第10回 冗長さと簡潔さ、語りの出し入れを調整する

現代文学翻訳コンテスト2017.08.01

フローネクその後

 今回の物語でもそうですが、妙なシチュエーションが何度も反復されることで笑いを生み出すというのが作者であるサックスの持ち味で、それはこの作品においても容赦なく追求されていきます。つまり、フローネクの不幸はまだまだ続くことになります。

 戦争も終わって数日後、プラハで彼はまたも「食事中の事故」に遭って親指を、そのひと月後にはもう一回「食事中の事故」で薬指を失います。すでに片腕を失っていますから、残る指は二本しかありません。しかし、不屈の父親はそれでもあきらめずに〈二本の指のための協奏曲〉を作曲し、その演奏は、音楽的には疑問符をつけられたものの批評家たちを圧倒します。ところが彼を待っていたのは「狩猟中の事故」で、右腕の肘から先を失います。フローネクはこうして両腕を失ってしまいました。任せとけ、とばかりに父親は〈二本の肘のための協奏曲〉に取りかかりますが、その完成を待たず、フローネクの溺死体が川で発見されるという展開を迎えます。しかし、それでも父親は諦めず、息子が死体になっても弾けるピアノ協奏曲の完成を目指し……。

 という次第です。最後にタイトルである“Concerto for a Corpse”の意味がわかってくる、というじわじわ可笑しい物語です。

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