第13回 お客様をご案内中の雨対策

通訳ガイド行脚2008.07.16

雨の日は、傘より合羽
外国のお客様は小さな雨はぬれても平気

紫陽花が美しい梅雨の季節です。“What’s the name of that flower?” 日本庭園でお客様からの質問に答えられなかった若きガイドの日。反対に自分からお客様に”What’s the name of that flower in English?”と先手を打って尋ね、ちゃっかり教えていただいちゃったことがありました。Hydrangea…そうか国が違ってもやっぱりhydro-という接頭語をつけて水と関連させたネーミングなんだ、と一人で感心した記憶があります。

日本ではポツリポツリと雨粒を感じると「それ傘だ!」と慌てます。「明日は雨」という天気予報を聞けばホテルのベルキャプテンに傘を人数分借りることができるかどうか尋ね、朝出発前に雲行きが怪しければ傘の束をバスに積んで雨に備えたりします。観光中に降ってこようものなら、傘を求めて少し大回りしてでもコンビニに立ち寄ようかなどと考えるのが通訳ガイドです。

ところが案外、外国人のお客様は傘を求めようとしないことが多く、ガイドのほうが戸惑うこともあります。折りたたみ傘持参のお客様というのはもともと少ないのですが、むしろ雨合羽や、女性の場合はビニール製の携帯スカーフのようなもので雨を凌ぐというスタイルが多いように見受けました。「ちょっとやそっとの雨ならば濡れても平気、なんでこの程度の雨にそう騒ぎ立てるの?」という反応もありました。日本より乾燥した地域の人々にとってお湿り程度の雨は「雨=傘」の図式がないのかもしれません。

とは言っても、強い雨では誰しも気が落ち込みがちです。通訳ガイドはできるだけ明るい服装や表情を心がけましょう。自然の景観美を楽しむはずだった場所では絵葉書やポスター写真を持参して「好天の場合はこうですよ」と見せたりする工夫をします。屋外の訪問地の代替案が可能ならば、博物館などの建造物訪問が良策でしょうし、どうしても屋外を歩くのであれば屋根のある場所で雨を避けながら、まとめて周囲の説明をしてしまうなどの配慮が必要です。そんな日はお買いものの時間がたっぷりとれるチャンスかもしれません。

1回もお客様をバスから降ろすことなく終えた
大雨の日の驚異のバスツアー

台風が接近中の大雨の午後、私は半日の東京都内観光を担当したことがありました。都心にあるホテルを出発して明治神宮、皇居、浅草という決められたルートをめぐり、ホテルに戻る指示を受けましたが、明治神宮に到着する頃には外は音を立ててのザーザー降り。「さあ、バスを降りて行きましょう」という私にお客様の反応はいまいちなのです。「何が見えるの?何ができるの?何分歩くの?」「片道10分、往復急いで30分かな?」と答えると「この大雨の中、誰か行きたい人いるか?」の大声が。すると私の顔色をうかがうようにしながら”No!”“No!“の声が連発。「では、行きたい人だけついてきてください」というと、「30分も待つのは嫌だわ」「そんなに待たせたくないよ」…「わかりました、では明治神宮は停まらずにパスしますか?」恐る恐る尋ねる私に、「ブラボー!」バス内は予定を変更した私の決断にむしろ歓喜の声。せっかく来たのに明治神宮を見せてあげられないなんて悪いなあと思い、私もバスの中では普段以上に頑張ってあれも、これも、力いっぱい内容の濃いガイディングをしました。

次の目的地の皇居前。「Yoko、バス降りなくてもここから二重橋見えるよ。土砂降りの中歩く意味がない」の声にお客様は一同異議なし、といった顔つきでうなづいています。…では、と、いぶかりつつも、景色が少しでも見えるようにゆっくり通り抜けてパス。そして、せめて浅草は仲見世の賑わいもあるからいくらなんでもバスから降りるだろうと思った雷門の前で、雨はさらに激しくなったのでした。「Yoko、パスしよう」「パスしよう、もしYokoさえ良ければ」の連呼。ついに35名の満席のバスのお客さまをガイドしながら一度もバスから客を降ろすことなく、私はただ一人2時間半バスの中で喋りまくって予定の1時間も前にホテルに戻ってきてしまいました。

最後に訪問地で下車しなかったことについてもう一度「大雨のためにすみません」と謝ると、お客様からは「よくやった」とお褒めの言葉が。それまで経験したことのないような大拍手が鳴りやみませんでした。そして、その日のガイド日当が倍になるくらいたくさんのチップまでいただいてただ驚きの経験でした。一見手抜きガイド?とも思われそうですが、思い切って早くホテルにもどってゆっくり過ごしてもらう、お客様の状況によってはそれがベストの時もあるものです。

雨天は雨天のガイドのしかたがあります。足もとが滑らないように、“Watch your step, it’s slippery!”を連発しながら、今日も全国で通訳ガイドさんが頑張っていることでしょう。テルテル坊主のお話でもしながら。