第27回 茶道ガイディングの心得

通訳ガイド行脚2009.09.16

茶室ではお客様に体験していただくことをメインに。
必要な説明は茶席に入る前に済ませましょう

2009年9月6日に開催された日本初の通訳ガイドコンベンションでは、茶道がテーマのワークショップも盛況でした。会場にはいると上品なお香の漂う演出が参加者を別世界にいざないました。略式ですが掛け軸と、秋の茶花、そして当日の茶会を祝う「千里同門和」(離れていても同じ志の者が和を創る)という意味深い文字の書かれた御扇子が飾られたお席で、立礼式でのお茶がふるまわれました。

Tea ceremonyというとどうも私達はお茶のいただきかたの作法に気が取られ、緊張してしまう傾向があります。外国人客の場合はなおさらです。誰もが頭を低く、腰をかがめて入室するにじり口のことから、茶室内の建築に自然の素材さを表す「わび・さび」(これは一言では説明不可。シンプルで質素な中に心の豊かさを感じる…のご説明が必要ですね)、畳の数で表現される室内の広さ、そして床の間を中心としたセッティングの意味あいなど、ついつい外国人客に対しては丁寧に解説してあげたくなるのが我々通訳ガイドのDNAです。

亭主(茶席でのhost)が入室してからの茶道具の一つ一つ、所作のひとつひとつもどんな意味合いがあるのか、ほぼ生中継スタイルでガイディングをしていた時が私にもありました。「へえ~、なるほど」と、不思議そうでありながら納得したようなお客様の反応に自己満足を覚えていたのかもしれません。

しかし、そのワークショップの担当者、和服の似合う師範許状所持者は、茶室では大声で説明をするものではなく、和敬清寂の静けさを体験すべきなのだと強調しておられました。ということは、通訳ガイドはできるだけ茶室に入る前に時間をかけてじっくりと説明を終えておくことが必要ということになります。そして「ああ、さっきガイドが言っていたことはアレね!」という感じで納得していただくのが適正なやり方なのでしょう。どうしてもその場で言わねばならぬことは囁くように静かに。アッ、これは神社の拝殿の中、そしてお寺の中でも同じマナーですね。

茶道の手順やマナーの説明は
細かくならぬよう、楽しんでいただけるよう

菓子が出されお茶が出される頃になると、やはり外国人観光客は即席で学んだ通りにできるかどうか不安がつきまといます。そんな時、本来は床の間に近い上座、正客席には一番重要なお客様が座る席ですが、そこに通訳ガイドがモデルと割り切って着席してしまい、お抹茶の頂き方を実際にやってみせ、それを他の外国人客が真似する形で進めるのも案外スムーズなやり方です。おもむろに掛け軸やお道具について尋ねるなどの言葉を亭主と交わし、それを静かに通訳して差し上げるのであれば自然に場に馴染んだ流れとなりましょう。間違っても大声で「右に2回まわして3口で最後は吸うように飲みほして」などと号令をかけるように叫ばぬように。

ちなみに右に2回茶碗を回すのは、お客様に向けられた御茶碗の美しい模様やデザインの正面を避け、少しずらした位置で口をつけるためです。飲んだ後は口をつけた茶碗の飲み口を指で軽く拭き取り、その指を予め持参した胸元あるいは(ポケットの中にしのばせるなど)の懐紙で拭きます。また、取り分けたお菓子が食べきれない場合は懐紙に包んで持ち帰りましょう。個人客であればお客様一人に一枚ずつでも渡せるように予備の懐紙を用意しておくのも親切ですね。

通訳ガイドはお客様の模範となるわけですから、茶の心を伝えるためには、茶の湯の心得も多少あることが望ましいですね。扇子、懐紙と楊枝(黒文字の楊枝が出される場合もありますが)、足袋代わりの白い靴下は、“今日は茶席がツアーに含まれている”というガイド日の必携グッズ。茶席に入る前の心得として、指輪を外す(お道具を傷つけないため)、写真のフラッシュをバシバシたかないなどの注意をする…など。あまり細かく言いすぎて観光客が引いてしまわぬよう注意しながらも、ほんの短時間の体験を有意義に正しく楽しんでいただけるようにしたいものです。