【イベントレポート】第7回翻訳ミステリー大賞はアイスランド発のミステリー『声』

出版翻訳2016.04.14

第7回翻訳ミステリー大賞授賞式&コンベンションが4月2日、東京のスウェーデン大使館にて開催されました。本賞は、2009年に翻訳者の故・小鷹信光さん、深町眞理子さん、白石朗さん、越前敏弥さん、田口俊樹さんによって創設されたもので、現役翻訳者の投票により「読者に読んでほしい翻訳ミステリー作品の年間ベストワン」を選出します。

というわけで、『通訳・翻訳ジャーナル』編集部員が授賞式&コンベンションに参加してきましたので、イベントレポートをお届けします!

当日は2部構成のプログラムで、第1部はトークイベント「『七福神』でふりかえる翻訳ミステリーこの1年」からスタート。翻訳ミステリー大賞シンジケート・ウェブサイトの人気連載「書評七福神の今月の一冊」で紹介した作品をもとに、書評家の北上次郎さん、酒井貞道さん、吉野仁さん、川出正樹さん、そして司会進行の杉江松恋さんが、第7回翻訳ミステリー大賞の対象となる2014年11月~2015年10月の翻訳ミステリーを振り返りました。
昨年は、ダニエル・フリードマンのバック・シャッツシリーズ(『もう過去はいらない』)、ジェイムズ・トンプソンのヴァーラ警部シリーズ(『白の迷路』)などシリーズものが多かったが、一方でエルヴェ・コメール『悪意の波紋』やマット・ヘイグ『今日から地球人』といった光る単独作品もあった、とのこと。また、M・ヨート&H・ローセンフェルト『模倣犯』、ジェイムズ・トンプソン『白の迷路』、アーナルデュル・インドリダソン『声』といった北欧ミステリーの人気も健在でした。

続いて、フランス語翻訳家の高野優さんが主宰する「フランス語翻訳教室」で開催した、「第2回フランスミステリ未訳短編翻訳コンテスト」の結果発表が行われました。これは、日本ではまだ紹介されていないフランス&フランス語圏の作家・作品の発掘を目的に、同翻訳教室の修了生を対象として、2014年度より年1回開催しているものです。応募作品の中から内部投票で上位作品を決定しています。2回目の開催となる今回は、39作品の応募があり、投票による上位5作品、高野優推奨作品2作品が入賞となりました。第1位は、『おじいちゃんと孫夫婦』(ボワロー・ナルスジャック著、川口明百美訳)でした!

「今後も、アンソロジーが編めるくらい、たくさんのフランス語の短編を翻訳していきたい」と高野優さん。

次は、全国の翻訳ミステリーファンの投票によって決定する「第4回翻訳ミステリー読者賞」(全国翻訳ミステリー読書会有志主催)の結果発表です。誰でも投票できる賞です。全129人の投票の結果、『声』(アーナルデュル・インドリダソン著、柳沢由実子訳)が第1位に選出されました。

『声』は、アイスランドの作家アーナルデュル・インドリダソンの作品で、アイスランドの首都レイキャヴィクを舞台にした犯罪捜査官エーレンデュル・シリーズの邦訳第3作目。世界で累計1000万部を突破している人気シリーズです。アイスランド語からスウェーデン語に訳されたものを、柳沢由実子さんが日本語に翻訳しました。

訳者の柳沢さんが登壇し、受賞のコメントを述べました。柳沢さんは『声』と同シリーズである前作・前々作『緑衣の女』『湿地』も翻訳しており、その2作品は女性に対する暴力が激しい作品です。どんな人が一体どういう意図でこの作品を書いているのか気になった柳沢さんは、海を渡ってインドリダソンさんに会いに行ったそうです。実際に会ったインドリダソンさんは堂々とした、優しくて寛大な人で、「本当の作家というのは知ったことすべてを書き切る。これくらいでいいか、といういい加減なことは決して許されない。女性への暴力がどれほどひどいことか男性に知ってほしい。犯罪の被害者たちである女性がさらに凌辱を受けることはあってはいけない」と話してくれたそうです。「その言葉に心服しました」と柳沢さん。そして、「鋭い切り口や重いテーマを扱った前作2作品に比べて、『声』は地味な作品です。こういった静かな作品が日本の読者の皆さんに受け入れられたのは、とても嬉しいです」と受賞の喜びを語りました。同シリーズは未訳が10作品以上あり、柳沢さんが今後も翻訳を手がけていくそうなので、心待ちにしましょう!

読者賞受賞の喜びを語る翻訳家・柳沢由実子さん。

読者賞の副賞として手筒花火型トロフィーが贈られました。火薬を入れればそのまま使えるそうです。

そして、いよいよ「第7回翻訳ミステリー大賞」の発表です。リアルタイム開票ということで、現役の翻訳者たちが最終候補作5作品をすべて読んだうえで投票した全62票ひとつずつを、投票者のコメントも紹介しながら開票していきます。大賞は、15票を獲得した『声』(アーナルデュル・インドリダソン著、柳沢由実子訳)となりました! 読者賞とのダブル受賞です! おめでとうございます!
再び柳沢さんが壇上へ。「まさかこんなことになるなんて。賞なんていただいたことないので励みになります。ありがとうございました」

会場は満員。ミステリーファンや候補作の翻訳者・編集者が見守るなか、開票していきます。

翻訳ミステリー大賞のリアルタイム開票。作品名が読み上げられると、得票マークとしてエドガー・アラン・ポーの顔が貼られていきます。

第7回翻訳ミステリー大賞は『声』に決定!

翻訳ミステリー大賞シンジケート事務局代表の翻訳家・田口俊樹さんより表彰状を贈呈。

『声』の版元である東京創元社のマスコットキャラ「くらり」と翻訳ミステリー大賞のトロフィーを手に写真撮影中です。

第1部の最後は、「ヨハン・テオリン氏記念講演」です。ヨハン・テオリンさんは、故郷スウェーデンを舞台に、その風土・季節と犯罪をめぐる人間模様を巧みに織り交ぜた作品を書くミステリー作家。『黄昏に眠る秋』にはじまるエーランド島4部作が、今年3月に翻訳出版された『夏に凍える舟』で完結しました。世界各国で高い評価を得ている人気作家による講演です。

東京は初めてだというヨハン・テオリンさん。いつも9~17時はパソコンの前に座って、執筆しているそうです。

アイデアを書きとめているノートも披露しました。エーランド島4部作の主人公イェルロフのモデルはテオリンさんのお祖父さんだそうです。

ヨハン・テオリンさんの講演後にはサイン会が行われました。

スウェーデンの文化の大半は、アメリカやイギリスからやって来たものだったそうです。それは犯罪小説全般も同様で、イギリスのアガサ・クリスティやアメリカのレイモンド・チャンドラーの影響を受けてきました。その流れが大きく変わったのがマイ・シューヴァルとペール・ヴァールー夫妻によって1965年に発表されたマルティン・ベックシリーズの第1作『ロゼアンナ』だとテオリンさんは言います。ストックホルムで起きた犯罪を題材に小説が書かれるようになり、アメリカ小説の模倣ではなくなったそうです。やがてテオリンさんも影響を受けたヘニング・マンケルが登場する、というわけです。
一方で、テオリンさんは日本の文化にも強い影響を受けたそうです。そのひとつが小泉八雲。テオリンさんが八雲を意識して書いたホラー小説『還り路』は、『GRANTA JAPAN with 早稲田文学 03』に収録されています。そして、幼い頃に読んだ江戸川乱歩の『芋虫』と映画『モスラ』も印象に残っているそうです。現在はストックホルムを舞台にした小説を執筆中とのこと。

私は参加できなかったのですが、第2部は会場を移し、懇親会が行われました。東京創元社、早川書房、藤原編集室、扶桑社、文藝春秋の編集者による出版社対抗ビブリオバトルも開催されたようです。

会場のスウェーデン大使館の近くには綺麗な桜が咲いていました。

第7回翻訳ミステリー大賞 結果

大賞 『声』アーナルデュル・インドリダソン著、柳沢由実子訳/東京創元社

koe

2位 『偽りの楽園』(上下)トム・ロブスミス著、田口俊樹訳/新潮社
3位 『もう過去はいらない』ダニエル・フリードマン著、野口百合子訳/東京創元社
4位 『悲しみのイレーヌ』ピエール・ルメートル著、橘明美訳/文藝春秋
5位 『ゲルマニア』ハラルト・ギルバース著、酒寄進一訳/集英社

第4回翻訳ミステリー読者賞 上位6作品

1位 『声』アーナルデュル・インドリダソン著、柳沢由実子訳/東京創元社
2位 『もう過去はいらない』ダニエル・フリードマン著、野口百合子訳/東京創元社
2位 『ゲルマニア』ハラルト・ギルバース著、酒寄進一訳/集英社
2位 『その罪のゆくえ』リサ・バランタイン著、高山真由美訳/早川書房
5位 『悲しみのイレーヌ』ピエール・ルメートル著、橘明美訳/文藝春秋
5位 『エンジェルメイカー』ニック・ハーカウェイ著、黒原敏行訳/早川書房

第2回フランスミステリ未訳短編翻訳コンテスト 結果

1位 『おじいちゃんと孫夫婦』ボワロー・ナルスジャック著、川口明百美訳(Boileau Narcejac「Acroche-Toi Pépé」)
2位 『フォレスティ氏の午後』ピエール・シニアック著、澤田理恵訳(Pierre Siniac「Les après-midi de monsieur Forestier」)
3位 『緑の部屋の謎』ピエール・ヴェリ著、竹若理衣訳(Pierre Vèry「Le mystère de la chamber verte」)
4位 『駄本』エリック=エマニュエル・シュミット著、江村論実香訳(Eric=Emmanuel Schemitte「Les mauvaises lectures」)
5位 『いいはなし』ピエール・シニアック著、川瀬順子訳(Pierre Siniac「Une bonne place」)
高野優推奨作品
『向かいの女』ジャン=バティスト・バロニアン著、森田有美子訳(Jean=Baptist Baronian「La femme d’en face」)
『マーブル模様のコーヒー』フランソワ、プリウール著、光森ちづこ訳(Francois Priour「Du mabre dans le café」)

公式ホームページ
★翻訳ミステリー大賞シンジケート
★翻訳ミステリー読者賞
★高野優フランス語翻訳教室