Vol.7 柴原智幸さん、柴原早苗さん「読書は人間らしく生きるために必要なもの」

通訳者が登場する歴史小説にロールモデルを見いだす

仕事は大なり小なり、読書に影響を及ぼす。
放送通訳者としてまだ駆け出しだった頃、智幸さんは『冬の鷹』(吉村昭)と『二つの祖国』(山崎豊子)という2つの歴史小説を読み、作中に登場する通詞や通訳たちの生き様やあり様に「通訳としてのロールモデルを見いだそうとしていた」という。

智幸さんが「登場人物に通訳者のロールモデルを重ねて読んだ」という『二つの祖国』。その隣には「石光真清の手記4部作」が並ぶ。「明治から大正にかけてシベリアや満州で諜報活動にあたった人物の一生を、息子さんがまとめたものです。胸に響くいい作品です」


「『冬の鷹』は『解体新書』の実質的な翻訳者である前野良沢の物語で、オランダ語通詞が登場します。一方の『二つの祖国』は、東京裁判で通訳チェックを務めた日系二世の伊丹明をモデルにした小説です。自分が通訳者になり、通訳者の視点で本を読んだのは、この2冊が最初だったと思います」

早苗さんは社会人になって以降、小説をほとんど読まなくなった。仕事がら時事関連の本を読むことが多く、ニュースに応じて読む本のテーマを変えていく。では、“根無し草”なのかといえば、そういうわけでもない。

「聖書、シェイクスピア、ギリシャ神話。この3つは英語に関わる仕事をする以上、ライフプロジェクトとして読んでいかなければと思っています」

仕事に欠かせない、聖書と愛用辞書『ジーニアス英和辞典 第5版』。辞書には書き込みがしてあり、見直すたびに「これだけ勉強したんだ」と達成感を得られる。「最終的に立ち返ることのできる辞書であり、心の支えですね。先代が隠居して、今は2代目です(笑)」と早苗さん。


重要な箇所に線を引き、読書ノートをつけるという「熟読派」の智幸さんに対し、目次やあとがきを手がかりに自分が必要とする箇所を選び、それ以外は斜め読みするという「メリハリ派」の早苗さん。本の読み方まで大きく異なるが、そんなお二人にとって読書とは?

「知見を広め、考えを深め、できればその考えを行動で具体化していく。そんな人間らしい生き方をするために必要なものだと思います」(智幸さん)

「水や空気と一緒で、なくては生きていけないものですね」(早苗さん)

一つテーマを決め、周辺に広げて読んでいくのが早苗さん流。右側に見えるのは目下、趣味で読んでいるマーラー関連本。ニュースの“大ネタ”が飛び込んでくると、このスペースは関連書でいっぱいになる。「2018年6月に米朝首脳会談があった際は、『アメリカ』『トランプ大統領』『北朝鮮』『金正恩』を書名に含む本をかき集めて読み、放送通訳の仕事に備えました」


 

(『通訳・翻訳ジャーナル』2019年春号より転載)

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