SNSが縁でゲームローカライズに出会う

リレーエッセイ2016.11.24

そもそも翻訳者になるつもりはなかったし、一度は廃業もしたのです。それが今ふたたび翻訳を仕事にしているのは、煎じ詰めればゲームとインターネットのおかげといえます。

ゲームの趣味が高じて初の訳書に

学生時代の趣味は、輸入物のテーブルトーク・ロールプレイングゲームを遊ぶこと。テーブルゲームの一種で凝ったものはルールブックが分厚い書籍になっていて、装丁も美しく、読み物としても楽しいのです。

英語のままでは誰も一緒に遊んでくれないので、日本語の資料を作るのですが、そのうち翻訳自体がおもしろくなり、気がつけば300ページ超の書籍を1冊訳しきっていました。

ところが、そのゲームシリーズの公式日本語版が発売されることに。今までの苦労が無になったようで悔しくなり、ブログに「自分に翻訳を任せてくれればいい仕事をするのに」と書き殴りました。それを偶然、公式日本語版の出版社の方が見て、そんなに自信があるなら訳文を見せてごらん、というコメントを付けてくれたのです。

ええ、送りましたとも。300ページ超の大判書籍、まるまる1冊ぶんの訳文のテキストファイルを。

幸い先方はおもしろがってくれ、それがご縁で東京でゲーム書籍の翻訳をさせていただくことに。本が企画から書店に並ぶまでの過程を目の当たりにした経験は今も役立っています。3年後に事情で実家に戻ったのは本当に残念でした。

前職がニッチすぎて転職に困る

帰郷して困ったのが就職です。地元の翻訳会社を回っても「うちにはゲームや書籍の案件は来ないから……」とトライアルすら受けられず門前払い。翻訳者としてのキャリアは終わったものとあきらめ、出版社での経験を活かして校正者になりました。

この頃、とある英語のオンラインゲームを遊びはじめましたが、日本語の情報が不充分なのに業を煮やし、自分で翻訳した情報をブログでゲーム友達に共有していたところ、日本人プレイヤーの非公式情報源のようになってしまいました。

お金にはならないけれど、自分の翻訳をみんなが喜んでくれるなら、もう職業翻訳者に戻れなくてもいいや……と思っていました。

SNSの縁からゲームローカライズ、VRに

ツイッターを始めたとき、多少の未練と好奇心から何人かの翻訳者のアカウントをフォローしたところ、そこから2011年に思わぬ話が舞い込みました。「取引先の翻訳会社がオンラインゲームを翻訳できる人を探している。ゲームや翻訳に詳しそうだが、仕事をしてみる気はないか?」と。

そこで初めてゲームローカライズという翻訳分野があることを知り、数年ぶりにフリーランスとして再び翻訳者に復帰することになりました。

不思議なもので、いったん認識してみるとツイッターで同業者が次々と見つかり、一緒に食事をしたり、情報交換をすることも増えました。翻訳会社やゲーム開発者、メディアにも名前を覚えてもらうことができました。

最近話題のバーチャルリアリティ(VR)を知ったのもツイッターのご縁。教えてもらった3年前に、開発機を使ったVR体験会に飛びこんで以来、夢中になって毎日ツイッターで関連ニュースを紹介していたら、とうとう仕事先にまで「VRに詳しかったよね? 仕事やる?」と聞かれるようになりました。

自分の得意分野を知ってもらう

ツイッターは宣伝手段というより、個人的に興味深かったネット記事のメモに使うのですが、実名でやっていることもあり、「この翻訳者はこの分野に強い」と自然に覚えていただく効果をあげているようです。

ゲームローカライズは、ゲームの開発と並行して作業を進めることも多く、担当する工程によっては実際の画面を見ないまま仕事を終える翻訳者も少なくありません。しかし、ここ数年のツイッターには、そういう困難やそれを小さくする努力についての投稿も増えてきました。SNSは翻訳者をつなぐだけでなく、翻訳の質を高めるのにも役立っています。

『通訳・翻訳ジャーナル』2016年秋号より転載★