
築地書館『旅する地球の生き物たち:ヒト・動植物の移動史で読み解く遺伝・経済・多様性』
『旅する地球の生き物たち:ヒト・動植物の移動史で読み解く遺伝・経済・多様性』
ソニア・シャー 著
夏野徹也 訳 築地書館
出版社HP Amazon
2022年のノーベル生理学・医学賞は、古代人類の進化と移動の歴史を解き明かした遺伝学者が受賞しました。では、彼らはなぜ移動したのか? 本書では古代から現代までのヒトを含む生物全般のMIGRATIONをテーマに、移動を引き起こす要因、そして移動生物を受け入れた社会や環境が受ける影響や恩恵などを解き明かします。
温暖化に伴い北へ高地へと移動する蝶や、パキスタンやハイチ、そしてウクライナから安全な生活環境を求めて他国へ難民として移動する人々を見た多くの人は、それを例外的な行為だと感じます。しかし作者のソニア・シャーは、MIGRATIONはむしろ生物の本能的行動であり、進化のきっかけとなりうるものだと、さまざまな分野の研究者・移動者のコメントとデータをもとに立証していきます。
異様に低い難民認定率、外国人収容所での虐待など痛ましい事件が起きる日本で、生物の移動に関する問題についてより深く考える一助となる、目を見開かされる一冊です。
(築地書館・黒田智美)
☆通訳・翻訳ジャーナル2023年冬号より転載☆