大作ゲームを日本語化!!
SIEローカライズチームの翻訳現場に迫る(後編)

《翻訳の工夫》
テンポの良い台詞を重視 SNSではスラングも活用

本作の主人公はニューヨーク・ハーレムに住むアフロ・ラティーノの高校生で、明るく、ノリが良い性格が特徴。日本語版でも今どきの10代らしい、テンポの良い喋り方を意識した。

大島さん「ヒーローでありつつ、親しみやすさがあるというのがスパイダーマンなので、その『らしさ』は大切にしました。ただ若者言葉や流行語は、どのくらい取り入れるかのラインが難しい。若者言葉に偏り過ぎると、音声で聞いた時に浮いてしまうかもしれません。誰でも違和感なくプレイできるようなバランスが大切ですね」

そういう意味で、今回一番「攻めた」翻訳をしたのが、ゲーム内に出てくるSNSの文章だという。ゲームが進行すると、フェイスブックやツイッター風のものなど、複数のSNSが見られるようになり、スパイダーマンの活躍によって人々の反応が変化する。この箇所は前作でも反響が良かったので、今作ではさらにネットスラングなどをうまく取り入れて「リアルなSNS」らしい表現をめざした。

翻訳へのこだわりが詰まった、ゲーム内のSNS画面。内容は主人公の行動によって変化していき、特定の条件下でしか見られない文章も多い。



谷口さん「英語版の『lol』は、前作では『w』に置き換えましたが、今作は思い切って『草』にしたり。『乙』なども積極的に使いました。尖った言葉を使いつつも訳者の独りよがりにならず、バランスを見極めながらプレイヤーに『おもしろい』と思ってもらえるラインを探る、というチャレンジができて、とてもやりがいがありました。SNSはストーリーを進めるごとにどんどん内容が更新されていくので、細かく見てもらえると嬉しいです」

また、街中の通行人などのNPCの台詞や、ゲームのバックグラウンドで流れるポッドキャストもすべて日本語化しており、それらも非常に文量が多かった。通常、メインのキャラクターなどが話す台詞は一言数秒~10秒前後だが、ポッドキャストの会話は長く、2~3分間話し続けるようなものもある。また、複数人のNCPが交わす会話も1分以上のものが多く、そんな台詞が約1000セットはあったという。

谷口さん「前作は一部のNPCの台詞が開発上の都合で日本語化できなかったので、『次はすべて日本語にしたい』と制作側に伝えたところ、今作ではそれが実現しました。喜んだのですが、結果として翻訳量が増えることに…(笑)。ですが、ローカライズのクオリティは上がったので、やってよかったと思います」

SNSのテキストやNPCの台詞は、ゲームのメインストーリーとは関係ない、いわばサブ要素的なもの。普通にプレイしていたら見逃してしまう人も多いだろう。だが、それら細部まで適切な日本語化が行われていることで、ゲーム世界に入りこむような体験が可能となる。微に入り細をうがつローカライズへの「こだわり」が、本作の臨場感を支えていた。

ゲームローカライズの仕事をめざす人へAdvice!

【関根さん】『Ghost of Tsushima』ローカライズプロデューサー
ゲームはもちろん、スポーツ、ファッション、グルメなど、色んな事に興味を持って吸収する好奇心が大事。ゲームローカライズは奥が深いし、やりがいと達成感がたくさん得られるのでぜひ挑戦してみてください。

【坂井さん】『Ghost of Tsushima』ローカライズスペシャリスト
英語の勉強と同じくらい、日本語の語彙力・表現力を磨くことが大切です。作品のテイストが多様なので、インプットはたくさんあるほうがいい。流行っている言葉などに常にアンテナを張りましょう。

【谷口さん】『Marvel’s Spider-Man: Miles Morales』シニアローカライズスペシャリスト
ボイスつきの作品が増えているので、吹替に対応できるとチャンスが広がります。吹替の台詞を作るためには、漫画や映像作品を吸収して引き出しを増やすこと。特に漫画は、会話のやりとりが自然で勉強になります。

【大島さん】『Marvel’s Spider-Man: Miles Morales』ローカライズスペシャリスト
ゲームをたくさんプレイしましょう。独特の決まり事などもあり、ゲームをある程度知らないと正しく訳せないというケースも多いです。様々なジャンルのゲームに親しんでいると、原文の状況が見えやすくなります。

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