第6回 海外のエージェントについて その2

通訳者通信fromロンドン2017.09.25

今回は、前回に引き続き、海外のエージェントに関して紹介します。

6.支払いについて

支払期日ですが、イギリスでは何も言わなければ請求日から、あるいは業務完了時から、30日以内に支払わなければならないことになっています。これ以外の条件を希望する場合は、双方、前もってやり取りをし、事前に自分の条件を明確にしておく必要があります。
GOV.UK-invoicing and taking payment from customers

支払い遅延や不払いについては、期日とおりに払ってくれるところ、数日遅れることはあっても最後はちゃんと払ってくれるところ、期日は過ぎるけれど催促をしたらすぐに払ってくれるところもあります。催促を何度かしないと支払われず、毎回のように遅れがち、それでも結局は耳を揃えて払ってくれるところも。しかし、日本のエージェントと比べると、海外のエージェントは遅れがちのところが多いかも知れません。
私個人の経験では、請求書を送ってから支払いがあるまで、2~3カ月がたってしまわないよう、定期的にリマインダーや電話を掛けるようにしています。少額裁判所に持ち込み寸前までいったことは1、2度ありますが、幸い一度も完全に踏み倒された、とか、取りはぐれたことはありません。ちなみに請求書には、支払い遅延の発生に対して、延滞料を明記しています。

ただ、期日を過ぎたからと言って、即座にけたたましく催促攻勢をかけると関係が不必要にこじれかねません。少し気持ちに余裕をもって、1日や2日遅れたくらいで取り乱したりせず、同時に逃げ道を与えない気構えと段取りが必要です。効き目のある督促状など用意しておく、いざとなったら相談するのはどこになるのか……予め書き留めておくといいと思います。保険みたいなもので、そこまで用意しておけば、実際には使わずに済むものかもしれません。〝 Expect the best, prepare for the worst” の教訓どおりです。

また、あまり時間をおかずに回収するようにしている理由は、不払いの状態とは家賃の滞納と同じで、時間が経てば経つほど、回収不能のリスクが高くなるからです。担当者がただうっかりしていただけかもしれませんし、悪質にも、こちらが忘れていれば払わないつもりだったかもしれません。いずれにせよ、遅れれば遅れるほど、延滞料がかさんで相手にとっても支払いが困難になってきますし、そうでなくとも、実は経営状態が悪かったことを知らないでおかしいなと思っていたら行方が分からなくなった、なんてことにならないとも限りません。

会社の場所も重要
エージェントの会社がどこで登録されているのか、というのも大切な情報です。オフィスの住所はイングランドでも登記情報を調べたら、スコットランドだったということもあります。イングランド、ウェールズであれば、少額裁判所の手続きはオンラインで出来ます。しかし、スコットランドだった場合、オンラインでの申請は無理で、管轄の裁判所(sheriff court)に出向かなければなりません。こうなるといよいよ大変なので、私はそうなってしまうまでに、初めて取引するエージェントで、会社登記の住所がスコットランドなどの場合、いつもよりも念入りに信用調査をして取引するか見送るか決める、あるいは、直受けの場合、前払いでいくらか払ってもらうよう交渉するようにしています。

期日を過ぎたけれども入金の確認が取れない場合、どうするか。期日の翌日に問い合わせの電話を入れる、数日待ってからやんわりと注意を促す…。人によって考え方、やり方は異なるでしょう。私の場合は、今は1、2日待ってから「どうなってますか~?」程度に、少しやわらかめのリマインダーメールを送り、その時の対応次第で次を決めています。ただ、私はきっちりと全額支払いが完了するまで決して諦めないので、コンスタントに計画的にリマインダーをかけます。

報酬決済の方法についてですが、銀行振り込みがほとんどですが、小切手もあります。また、国をまたぐ場合は銀行手数料や日数もかかることからPayPalで対応してくれるところもあります。クレジットカードで支払いというのは、日本のお客様以外では私個人はあまり経験がありません。

また、振込手数料は何も言わないと通訳者持ちになることもあるので、負担したくなければ事前に交渉しておく必要があります。ただ、相手側が額面どおりに振り込んでくれた場合でも、受け取り側で為替手数料等が発生。金額が目減りすることはあります。これは、皆さんもよくご存知のとおりです。

7.標準的な取引条件と契約書・同意書の注意点

標準的な取引条件について書こうと思いましたが、それだけで大幅に長くなりそうなので、取引条件や契約書に署名する際の注意点については、改めて7回以降のテーマに絡めて書きます。ただ、ここでは海外のエージェント相手であるが故に、契約の進め方で、私が日本のエージェントと違う点で気を付けていること。それは、まずプロジェクトマネージャー(エージェントの案件担当者、以降プロマネ)が、どういうバックグラウンドなのかを知ることです。
まさか、プロマネに「あなたのバックグラウンドは何か」と訊くわけには行きません。でも、その会社の求人情報(応募要項)をチェックすることで、通訳や翻訳の経験者を採用しているのか、それともプロジェクトマネージメントのバックグラウンドを持つ人を採用しているのか、判断できます。

また、海外のエージェントでは、ほとんど社会経験がない学生上がりの若い人が、プロのフリーランス通訳者になるまでのステップとして、まず通訳(翻訳)エージェントのプロマネになるというパターンも多くあります。私自身も感じていたのですが、他言語の仲間も、ここ数年は特にその傾向が強くなっていると話しており、プロジェクトをマネージするというよりは、伝書鳩。右から左へ、左から右へ、これではバケツリレーをやっているのと変わりません。エンドクライアントの意向を吟味したり(顧客教育も含まれる)ソリューションを提案したり、案件のスペックと通訳者とを調整する能力が問われる仕事です。それなのに、まるで他人事のように、自分の役割が分っていないのではないかと思わせる人。いわゆるコーディネーションのできないコーディネーター(プロマネ)であることも、残念ながら珍しくなくなってきました。

エージェントやコーディネーターとの付き合い方
通訳の話からは少々逸れますが、海外のエージェントのバケツリレー型のプロマネが翻訳の仕事の振り方の特長として、金曜日の16時過ぎに連絡してきて、締め切りが月曜の朝9時というような案件を振ってきます。「土日があるじゃない?」「フリーランスだから土日も祝日も関係ないでしょ」と端から思っているのです。こういう案件は、わかっていること以外にも問題が潜んでいるもので、ボロボロと後になって出てきますから、プロマネの仕事に対する意識を早めに見極めて、請けるか請けないか、判断することが肝要だと思います。

海外のエージェントの担当者は悪気はなかったのかもしれませんが、受注の時点で詰めが甘いので(聞き取り、推し量る能力の欠如)結果的に末端、つまり通訳者に無理を押し付けることになってしまう。資料が出ないことも珍しくありません。資料かと思ったら、延々と何十枚も本社・支社含めた全社の組織図だけが送られてきたなんてことも。こんなエージェントは近寄るな、と言いたいところですが、本当にエンドクライアントの事情が原因のこともあり、当日が近づいてこないと、どうにもわからないこともあります。だからこそ、こちらのコートに打ち込まれたボールを相手側のコートに打ち返すこと。「資料が来なかったら断ります。資料とは(かくかくしかじか)、(いついつ)までに入手できなければ、直前でも断ります」と、最初から、明確に「おことわり」を入れておく、こともできますから。最初からはっきりと伝えておくことが重要だと思います。

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