第12回(最終回) 単語と文法という基本に立ち返る

現代文学翻訳コンテスト2017.10.01

最後に

 僕は、日頃は大学の文学部英文学科で働いていますので、翻訳に興味がある、アメリカ文学に興味があるという学生さんと教室でよく一緒になります。今回、そうした教室とはまた違う場所で翻訳の文章に触れることができ、新鮮な発見が毎回ありました。さまざまなバックグラウンドをお持ちのみなさんの訳文やコメントに触れるにつけ、言葉の後ろには常に人がいて、その人の持つさまざまな思いがあるのだという、当たり前のことを実感できたのも、僕にとってはとても大きなことでした。

 僕は小説を翻訳する時間が純粋に好きですので、この先も文芸翻訳はずっと続けていくつもりでいます。機会があればノンフィクションでも絵本でも挑戦してみて、そのたびに一から翻訳を勉強できれば、というのが今の僕の希望です。そうした場のどこかで、またみなさんと、あるいはみなさんの言葉と出会うことがあるかもしれません。そのときを楽しみにしています。一年間お付き合いいただきまして、どうもありがとうございました。

 

現代文学翻訳コンテスト バックナンバー

第1回 翻訳とは嘔吐である

第2回 原文の語順をどこまで尊重するか

第3回 「目」の語りと「耳」の語り

第4回 現在形で書かれた原文を訳すには

第5回 比喩・仕草・会話の訳し方

第6回 父親がバッハのメロディに乗せて歌った歌詞を訳す

第7回 いかにもアメリカ的なスモールタウンの風景を訳す

第8回 軍事用語の比喩で表現された子どもの世界を訳す

第9回 イメージとテーマを訳語にどう反映させるか

第10回 冗長さと簡潔さ、語りの出し入れを調整する

第11回 人称と話法の調整――翻訳で臨場感を演出する

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