第1回 日本と違う?! イギリスの通訳事情

通訳者通信fromロンドン2017.01.19

2007年に日本からロンドンに移り、それ以来、主に通訳者として仕事をしてきました。日本からイギリスに移ったことで初めて気づいたことや驚いたこと、日本とは異なる事情などについて、ご紹介していきますので、どうぞお付き合いください。

ロンドンの街角

ロンドンの街角

その前に簡単に自己紹介から・・・・。そもそもなぜイギリスで通訳をすることになったのか。ひとことで言うと、独りで周りに助けもなく子育てと仕事を両立するには、日本よりも「定時に帰る」外国のほうが暮らしやすいだろうと考えたこと、それが理由です。
日本では、外資系企業のインハウス通訳者として、またシングルマザーとして、仕事と子育てに追われていました。
一時体調を崩したことや子どもの英語教育のことなど、いろいろと考えた末、子どもが小学校を卒業するタイミングでイギリスに移住することを決め、同時に自分もフリーランス通訳者として新しい土地で仕切り直すことにしました。ロンドンには住んだことがなかったので不安もありましたが、子どもにとっても私にとってもチャンスだと捉えて飛び込みました。親子3人、失敗や回り道をしながらも、今年で10年になります。
現在の通訳の仕事は、日本に限らずイギリスや他国のエージェント、さらにクライアントから直接請ける案件も多くあります。内容は、駐在員のご家族など個人のお客様の依頼から、政府レベルの国際会議までさまざまです。イギリス国内に限らず、大陸欧州各国、遠くはアフリカ大陸や中東まで出向く案件もあります。多くはないものの、日本に行くこともあります。

「いくつ外国語が話せるの?」

イギリスで通訳をしているとよく聞かれるこの質問。日本に住んでいたときは聞かれたことはありませんでした。それぞれの言語レベルは別としても、欧州では言語が2つや3つ話せることは珍しくなく、外国語を話すことを生業とする通訳者ともなれば、「さぞかし外国語が得意だろう」、転じて「いくつも話せるに違いない」と思われているようです。

「外国語を知らざるものは自国語をも知らざるなり」というゲーテのことばは真実のようで、特にイギリスも日本も、外国語を苦手とする国であるためか、通訳の仕事に対する誤解が多く、「外国語が話せる」イコール「通訳ができる」という思い込みも根強い気がします。実際に、日本語以外の通訳者は何カ国語も話せます。私のまわりにも、英語 – ドイツ語 – ポーランド語(3ヶ国語)の通訳者、イタリア語 – ドイツ語 – 英語(3ヶ国語)、仏・伊・西・英(4ヶ国語)、アラビア語 – イタリア語 – フランス語 – ロシア語 – 英語(5ヶ国語)などがいます。また欧州連合で、フルタイムで働くスタッフは(ちなみに通訳職ではない)英仏独の3言語で支障がなく業務がこなせる(Working Languages)ことが前提だそうです。

もう一つの誤解として「通訳するのに内容の理解は必要ない」というものがあります。通訳とは言葉を置き換えるだけなので、内容を事前に理解する必要はない、と思われている気がしてならない瞬間があります。以前、コーヒーを買いに入ったあるお店で見知らぬイギリス人の客が「いずれキーボードを打つと、その端から外国語に変換される日が来る!そしたらものすごく便利だね!」と繰り返し店員に力説している様子を見かけたことがあります。その店員は外国人だったようで、そのお客の話には同意しかねているようでした。店員と私は思わず顔を見合わせ、二人で黙って呆れてしまったことがあります。

自分も相手も同じ言葉を話すと端から思っている人が多く、自分の言語が通じない状況に慣れていないのでこのようなことを言い出す人が出てくるわけです。イギリスの人は通訳の扱いに慣れていないことが多く、外国語ができれば会話も文章も訳せると思っています。アメリカでも基本的に英語なので、同じ誤解をしている人が少なくありません。また、外国語が話せることと通訳ができることは別だと知っている人はほとんどいません。このあたりは日本も同じです。

反対に、大陸欧州でスイスなどの多言語地域に行けば、普段から通訳を介した会話に慣れているのか、多言語という文化環境がそうさせるのか、通訳者の使い方が比較的上手です。個人差はありますが、逐次通訳のときは話が長くなりすぎないように適度に止めたり、通訳を終えた後、続きからスムーズに発言を再開できたりなど、通訳者から見れば、英語話者や日本語話者のお客様よりも呼吸が合わせやすく、通訳しやすいように思います。

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