばかげた冒険に乗り出してから五分も過ぎると、スコット・マクファーレンはやめておけば良かったと思い始めていた。ほとんど何もない部屋で、会ったこともない相手を待っているのは時間のむだに思えたが、さらに、スコットが「雇われた」仕事は、それよりもずっと間の抜けたものだった。」というのが前振り。それを受け手の課題文です。

一行目は、過去完了ですから、時制を一つあげて考えると分かりやすい。「それまでこの家に来たことがなかった」ですね。have his bearingsのbearingsには方向という意味があって、have one’s bearingsは、自分の立場が分かるという意味にも使いますが、ここでは単に方向感覚がないという感じ。a stroke of (good) luckは「思いがけない幸運」という熟語です。「幸いなことに動き回らずに済んだ」という意味。「a strong sense of geography of the place」がたぶん勝負を分けるところじゃないかな。「居場所がよく分からない」。さてこれをどううまく訳すか。最後はthere was little [he could do] unaccompanied [to improve that situation]ですね。unaccompaniedはaloneと読むとうまく訳せるかな。

ではコメントです。

★訳文記載について
・訳文は応募順に記載しています。
・赤字…最優秀訳文、ピンク字…敢闘賞受賞訳文です。

1.
彼は今日この家に来たばかりだったので方角が全くわからなかった。うろつき回らずにすんだのはたまたま運がよかったからだろう。それでもやはり、地理感覚が失われていたので落ち着かず、状況をよくしようとしても、たった一人では何もできなかった。

<コメント>小説の書き出しですので、「来たばかり」だとちょっと誤解を生むかな? a lotは活かした方がいいです。家の中ですから「地理感覚」は少し大仰に響きます。
<余談>はじめまして。こちらこそごひいきに。

2.
この家に来たのは今日が初めてで、彼はここに何のゆかりもなかった。だから、あちこち動くように言われなかったのは、幸運だったかもしれない。それでも、ここがどこなのか、ちゃんとわからなくて落ち着かなかった。しかし、ひとりではこの状況を如何ともしがたかった。

<コメント>全体の流れはとても良いです。ただ言われたかどうかはこの時点で分かりませんから、requiredは素直に訳した方がいいかも。最後の行は切らずに訳して欲しかったな~。

3.
彼がこの家に足を踏み入れるのは今日が初めてだったし、その家の何がどこにあるのかもわからなかった。なので家中をあちこち歩き回らなくて済んだのは、たまたまラッキーだったとしか言いようがない。ただやはり、自分の居る場所の位置関係をきちんと把握できないというのは気味が悪かった。そうかと言って、ひとりではどうすることもできなかったのである。

<コメント>意味はそれでいいと思うんですが、文章のトーンがばらついている気がします。最初の二行はかなり柔らかい感じなのに、そのあとはちょっと硬めで漢字も増えています。そのあたりをもっとさらっと。あと「たまたま~言いようがない」のところは原文から見て長くなりすぎですね。
<余談>いえいえこちらこそ。

4.
初めて中に入った家は、まるで見当がつかず、動き回らずに済むのはかえって幸いだった。しかし、自分が今どこに居るのか分からないのは居心地が悪いもので、かと言って、連れがいなくては事態の改善のしようはなかった。

<コメント>やや文章のトーンがばらついているかなあ。「事態の改善」はやはり硬い感じがします。
<余談>うーん、これだと翻訳じゃなくて超訳かな。今は勉強の段階だから、これはやめた方がいいです。楽しちゃうし力付かないよ。まず縛りがある中でベストを尽くすと、だんだんさじ加減がわかってくるんだと思います。

5.
彼はその日以前にこの家にいたことはなく、自分がどの辺りにいるかもわからなかったから、あれこれ動き回るよう要求されていなかったのは、もっけの幸いと言えた。それでもやはり、その場の地理感覚が乏しくては落ち着かなかったし、その事態を改善させるために一人で出来ることはないに等しかった。

<コメント>「いた」だったら「きた」かな。「どの辺り」も漠然としていますね。「もっけの幸い」というほど、本人が安心してはいないですよね。「この場の地理感覚」というと屋外だと思われそうです。全体に流れが今ひとつかなあ。
<余談>はいはい、今月もちょっとシビアに響くかも知れないけど許してね。

6.
今日までこの家に入ったことがなく、どこに何があるかもよくわからない。そんな彼にとっては、あちこち歩き回らなくていいのは幸運だったかもしれない。それでもやはり、よく知らない場所にいるというのは居心地の悪いものだった。誰かが一緒にいれば状況は変わったかもしれないが、1人ではどうにもならなかった。

<コメント>「しれない」とか「~ない」がちょっと多くて、やや単調さを感じてしまいます。「1人」は「一人」で。最後の行ももっとシンプルにできるはず。
<余談>そうなんですよ。結構丸一日つぶれるくらいの作業量です。でもまあ少しでもお役に立てればと思ってやってます。

7.
この家に入るのは今日が初めてで、彼は自分の位置に戸惑った。だからあまり動き回らなくてもいいというのは、運が良かったのだろう。それでも今いる場所について強い地理感覚がなくては不安だったし、状況を改善したくても一人ではほとんど何もできなかった。

<コメント>「位置にとまどう」は分かりにくいかな。家の中の話で「地理感覚」ってちょっと大げさに響きますね。「状況を改善」も硬い印象を受けます。

8.
彼は今日この屋敷に越して来たばかりで周りの事もよくわからなかった。そのためにかえってゆっくり過ごせたのは、多分思いもよらぬ幸運だったに違いない。とはいえ、彼にとって慣れない土地は居心地が悪く、おまけにそんな状況を救ってくれる連れもいなくて手持ち無沙汰だった。

<コメント>「越してきた」とは限りません。(実際、侵入者です。)move aroundは単に動き回る。the placeはthis houseですね。手持ちぶさたはすることがないという意味ですが、ここではlittle to improve that situationです。
<余談>そうですね、まだ英語がきちんと読めていない部分も散見されます。おっしゃるとおりもっともっと英語を読んでくださいね。

9.
彼がこの家に来たのは今日が初めてで、自分がどこにいるのかも分からなかったので、あちこち動き回る必要がなかったのは、もっけの幸いに思えた。 とはいえ、よく知らない場所にいるせいで落ち着かなかったし、そんな状況を改善しようにも連れがいないのでは出来ることもほとんどなかった。

<コメント>やや色気にはかけますが、さらっと読める感じです。最後の方、「状況を改善」も工夫してほしかったところ。
<余談>節電の夏というより、節電が普通になってきた気がしますね。原発は一度にとはもうしませんが、順次もう廃止の方向で。夏の数日、ピーク時間のためだけにあるようなものなんですから。あと、東京電力の福島の原発問題がある限り、日本製品に対する信用はがた落ちです。政府はまず本当の数字と分かっている限りの状況を国民に対して示すべき。

10.
彼はこれまでこの家に来たことがなく、方角もよくわからなかった。何度も転居しなくてすんだのは幸運だった。それでも付近の地理に明るくなくては居心地が悪く、そんな状況をよくするために一人で出来ることはほとんどなかった。

<コメント>「方角」だとちょっと漠然としているかも知れません。「転居」ではないです。これは単にmove aroundですから動き回ること。「付近の地理」ももっと広い意味で取れてしまいます。

11.
スコットは、今日までこの家に入ったこともなく個人的に何か関わりがあるという訳でもなかったので、たいして動きまわる必要がないのは運が良かったかもしれない。とは言えあまり馴染みのない場所というのは居心地悪く、連れもないのでこの状況をどうにかする手立てはないに等しかった。

<コメント>「個人的に何か関わりがある」はちょっと違うかな。それ以外はなかなか良い感じなので、ちょっともったいなかったですね。
<余談>Lady Gagaは僕も聞いていますが、現代版のマドンナなのかなという部分も。QUEENは最新リマスターのSHM-CDが出ているところなので、結局買ってます。

12.
彼は今日までこの家に居たことはなく、馴染みもなかった。だから、辺りをあちこち動き回る必要がなくて幸いだっただろう。とはいえ、土地勘がないので居心地は悪い。それに、この状況を好転させるために独りでできることはまずなかった。

<コメント>「居たことはない」はちょっと気になるかな。「土地勘」というと、もう少し広い感じがしますね。家の中の話ですから、もう一工夫。

13.
彼は、この家にはまだ来たことがなかったし、今どこにいるのかも分らなかった。しかし、幸いなことには、もうあちこち動き回る必要は、なくなったようだ。たしかに、たいした土地勘もない所で過ごすのは、気持ちのいいものではなかったが、何とかしようにも、彼一人では、ほとんど何もできなかったのである。

<コメント>「まだ」はちょっと引っかかるかな。今そこにいるわけですから「これまで」。元の訳文だと、「どこにいるのか」が、国なのか、土地なのか、家なのかはっきりしにくいかも。「もう」というわけではなく、単に動き回らなくてよかったのがラッキーだったかもと。「土地勘」というのはもう少し広い場所の話ですね。
<余談>こちらこそよろしく。

14.
彼には、この家に足を踏み入れた経験が今日までなく、何がどこにあるのかもさっぱり分からなかったから、あちこち動きまわる必要がなかったのは幸運といってよかった。とはいえ、その場の物理的状況をしっかり把握していないというのは落ち着かず、自分ひとりで状況を改善できる余地はほとんどなかった。

<コメント> 意味は分かっていると思うんですが、少し平板かな。「物理的状況」はgeographyなんで、ちょっと分かりにくいと思います。もう少し読み手を意識して訳すと良いと思いますよ。
<余談>ああ、図書館に入れてもらうのはいいかもしれませんね。311で日本の風景が少しずつ変わってきました。変わらないのはマスコミくらいかなあ。611に大規模なデモが世界規模であるようなので、そういうのが続いていくと、原発に対する政策も変わっていくのかも知れません。

15.
この屋敷に来たのは今日が初めてなので、彼は自分がどこにいるのかわからなかった。だからあちこち動き回らずに済んだのは、きっと運が良かったのだろう。居場所があやふやなのはやはり落ち着かなかったが、一人ではどうしようもなかった。

<コメント>悪くはないですよ。あまり硬い感じは受けませんが、「かった」がちょっと多いかなあ。もう少しで敢闘賞。
<余談>「自分の居場所」にするとさらによかったですね。

16.
彼は今日までこの家に入ったこともなかったし、どこにあるのかもわかっていない。ゆえに、彼はものすごく運が良かったと言えるだろう。あちこち移動せずにすんだのだ。それでも、その場所の地理をきちんと把握しないことには落ち着いた気持ちにはなれず、かといって状況を改善するために彼が一人でできることはほとんどなかった。

<コメント>「どこにあるのかもわかっていない」だと誘拐でもされてきた感じですね。動き回ろうと思えば動き回れるわけですから、それはあまりないかと。「この場所の地理」は確かにその通りですが、もう一工夫。あと「彼」が多すぎです。

17.
彼は今日までその家を訪れた事はなかったし、方角も定かではなかった。だから、たいして歩きまわらずに済んだのは、ちょっとついていたということだろう。しかし、やはり落ち着かない。そのことについて、はっきりとした土地勘のない彼にできることは、ひとりでは限られていた。

<コメント>「方角も定かでない」は「何の」方角なのかがちょっと気になります。これだと何となく、家に来るのにたまたまうまく着いちゃったのかなという風に読めますね。落ち着かないのは何に対してだろう。
<余談>初めまして。もっと読み手を意識するといいですよ。

18.
彼は今日までこの家に入ったことがなく、自分がどこにいるのかわからなかった。だから、やたらと動き回らずにすんだことは、おそらく運がよかったのだろう。それでも、建物の様子がわからず落ち着かない。それに、仲間も連れていない彼が、この状況を改善するためにできることはほとんどなかった。

<コメント>「自分がどこにいるのか」の部分はもう少し工夫した方がいいかな。「様子」も悪くないけど、もう一工夫あってもいいかなあ。「勝手」だとすっと行きます。 最後の文章はもっとシンプルに。
<余談>最初からうまく訳せるならここにいる必要ないですよね。地道な努力と積み重ねが上達への唯一の道です。

19.
今日に至るまで、彼はこの屋敷に足を踏み入れたことはなかったし、何らかの関わりを持ったこともない。だから、あちこち動き回らなくてすんでいるのは幸運の巡り合わせといっていいだろう。それでも自分がいる場所について、どこがどうなっているかあまりよく分からないというのは落ち着かないもので、しかもたった一人でこの状況を改善するのにできることは、無いに等しかった。

<コメント> うーん、「関わりを持ったことはない」はちょっと違うかな。「幸運の巡り合わせ」はもう少し軽くてもいいかも。「それでも~というのは」の部分は原文がもっと締まりがあることを考えるとやや冗漫です。原文に比べてずいぶん長くなってしまった感じ。
<余談>僕も忙しくて大変です。先週まで20日で英訳400枚やりました。死ぬかと思った。本は移動中と風呂です。(風呂は半身浴で長風呂なので結構読めるんですよ)

20.
今日初めてこの家を訪ねたわけだが、場所は不案内なのに、よほどついていたらしく、あっさり探し当てることができた。ただ、どこにいるのかいま一つぴんとこないのでどうも落ち着けない。そのうえ何かしようにも一人きりでは、できることなどまずないのだ。

<コメント> 「不案内」自体はいいセンスなんですが、家にたどり着く話ではなく、家の中にいる話なのでちょっと全体に意味が違っちゃいました。思い込みで訳さないようにしましょうね。

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