第37回 お客さまに安心感を与える Validation(価値を認める)というコミュニケーション手段

通訳ガイド行脚2010.10.16

認知症患者と介護者間で実証されたValidation
かねてより、通訳ガイディングは一方的な発信作業ではいけないと実感しています。お客様との双方向コミュニケーションを取りながらツアーが進んでこそ観光の楽しみも、お客様の満足度も価値が上がります。そうでなければ録音した観光説明のテープを流せば事足りてしまい、ガイド不要論が出てきてもおかしくありません。

コミュニケーションを深めるためにいくつかの手法があるのですが、先日TV番組で認知症患者の症状緩和に効果のあるValidation(価値を認める)という、スイスで提唱された方法が紹介されていました。もちろん老化した脳を治療することはできませんが、Validationによって患者の精神的な保護策となり、感情の高ぶりや興奮、徘徊の原因になる不安症に55%以上の改善がみられたという有効なものです。

Validation はあらゆる接客業で有効な
Active Listening に似ている

なぜ私がここに興味を惹かれたかと言うと、Validationは通訳ガイドでも(また、あらゆる接客業で)有効なActive Listeningという手法に似ていると思ったからです。Validationでは、患者の口にした言葉を介護する者がそのまま繰り返すことによって患者に「ああ、わかってもらえている、自分の気持ちが伝わっている」と安心させることができるといいます。

「淋しい・・・」「淋しいの?」
といった風に。

そしてActive Listeningでも相手の言った言葉を自分の言葉に置き換えて繰返し、「私は、(あなたの言ったことを)・・・だと理解しましたがそれでいいですね?」と、確認して会話を続けていくのです。

「海の見える部屋に泊まりたいのです」
→「あ~、残念ながら予約してあるホテルは山側なんですよ」ではなく、
→「海の見える部屋にお泊りになりたいのですね。残念ですが~」

と、ちょっとしたことですが、繰り返すことによって相手は自分のメッセージが正しく理解されていることが確認できることにささやかな安心感を覚えます。そういった小さな安心感の積み重ねが、通訳ガイドへの大きな信頼感を育て、それによってお客様はいざ一大事のトラブルがおきた場合にも好意的に協力姿勢をみせてくれたりするものです。

Active Listeningは、特に問題がある事態に威力を発揮します。
「予約しておいたハイヤーがまだ来ないんだけど、どうなってるんだ?!」(不安+怒)例えばこんな言葉にはどんなコメントを返しますか?
「すぐ探してきます!」と真っ青になって飛び出してゆくのもいいですが、
「え?予約されたハイヤーがまだ来ないのですか!それはいけませんね、すぐに確認してきます」
と、言葉を加えたほうが確実感が出ます。
「今日のランチは美味しかったねえ」 
これも単に「それは良かった」でもいいですが、「今日のランチ、美味しかったんですね!それは良かった、嬉しいです」と言えばしっかり投げられたボールがキャッチされています。

もちろん程度の問題がありますから、すべてをオウム返しのように繰り返しては逆効果となり得ます。言い方の表現にバラエティを出して、でもしっかりお客様の気持ちを確認していくのはツアーのオペレーションの基本条件ではないでしょうか。

そうそう、もうひとつValidationには大切な条件がありました。笑顔を見せることです。笑顔がどれほど安心感を与えるものか、たとえ何か失敗しても笑顔を見れば気持ちが救われるものです。一生懸命真面目にガイドをしても、顔がひきつっていたり、真剣=怖い顔になっちゃっていないかどうか見直してみませんか。常に口角(口の両端)の筋肉をちょっと上につり上げた表情を仕事中のホームポジションにする、これは慣れて無意識にできるようにしたいものです。通訳ガイドの付加価値アップに効果大ですよ。