第11回 しっかり働き、しっかり遊ぶ

通訳者のメンタルトレーニング2016.11.09

遊んだら成績が上向いた棋士

かつて加藤正夫という囲碁棋士がいました。若い頃から豪快で攻撃的な打ち回しから「殺し屋」と呼ばれて活躍していましたが、なぜかここぞというところで勝てない。(何度もタイトルが手に届くところまで行きながら、優勝決定戦では敗北を重ねました。一時は囲碁界最強といわれながら、1個もタイトルがとれない時期がありました)

悩んだ加藤は、同門で兄弟子である石田芳夫九段(現・二十四世本因坊)に相談しました。「どうしても大一番で勝てません。この壁はどうやったら乗り越えられるのでしょうか?どうしたら勝てますか?」
すでに名人や本因坊などビッグタイトルを手にしていた石田は、同じプロ棋士、それもタイトルを争うライバルからの弱気な相談に驚きながらも、こう答えたそうです。「加藤君は真面目すぎる。少しは遊ばないとダメだよ」

実際、石田は若い頃から遊びに長けていました。対局はしっかりするものの、仕事が終わればギターを弾き、マンガを読み、酒を飲む。あまりの自由奔放ぶりに師匠の木谷實は、実力者として頭角を現してきた若手時代の石田の一人暮らしをなかなか許さなかったそうです(当時はまだ内弟子だった)。

真面目な加藤は石田の忠告に従って遊び歩くようになりました。するとすぐに成績が上向き、連勝を重ねて、棋士として全盛期を迎えました。14年連続タイトル保持の新記録も打ち立てたほどです。オン/オフのスイッチ切り替え、つまり交感神経と副交感神経の切り替えを学んだことにより、自律神経を整えて必要な時に気力を最大化する術を体得したのです。

“休みなし自慢”はマイナス?!

私自身、仕事とは別のことに没頭する(遊ぶ)時間を作るのは大事だと以前から考えていましたが、その時間を強制的に作るようになったのはここ数年のことです。9月~12月中旬は毎年繁忙期なのですが、週末に加えて今年は10月と11月に1週間ずつまとまった休みをとっています。11月は台湾にでも行こうかなと企んでいます。

最近はSNSで情報発信する通訳者が増えてきたのですが、「3か月休みなし!」などと自分の稼働日数を自慢する人や、来る仕事は断らないで全部受けると公言する人が散見されます。私はこれをとても残念に思います。というのは、本当に3か月も休みがなければ体力と気力の回復が絶対に追いつかないのでパフォーマンスに影響がでているはずですし、物理的に資料を読む時間がかなり限られてしまうので安定的に質の良い仕事をしているのか怪しい。繁忙期に現場で居眠り、マイクのスイッチ押し忘れが多くなるのは決して偶然ではないと思うのです。

仕事のスイッチをオフにして自分がリラックスできる時間・空間を持ちましょう。飲みすぎなければお酒でも構いません。でも飲む場合はアボカドを食べることをお勧めします。アボカドに含まれているグルタチオンが二日酔いの原因であるアセトアルデヒドの効果を消すからです。酒の臭いを残して現場に来る通訳者も一部いるようですが、この業界は狭いです。必ずバレて干されます。

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