第2回 インハウス通訳者でスタートするのは
「急がば回れ」

通訳者のキャリア形成2017.12.04

将来会議通訳者になりたい、または今勉強中ですという方から「どうすれば早く会議通訳者になれますか」という相談をよく受けました。ちなみにここでいう会議通訳者というのはいわゆるプロとしてフリーランスで案件ごとに仕事を受ける通訳者を指しています。これは前回のコラムの③案件ごとに専門エージェントに手配される業務委託契約のフリーランス通訳者のパターンです。
相談者が学生の方やまだ社会人経験が少ないかたにはインハウス通訳者としてスタートすることを勧めてきました。その理由について説明します。

インハウスでビジネス知識が身につく

前回のコラムで時代的背景にふれましたが、30年以上前の頃は大学生で通訳専門のスクールに通い修了後に会議通訳者としてすぐにデビューする事も珍しくはない時代でした。もちろん通訳スキルが優れていれば実力がものを言う世界ですから会議通訳者にとって年齢は関係ありません。しかしながら現在の通訳の仕事はいわゆる国際会議場のブースに入って同時通訳を行う仕事よりも、ビジネス現場や社内会議での通訳の件数のほうが多くなっています。その際には社会人として身につけておく一般的な知識や常識が重要でものを言うことになります。1bf185b95b362d81053dd713c8eb9452_m

たとえば外国人投資家に随行して事業会社を訪問する仕事を例にとってみましょう。
事前に訪問先の事業会社のことはウエブサイトでそれなりに勉強して臨むことができますが、もし社会人の経験が無かったとしたら、外国人投資家の方との打ち合わせの仕方、訪問先の受付から事業会社のご担当者へのご挨拶まで不安はないでしょうか。
また次回もお願いしたいというリクエストをクライアントから得ることは通訳者にとって仕事を増やす上で大事なことです。通訳スキルはともかく、立ち居振る舞いが気に入らないので次回は別の方と言われては残念です。次回のリクエストをいただく要件としては通訳スキルが高いことも重要ですが、クライアントとのコミュニケーションがスムーズなこと、いわゆるヒューマンスキルも大きなポイントになります。通訳という仕事は専門職ではありますが、サービス業である事をぜひ認識していただきたいと思います。

その観点からみると、直接雇用のインハウス通訳者は、基本的には事業会社の社員ですので社員教育としてのビジネスマナーや社内組織に関わる知識は身につける事ができるでしょう。会社によっては通訳の業務頻度が低く、翻訳やそれ以外の様々な業務と兼任することもあるかもしれませんが、通訳以外のお仕事もビジネス上の知識と経験を得られる大きなチャンスであると思って取り組んでみることをお勧めします。
つまり、将来的にフリーランス通訳者になりたいとしたら「急がば回れ」でインハウス通訳としての社会人経験が財産になるということです。

インハウスは慣れに注意

ただし気をつけなくてはいけないことがいくつかあります。
就業先が固定されているインハウス通訳ですので、その会社の商品知識や通訳業務での社内用語ボキャブラリーが集積して行くために、完全な資料がなくても、また通常の一人で可能な時間を超えても通訳ができてしまうという状況が生じます。参加者が毎回同じで継続会議であればあるほど、慣れもあり正確さを欠いたり、外国人役員のための日本語から英語への通訳など片方向の頻度が多くかつウィスパー(※)が多いとスキルのバランスを欠いてしまうという傾向も出てきてしまいますので、その点は将来のキャリアチェンジを考えるならば留意すべき点だと思います。その懸念がある場合は民間のスクール等の利用をして通訳スキルを定期的にブラッシュアップしておくことをお勧めします。

直接雇用でなくても派遣で事業会社のインハウス通訳者として経験を積むという選択肢もありまますが、その点は次回に説明したいと思います。

(※ウィスパー:通訳が必要な対象者が1名や2名の場合、会議の進行を妨げないように耳元で囁くように小さい声で同時通訳をすること。同時通訳機材を使わないため聞き取りが困難で通訳者にとっては大変労力を使い正確性を求めるのは困難。尚対象者のみが通訳音声を聞くことが出来る反面、第三者の客観的なパフォーマンスのチェックは出来ず、誤訳に気がつかないこともあります)