Vol.31 就学前の英語子育てと絵本
/通訳者 山本みどりさん

30代後半で結婚をし、二人の子どもを授かった。この原稿を書いている時点で、保育園年長の娘と年少の息子がいる。なんとか子どもたちを育ててきて、ついに上の子がもうすぐ就学というところまできた。この原稿では、保育園時代の子育てを英語教育の面から振り返ってみようと思う。

同業者の体験談に刺激を受ける

自分に確固とした外国語教育のポリシーがあったわけではない。私自身が本格的に英語学習を始めたのは中学校に入ってから。それでも、入った中学・高校の英語のカリキュラムに加え、通っていた英語塾の先生が素晴らしく、また洋楽にハマったおかげもあって、楽しく質の高い英語学習ができたと思う。そういう環境を与えてくれた親に感謝である。
では自分の子どもたちにどうなってほしいか? 絶対にバイリンガルになってほしい!という強い意志はなかった。しかし、親である自分が通訳を生業にしているのだから、そこそこの英語力はつけてほしいな……と何となく思っていた。
そうこうしているうちに、とある翻訳者向けのポッドキャストを聞いたことがきっかけで、「子どものバイリンガル教育」という世界があることを知る。そのなかでも、広島でバイリンガル子育てをしてらっしゃるAdam Beck氏のWebサイト読み込み、まずは英語絵本の読み聞かせをしようと決めた。そこで、外国人向けの英語絵本のセットを買い込み、読み聞かせをし始めた。
しかし、私自身が読み聞かせをするのは結構ハードルが高かった。読み聞かせをするのは子どもたちの就寝前。親にとっても一日の疲れが出て、そろそろ眠くなってくる頃合いだ。どうしても自分のやる気次第で、英語絵本を読む日と読まない日が出てきてしまう。読むにしても、短い本ばかり選ばせてしまう。これではよくない・・・・・と思っていた矢先に、本連載シリーズで中井智恵美さんのこの記事を読んだ。日本に居ながらにして両親がいわゆる「純ジャパ」でも、子どもたちをバイリンガルに育てることができるという内容に衝撃を受けた。そこで智恵美さんの発信する情報を読み込み、音声教材の導入を決める。同時に智恵美さんが運営するコミュニティにも入会。それ以来、いろいろと情報交換をしたり、他の人の体験談を聞いたりすることで、なんとか親のモチベーションを維持し音声教材のかけ流しを続けることができている。絵本の読み聞かせは、数々のYoutube動画やプロの朗読音声に頼ることで続けている。

絵本を日本語版と英語版で用意

子どもの英語教育は、親の自分にも勉強になっている。例えば、ネイティブ向けに出版されている数々の絵本は学びの宝庫だ。特に私が気に入ったのはThe Three Robbers(邦題『すてきな三にんぐみ』)。なんとこの本のオリジナル版は、アメリカ版、イギリス版、今と昔で複数の出版社から出版されている。版元が変わると一部の絵が変わり、今出ている版ではオリジナルにあった一文がなくなっていたりする。幸運にも地元の図書館でこれらの本を借りることができたので、こうしたことがわかった。こういった変更の背後には、どのような「大人の事情」があったのか?思わず勘繰りたくなってしまう。
また、Where the Wild Things Are(邦題『かいじゅうたちのいるところ』)。最近この本の翻訳者神宮輝夫さんの訃報に触れ、この本が当初『いるいるおばけがすんでいる』という邦題で訳されていたが、神宮さんがWild Thingsを「かいじゅう」と訳された、と知った。我が家にはこの絵本を日・英両方で揃えてある。子どもたちは日本語版のほうは大好きだ。一方、英語版は手に取ってくれたことがない。仕方がない。そこにあるものならいつか手に取ることもできるだろう。しかし、そこになければ手に取ることもできない。いつかは、と願っている。
アメリカの子どもたちの定番絵本、Dr. Seusseシリーズもそうである。母としては、ぜひOh, the Places You’ll Go!を手に取って読んでほしいと思っている。しかし、子どもたちはCat in the HatとかGreen Eggs and Hamばかり「読んで!」と持ってくる。上の子は女の子が主人公のDaisy-Head Mayzieもお気に入りのようで、時々読み聞かせアプリで楽しんでいる。
人生は大人になってからが長い。その長い人生を生きていくための一つの道具として英語を身につけてほしい、というのが母としての願いである。そのために、細々とでも英語のインプットを続けていくつもりだ。

雨の日は布団山で盛り上がる