第2回 イギリスやヨーロッパで通訳者になる方法

通訳者通信fromロンドン2017.02.08

イギリスの大学における通訳コース

私が通っていたロンドンメトロポリタン大学の大学院の通訳コースでは、まず入学前のAptitude Test(適性テスト)があります。英語スピーチのテストと逐次通訳のテストがあったと記憶しています。

多言語混合のクラスなのですが、求められる英語のレベルが高く、どうしても言語別のグループの規模に人数の差ができてしまいます。ちなみに日本語グループは少人数。年によってばらつきがあるものの、テストを通過する志願者は非常に少ないようです。ただ、そのとき合格できなかったとしても、力をつけて再度挑戦することが可能です。

受講期間はフルタイムで1年、パートタイムなら2年。モジュールが6つあり、1年に3モジュールずつ選択します。一口にイギリスの大学の通訳コースと言っても、大学によりかなり違いがあるようです。ロンドンメトロポリタン大学の通訳コースを例にとると、逐次通訳のモジュールが1つ、会議通訳(同時通訳)のモジュールが2つ、その他に通訳理論、通訳の職業環境についてのモジュール(どうやって市場に参入するか、など考察)、PSI(公共サービス通訳)のモジュールがありました。

ヨーロッパの通訳者は原則的に大学院で通訳専攻のMA(Master of Arts:修士号)学位、あるいはPostgraduate Diploma(ディプロマ)を取らなければいけません。その他、大学の通訳コースで取れる資格にはやショートコースを受講して取る修了書(Certificate)、セットになっている3モジュールを修了するPostgraduate Certificateがあります。

大学では逐次と同通を同時に始める

日本の通訳学校とイギリスの大学の通訳コースでは、内容にも違いがあります。日本の通訳学校では逐次通訳から始め、クラス(レベル)が上がるにつれて、徐々に同時通訳に進級するところが多いのに対して、イギリスの大学の通訳コースでは、逐次通訳と同時通訳の勉強をほぼ同時に始めています。厳密にいうと、まったく同時に始めるのではなく、逐次通訳の勉強が先に始まり、その少し後に同時通訳についての手引きが始まります。

通訳訓練はパブリックスピーキングから

通訳コースが始まった日のことを、今でもよく覚えています。クラス全員の前でスピーチをするように言われたのが、衝撃的だったからです。適性テストで英語のスピーチはしましたが、実際の通訳の授業で「スピーチをしてください」と言われるとは、思ってもみませんでした。戸惑いましたが、のちにその理由が理解できました。

それは、生のコミュニケーション、つまり録音や録画のスピーチではなく、学生が目の前で行うスピーチを訳すこと、そして何よりも、通訳者自身が優れたスピーカーであること、その自覚を持つことが(一般には知られていないけれど)実は大切だからです。人前で立って話すとき、気づかぬうちにやってしまう癖が誰でも一つや二つあるものです。声の出し方、立ち方、アイコンタクト、身ぶり手ぶり、表情、そして話のまとめ方や間の取り方まで。

「え、通訳にそんなスキルが必要なの?」という声が聞こえてきそうですが、そうなのです。パブリックスピーキングが苦手では、よい通訳はできないと言われています。スピーカーがすばらしいスピーチをしていても、その横にいる通訳者が、うつむいたまま、ボソボソと言語情報だけ送り出したとしたら、通訳したと言えるでしょうか。せっかくのスピーチも台無しになってしまうことでしょう。ですから、通訳者が優れた話し手であることは、重要なことなのです。

イギリスならではのモジュール

先ほど挙げた6つのモジュールの中にPSI(公共サービス通訳)があります。PSIは日本などでは「コミュニティ通訳」と呼ばれていますが、正確にはこの二つは同じではありません。地域社会に暮らす人々のための通訳との点は同じですが、PSIは公共サービス、つまり公的機関に関するもの(報酬は税金から賄われる)です。一方、コミュニティ通訳は必ずしもそうではなく、地域に暮らす(その国=受入国の)言語を介さない人々に関わる通訳、だからです。

さて、このモジュールにはHealth(医療)とLegal(警察および法廷通訳)の、2つの選択肢があり、私は後者を選択しました。Legalを選択した学生は、入国管理・警察・刑法と民法における通訳とEngland and Walesの法体系の基礎的な部分、つまり通訳者が知っておかなければならない部分を勉強します。

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王立裁判所(上)とロンドンの郊外にある地方裁判所(下)。 PSI(公共サービス通訳)の授業ではHealth(医療)とLegal(警察および法廷通訳)の、2つの選択肢があり、筆者はLegalを学んだ。

王立裁判所(上)とロンドンの郊外にある地方裁判所(下)。PSI(公共サービス通訳)の授業ではHealth(医療)とLegal(警察および法廷通訳)の、2つの選択肢があり、筆者はLegalを学んだ。

本番の会議さながらの環境で同通練習

授業は全言語共通の理論の授業と言語別の授業があり、中でも会議通訳の実践では、模擬会議を通じて授業が進められます。大学には常設の通訳ブースがあり、模擬会議ではスピーカーが生で発言するのを学生が通訳します。ペアでブースに入るので、交代の仕方や機器の扱い方も同時に練習できます。発言の言語もいろいろです。例えば、英語以外の言語のときは英語がピボット言語(Pivot Language)となり、まず他の学生が英語に訳すのを待って、日本語に訳しますが、発言(つまり起点言語)が日本語の場合は、日本語ブースの学生(自分たち)が英語に訳し、他の学生は私たちのリレーを取る練習をします(リレー通訳)。

イギリスやヨーロッパでの、リレー通訳の具体的なお話などは、3回目以降で取り上げようと思います。

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