第34回 ガイディング練習と本番の間にはだかる高い塀の超え方

通訳ガイド行脚2010.04.16

2-3分の枠で話題をまとめて一人練習をしましょう
新人にお薦めしているガイディングの練習法は、2-3分間の枠で話題をまとめてガイド実習をすること。「2分では短すぎる」というご意見もごもっともですが、実は新人の場合は、最初から長時間をダラダラと話すよりも短時間でも充実したガイディングができるような練習をするほうが、基礎トレーニングの意味から効果的で、2-3分程度がちょうど良い時間配分なのです。

例えば浅草がテーマであれば、浅草界隈の歴史や浅草寺の概要について全体を2分でコンパクトにまとめるという方法もあれば、ある一カ所だけ、雷門だけ、仲見世だけ、香炉だけなどについて語ることもできます。

全体概要をコンパクト2分で仕上げるのは、通訳ガイド現場では実はよく使われる手法です。たとえば浅草に向かっているバスの中で、到着する直前に全体像を伝えておき、バスを降りたらその場その場の詳しい説明をしていきます。「もっと聞きたい」という反応を感じたら即座に1分、2分と、その場で細く話題を加えていけばよいのです。バスの中でも小さなパーツ話の積み重ねで20分のトークが出来上がっていきます。

現場ではお客様とのコミュニケーションの間があるので
予定の何分の1も言えないことも

さて、新人研修でいざ実習をやってみると、2分では「準備していた原稿の半分くらいの内容しか話せなかった」という人が大多数を占めるのです。恐らく書きあげた原稿を自宅で読み上げてみた段階では、だいたい時間通りに納まったのでしょう。しかし、実際に人前で口に出して言ってみると、同じ内容でも2分では納まりきれなくなってしまうのです。それは一体なぜでしょう?

原稿を読み上げる練習時は、お客様となる聞き役相手がいないので、一方的な語りになりがちです。自分中心のペースでスラスラと言葉が流れます。けれども自分のガイディングを聞いてくれる相手がいると、「相手に聞かせ語りかける」という2 wayコミュニケーションをめざすことになり、相手の反応を確かめながら進めなければなりません。アイコンタクトを取りながら、相手が相槌や返事をしてくれたりうなずいてくれたりすると、こちらもそれを受け止める一瞬の時間が必要です。これを無視してしまうと、いわゆる難しくて眠くなる講義のような堅いガイディングになりがちなのです。

言葉の一つ一つもわかりやすく、ということは練習中よりもペースをおとし、特に固有名詞などは相手の反応を見ながら普段の2倍ぐらいにゆっくりと話したいですね。また相手の反応によって、言葉を補ったり、時には話の予定を変えて枝葉の話題に膨らませていくアドリブの技も期待されるので、当然ながら思いのほか時間がかかるのです。

丸暗記は想定外の事態に弱い
2分間練習の積み重ねとポイント台本がガイディング力アップに

さらに、本番になると練習時には気づかない点があります。本番中原稿をできるだけ見ないで暗記した内容をしゃべろうと思うと、最初はスラスラかっこ良く滑り出しますが、途中、ふとした緊張や雑念が入って言葉が詰まってしまうことがあります。丸暗記であればあるほど一度踏み外すと頭が真っ白になってしまって、次に話す言葉が浮かんで来ない。最悪のケースとなってしまいます。“Well, let me see…”.とか、「えっと~」「あ~」「ん~」など意味のない音が続いてしまうこともよくあります。その結果、準備したことが時間内に言い切れなくなり、まとまりのない印象で終わってしまうという悲劇に見舞われがちです。

それを避けるためには2つ方法があります。

① 話題は箇条書きにしておく
原稿は一言一句ダラダラと書くのではなく、言い出しやすいように最初の文章や途中のキーセンテンスを、スラスラ口から出やすいように原稿に書いて暗記します。でもあとの話題展開については、文章ではなく、ポイントを箇条書きにしてまとめておくのが適策です。「あ、次はあの話題にだな」と自分で思い出せる程度にし、実際の文章はその時思いついた自分の言葉でアウトプットするのです。相手に合わせて。そうしていけば説得力も出るし、語りかけているという親近感も感じさせることができるでしょう。その分、真の語学力が問われることにもなりますね。

② 言いたいことの結論を先に述べること

「浅草は浅草観音を中心にして江戸時代からもっとも庶民文化が反映したところ。現代でも昔の風情を残すところとして全国からの人々で賑わうスポットなのですよ」、また鎌倉で「この寺はモンゴルからの使者が葬られたので、日本とモンゴルとの関係に深い意味のある場所なのですよ」などと。もしも説明が時間切れになったり、話が支離滅裂的(!冷汗)になってしまったとしても、最初にポイントを述べてあれば、「ああ、結局はあれを言いたかったんだな」と、お客様は想像をしてそれなりに納得してくれることがあります。それがないと「一体、何を言いたいんだ?」と、煙に包まれてよくわからないといったストレスがたまってしまいます。語学力そのものが高くても、言う内容がまずければ良いガイドとは評価されません。セールスポイントを最初に一発!ですね。

【お薦めの練習法】
全体の概要または細分化した話題で、2分にまとめる練習を毎日継続してみましょう。ちょっと頭の中でまとめる時間をとったあと、実習をしたものを録音するのです。録音したものはその場で再生して聞かず、一晩寝かせます。頭が冷静になった翌日、まず前日の録音を聞いてみましょう。下手くそだったとしても聞いているのは自分だけだから怖いものなし。「お~頑張ってるじゃあないか」などの自分なりの評価もでるでしょう。直後にきくよりも客観的に判断ができるのです。そしてその後に、本日のテーマについてまた2分間、一度リハーサルして2度目に録音。全体で10分で完了です。

1ヶ月継続したらかなり慣れて、度胸と実力アップが見込める(?)お薦めの2~10分の練習法です。

実際に現場で口に出せるのは準備した情報の60%もでれば良いほう。10%しかないときもあります。常に実際にガイドする3倍・4倍、それ以上の情報を引き出しに持っていたいものですね。