第98回 人力車は観光サービスのプロ

通訳ガイド行脚2016.10.19

観光客を観察して声をかける
浅草、鎌倉、嵐山…全国の有名観光地では、タクシーのように客を待つ人力車が並んでいる姿がよく見らます。車夫も昔ながらの衣装を身に着けて元気でカッコ良く、Rickshawと呼ばれて目を引く名物です。英語対応OKであることが多く、音声ガイドで中国語もOKという業者もあるので、日本人にも外国人観光客にもとても人気があります。東京では30分で9000円と、ちょっと高くはあるのですが、それでも地元の観光ガイドの情報がとても詳しく、車では入れないような路地もスイスイ進み、乗客とジョークを交えた会話での観光rideはとても楽しい思い出になり大好評です。人力車を使ってのウエディング、和風婚礼も伝統的な演出が特別感を創出していますね。

人力車の車夫さんたちは、観光ガイドに負けない観光サービスのプロフェッショナルです。予約客もいますが、多くは現場で観光客に声をかけて、いわゆる客引きをするところから仕事が始まります。よく相手を観察して5m離れた地点で第一声をかけ、3m地点で第二声をかけ、そしてもっと近づいて会話を始めるのですが、近づき方も相手が進む道を遮らず、客が近づくことも離れることもできるような方角から何か困っていることがないか?を尋ねるそうです。
携帯を見て天ぷらの画像が見えていたら「レストランをお探しですか?」など、相手が抵抗感なく答えられるような話しかけ方です。会話が進んで信頼が得られたら、「もしよければ人力車で観光案内しますよ」という威圧感のないイメージが大切ですが、1日に声をかけるのはおよそ300名! その中でしっかり会話ができるのはほんの20名そこそこ。断られてばかりいると心が折れてしまいそうになりますね。でも浅草などの観光振興に役立ち、観光客の手助けができればという思いが優先すると大丈夫なのだそうです。

この話を聞いた時、ボランティアでガイドする人たちやプロの通訳ガイドにも共通点があると思いました。とにかく観光客をよく観察し、その気持ちに合わせて彼らが喜んでくれることをしようという姿勢がとても大切だということです。

人力車はアメリカ発?!
真偽がわからないことの伝え方

さて、人力車の話題が出たときに、「人力車は日本の発明」と言ってよいかどうかで戸惑っていた通訳ガイドさんがいました。日本では1868年に和泉要助、高山幸助、鈴木徳次郎の3名が発明者として政府から認定を受け、1871年からは外国に輸出もされました。日本で活用される人力車の様子姿が広く世界の目に留まり、それが東南アジアにも広まって各種タクシーにも展開されていったようです。

しかし実は、それよりもっと古い時期、例えば一番古くは1848年のアメリカ、アルバート・トルマンが病弱な妻を運ぶために開発したという説もあります。他の地域でも記録があるようです。実際、人力車の定義が微妙なので、そうなるとこれは日本の発明と声高に言い切ってよいかどうか悩ましいところですね。

真偽のほどがわからない場合には、困ったね、じゃあ言及するのをやめちゃおうか、ではなく、「その時代、日本で日常的に汎用されて世界にもその存在が有名になっていった」という事実を述べ、日本の発明かどうかについては、I’d believe… だとか、I’d say…などの英語表現を利用したらよいのではないかとご提案したいです。
「(異論もあるかもしれないけれど、)私はそう思っているんですよ」
「そう思っている日本人が多いんですよ」”A lot of Japanese people think that way.”
というガイディングもありだと思うのです。

正しい歴史の説明も大切ですけれど、何十年も日本文化に浸っている日本人の一般的な考えはこうだよ、と伝えるのもそれなりに意味があると考えて、私自身も気持ちが楽になったことがあります。このテクニックはさまざまな情報を伝えるときに使えそうで、便利で安心。応用活用してみてください。

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