第5回 プロの通訳者としての振る舞い

通訳者のキャリア形成2018.02.06

前回はフリーランスの会議通訳者について重要なポイントを説明しましたが、今回は通訳倫理およびプロとしての振る舞いについて取り上げたいと思います。
通訳倫理としては、大きくわければ「守秘義務」と「通訳品質の担保」ということになると思います。

守秘義務―通訳実績には注意を

守秘義務とは、秘密保持契約のある無しにかかわらず業務上知り得た情報をその会議に参加している以外の方に漏らしたり、自分の利益のために利用してはいけないということです。そんな事は当然わかっていると思われるかもしれませんが、クライアントは皆さん以上にとても神経質になっています。いただいた資料の取り扱いも仕事が終わったから、またセミナーなどで公開になったからといって安易にリサイクルゴミとして処理しようものなら大変です。処理については面倒でも必ずエージェントもしくはクライアントに確認をすることです。

悩ましいのが自分の通訳実績の提示の仕方ですが、新しい仕事の依頼で実績を求められたときは、充分注意が必要です。メディアに開示されているような会議やイベントであればまだしも、社内会議や随行などの場合、固有名詞の記載は基本的には不可ですが、そもそも社内会議の依頼で同様の実績があるかどうかが重要な場合もあります。その場合は業種のみで社名を記載しない、かつ会議名も一般的な名称にするなどの配慮が必要でしょう。

品質の担保―新ジャンルには注意を

通訳品質の担保とは、充分な準備を怠らず正確な通訳に努め、また現場の環境が阻害するものであれはプロとしての提言をすること、さらに自分の実力以上の仕事は引き受けてはいけないという事です。

たとえば自分の実績になるからと言って、基本的な知識がない初めての専門分野の会議で討論中心の会議などを軽い気持ちで受けては、クライアントにとって、また同じブースに入るメンバーにも迷惑です。
決して新しい分野に挑戦することを否定しているのではなく、プロとしてパフォーマンスを出せる内容・条件なのか吟味しなくてはなりません。初めての分野であっても充分な準備勉強ができる目処があるならば、果敢に挑戦することは通訳者としての成長に不可欠な事で、大いに推奨します。一部を除いて多くのエージェントは、残念ながら通訳者の技量を正確に判断して、その仕事が可能であるという確信でオファーしているわけではないことを理解していなくてはなりません。

受注時には案件の目的と趣旨と環境を理解

次に、通訳倫理とは別にプロとしての振る舞いで重要な点についてもお話ししたいと思います。
まずは仕事のオファーが来た時に、その会議や案件の目的や趣旨と環境を理解して受諾しているかということです。そこが足りないと間違った準備をしたり、エージェントやクライアントとのコミュニケーションの齟齬が起こりやすい事になります。

たとえば、セミナーの通訳ひとつをとっても、聴衆が専門家なのか、一般なのか、子どもなのかなどで当然準備が異なります。専門家の場合専門用語はそのままのほうが良いと言われることも多いですし、子どもであれば難しい言葉を避けるなどの配慮が必要ですから、自ずと準備する語彙が異なるはずです。また英語圏ではない外国人の方向けの日本人のスピーチを通訳するときは、あえて難しいレトリック的な表現やイディオムを避けるなどの配慮があるでしょう。
通訳は英語で”interpretation”です。つまり発話者のメッセージを「解釈」して聞き手に伝わるように工夫することがプロの仕事と言えます。

また通訳を必要としている方がどのような立場で参加しているか、キーノートスピーカーなのか、討議に参加するパネリストなのか、発言しないオブザーバーなのか、セレモニーでのサービス対象者なのかなど。
もちろん、対象に関わらず最善を尽くす訳ですが、資料をどこまで要求していくかに関わります。すべてキーノートスピーチ原稿と同じ熱意であらゆる資料を要求した場合、クライアント側は閉口するでしょう。何事もバランス感覚が必要だということです。

エージェントやクライアントとのコミュニケーションを

当然このような情報を得るためには、エージェントお74a463d85a3bb2a0baaa569d9e64d712_sよびクライアントとのコミュニケーションが重要になります。会議やイベントを成功させるために同じ船に乗っている共感を引き出すことが至難の技ですが、これがあると間違いなく全員が持っている力以上のパフォーマンスを生み出すことができます。
そのためには想像力を最大限に活用することです。

エージェントやクライアントの担当者から会議やイベントの趣旨や環境の情報を得るためには、ある程度の想定をして聞くことで、担当者の負担を減らすことができます。担当者の置かれている状況も想像することによって、たとえば対応が遅いことへの理解も生まれます。もちろん流行りの忖度ばかりしていたら、必要な資料も入手できずパフォーマンスに影響がでますので、段取りを想像して早めの問い合わせアクションが肝要です。
また会議の目的や参加者や会場から想定した、ふさわしい服装というものもあります。同時通訳のブースだからと気を抜いていると、現場での打ち合わせやクライアントへのご挨拶での印象があとを引く事もあります。プロであればこそ、細かい点ですが留意すべきところでしょう。

お互い人間なのでミスもありますが、信頼関係を構築できれば、相手のために喜んでしたいという気持ちに繋がっていくものです。言葉使いひとつで人間関係は変わります。言葉のプロとしてその点はぜひ心に留めて置いていただきたいです。

次回はよく質問される通訳者の適性についてお話ししたいと思います。