さまざまな翻訳の基礎を学び、ゲームの翻訳へ

リレーエッセイ2017.02.21

私が翻訳者への道の第一歩を踏み出した瞬間――それは、大学3年生だった1999年、就職活動を意識し始めたときでした。当時はいわゆる「就職氷河期」。どんなことであれ、仕事にするのは甘くないという現実を目の当たりにした私は、その甘くない世界で戦い続ける情熱を保てるぐらい、自分の得意なものは何だろう、と考えました。そして思い立ったのが、英語と日本語の読み書きの力を生かせる「翻訳」だったのです。

翻訳スクールの基礎講座で成績優秀賞をいただいたとき、就活せずに翻訳の勉強を続ける決意が固まり、大学卒業後は派遣社員として働きながら、翻訳学校に通い続けました。出版翻訳者を目指しつつ、実務翻訳のクラスも受講しながら、ひたすら新人向けの出版翻訳コンテストに応募しては撃沈される日々。あの頃の私は、「仕事をするにはまず新人コンテストで入賞しないと通用しない」と思い込んでいて、それ以外の入り口を探そうなどとは思いもしませんでした。ずいぶん遠回りをしていたなあ、という気もしますが、今思えば、この時期にいろいろな分野の翻訳のノウハウを学んだことが、のちにゲーム翻訳者として仕事をするうえで、大きなプラスになったと思います。

求人でたまたまゲーム翻訳に出会う

大学卒業から3年ほど過ぎた頃、ふと思い立って翻訳者の求人サービスを見たところ、「コンピューターゲームの翻訳者募集」という文字を発見しました。子どもの頃からいろいろなゲームを遊び倒してきた私ですが、当時はまだ英語圏で制作されたゲームを日本語にローカライズするというケースは少なく、ゲームを訳す仕事があること自体、初めて知りました。すぐに応募してトライアルを受けたところ、合格をいただき、さっそく仕事が始まりました。幸い初仕事から担当の方に高く評価していただき、それ以降も、ほぼ切れ目なく仕事を依頼されるようになりました。

少し慣れてきた頃にIT系の翻訳エージェントとも取り引きを始め、実務翻訳との二本柱で回していた時期もありましたが、2010年頃からはゲーム翻訳のセミナーに積極的に足を運ぶようになり、懇親会でご挨拶をしたエージェントの方から直接ご依頼を受けることも増え、以降は、受注する案件のほぼ100パーセントがゲームになりました。

スクールでの経験がゲーム翻訳に役立つ

ゲームの翻訳には、映像、出版、実務、すべての分野のノウハウが必要です。ユーザーインターフェイスやマニュアルなどは実務翻訳に近く、台詞まわりは映像翻訳に近くて、場合によってはリップシンク作業も必要になります。ゲーム内に小説や新聞や百科事典などが出てくれば、それらしい文体で訳さなくてはいけません。初仕事から今まで、ゲーム翻訳メインで生きてこられたのには、スクール時代にいろいろな分野の翻訳の基礎を築いてあったことも、大きな助けになったと思います。

大型タイトルのゲームはテキスト量が数十万ワードに上ることも多く、必然的にチームでの分担作業になります。一方、近年、特に活気の出てきたインディー系開発会社の作品などは、数万ワード規模のものも多く、一人の翻訳者で訳しきれる量です。新人の頃はほとんどが大型タイトルの仕事でしたが、プロになって10年目を過ぎたここ数年は、インディー系の案件を一人で一本担当することも多くなってきました。その場合、ローカライズのディレクションまですべて任されることもあり、「ただ翻訳だけしていればいい」というわけにはいかず、プレッシャーも大きいですが、プレイヤーの皆さんに楽しんでもらえたときの喜びはひとしおです。

数年ごとに次世代機が発売され、時代と共にどんどん進化していくゲーム。それをローカライズする翻訳者も、一緒に成長していく必要があります。今の私があるのは、間違いなく、子どもの頃から遊んできたゲームたちのおかげ。お婆ちゃんになっても、お客様から「あなたにお願いしたい」と言ってもらえるように、技術の進化に負けない成長を続けていける翻訳者でいたいと思います。

『通訳・翻訳ジャーナル』2017年冬号より転載★