第7回 通訳を取り巻く録音問題

通訳者通信fromロンドン2017.11.06

今回は、通訳を取り巻く録音技術の多様化とこれに付随する問題点について。この件については、実はここ数年、私の中で気になることとして、ずっと考えてきた(というより現在進行形)ことであり、日本国内外の通訳仲間や先輩たちと折に触れて話し合ってきた事柄です。

通訳を取り巻く録音問題とは何か? 

端的に言うと、おもに通訳パフォーマンス(注:訳出の録音・録画記録)の二次使用の問題です。ライブストリーミングであれ、収録であれ、何度も繰り返し通訳パフォーマンスが消費されうる時代となっています。一口に二次使用、著作権侵害と言っても、録画の場合は肖像権も関わってきて一筋縄ではいかないので、知的財産権と括ったほうがいいかもしれません (このように、録音問題もこれはこれで一括りにはできない大きなテーマではあります)。

また、通訳者の訳出を無断で録音する、半永久的に二次利用する…といった問題以外に、無断で録音、つまり「秘密録音」されること(盗聴と同じ)。それをどういう風に利用されるかわかったものではない。つまり、会議出席者のみの間でその日その瞬間にのみ共有するはずのコンテンツが「だだ洩れ」になっている、「お客様の機密情報が外部に筒抜けになっている可能性も否定できない」という由々しき問題なのです。

ここでは問題提起の機会ととらえ、通訳にまつわる録音問題について取り上げてみたいと思います。

時間が勝負の通訳、正確さが勝負の翻訳―変わりゆく時代

ここ最近でも、私の周りで「通訳×録音」に関わる事件(事象)は増えています。
日本在住の通訳者の話では「二次使用がない限り、あるいは申告されない限り(!)、ICレコーダー、ビデオカメラ持ち込みは当たり前で、建前として「二次使用」する場合は、予めエージェントと合意し別途料金を支払うということになっている」そうです。ただし話を伺った通訳者本人はこのような経験はなく、別途料金が通訳者にも還元されるのかどうかは不明だ、と。

兎にも角にも、まずは「事前に了解を得ること」。つまり、事前に了解を取り付けることの重要性を双方が理解し、常日頃から意識して取引するようにすることが大切だと思っています。案外、双方(!)が、「知らなかった」「考えたこともなかった」「この程度で問題(対象)になるとは思っていなかった」…そういうことが多いのではないかと思います。

だからといって「知りませんでした」で済まされる問題ではありませんが。私は著作権はもちろん、人格権の侵害でもあると考えています。
ではまず、「通訳を録音する」というとどのような種類があるでしょうか。

社内用録音–ミーティング、面接

社内でミーティングに参加できなかった人のために、あるいはレポートを書くためにミーティングの内容を録音するというのがよくあるパターンです。社内限定使用なら許諾料の対象ではないと考える人が少なくない気がします。しかしながら、AIICのMemorandum(最後にリンク掲載)にあるとおり、最初の誤解としてお話ししたいのが「通訳パフォーマンスを録音しても議事録代わりにはならない」ということです。

もうひとつの誤解は、「通訳するのは一回なのだから追加の手間はかかっていない。何故、追加料金を取られなければならないのか」というもの。その言い分が通用するのなら、著作権などこの世に存在しないと思うのですが…。

議事録を取る代わりに録音 ?

つい先日の問い合わせでは、ICレコーダーのマイク端子と接続して録音してもいいですか、と訊かれました。簡易機材を使用した同時通訳の案件だったのですが、自社の顧客へ情報提供を正確に行うべく補助として念のため聞き返して活用するというものでした。
この時、昨年ネット上で見つけたブログ記事のことを思い出しました。その投稿の趣旨は、海外出張時の国際会議で同時通訳が入るときは、無理してメモを取らずに会場で渡されるワイヤレスのガイド受信機を使って、片方だけのイヤホンが渡されるがそれを自前の両耳用のイヤホンと取り換える。その片方を自分の耳に、もう片方をICレコーダーにつないで録音してしまえばいい、と指南する内容でした(唖然)。

他にも、同通用の受信機を2台借りて、自分で聞くためと録音で使うマイクを近づけるためにそれぞれ使うという同様の記事があり、このような手口が密かに横行しているのかも知れません(呆然)。

また、ICレコーダーを机上に取り出せばさすがに警戒される、でもスマホなら怪しむ人はいない(少ない)。ということから、事前に確認を取ることをおろそかにするばかりか、スマホは録音しているかどうかの見極めが難しい、つまり怪しまれる危険性が低いので堂々と録音できる、ということまで囁かれているようです。何なら、盗聴用のアプリまであるという始末。

取材同行通訳、インタビュー内容の録音に伴う通訳録音

政府委託の調査や視察など、ヒアリング調査の通訳の際によく録音されますが、調査主があとでレポートを書くために使うことが目的です。同業者の友人と話したところ、このような場合には拒否したことはないとのことでした。また、ここで全体のミーティングを録音するレコーダーの他に、別のレコーダーを通訳者の近くに置こうとするお客様もいます。

ヒアリング調査はもちろん、マーケティングリサーチ(フォーカスグループなど)でもいつも録画・録音されています。さらに、インタビューを行う部屋と別に通訳部屋がある場合は、その部屋にもICレコーダーを置いて録音させてくれというお客様も。通訳パフォーマンスだけを「別録り」できることが当然のことと思われているようなケースもあるということです。

念のため録っておきたい気持ちは確かにわからなくはないのですが、既に録音しているのなら、通訳部屋まで入り込んで録音することを許可することにはちょっと抵抗があります。マイクを切っても(coughボタンを押したりOFFにしたりしても)、ずっとONの状態でいることになりますから「自分の体のすぐ近くにICレコーダーを置かれて、椅子の軋む音でも紙の擦れる音でも、どんなノイズも録音されてしまう!」と気にしながら通訳を続けるとなると、とても気が休まらないですよね。

繰り返しの視聴が想定される通訳録音

生(ライブストリーミング)と後日視聴と大きく二つに分けられますが、テレビ番組に生放送と収録放送があるのと似ています。見ている人にとっては生放送の1時間も、収録放送の1時間も、経過するのは同じ1時間です。

日本在住の通訳者からの実例を挙げると、ある学会の通訳の条件として、同通の日本語を「そのまま」学会のウェブサイトに画像と共にアップするという仕事のオファーがあったがどうすべきか、後日再録音させてくれるのならまだしも、その場の録音をそのまま使用されるのはちょっと抵抗がある、ということでした。

テレビなどでも、生放送1時間分の制作と収録1時間分の制作はびっくりするほど違うのです。収録の場合は、テレビ番組やラジオ番組、CMでも、ほんの数分のために何時間もかかるのが普通です。ところが、ライブの場合(仕込みにたっぷり時間がかかったとしても)実際に映像を撮っているのは1時間です。

これが通訳に何の関係があるかというと、収録の通訳とライブストリーミングの通訳は、同じ「通訳」とは言っても、違うということ。収録の場合は作り込みができますが、生放送の場合はできません。走りながら考え、考えながら走る。

収録では編集したものを流しますが、ライブの場合は本番中に編集することは基本的にできません。このように「通訳を録音する」とは言ってもまったく異なるのですが、視聴者(聴取者)は意識していないので、何か慣れない事態が生じた場合、理解できません。

「声に紛れて雑音が入る」、「発言(通訳)が、ちょっと間が空いている」というような「違和感」を感じるはずです。それはラジオ番組のようにスタジオで録音しているわけでもなければ、台本があるわけでもないからです。しかし、これが受け手の感覚では、すぐにはピンとこないのですね。

メイクアップアーティストが「ナチュラルメイクが一番難しい」と言うのを聞いたことがある読者もいらっしゃるかも知れません。「自然な感じ」を作り出すのは不自然なことの積み重ね。それだけ、とても難しいのです。
写真を撮るときに自然な明かりを人工で作り出したり、自然な感じを出すためには影を消したりせねばならず、様々な方向から光を当てて影ができないようにしますが、それと同じ理屈です。

ロンドン市内の仕事 ブースの中で

ロンドン市内の仕事 ブースの中で

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