第41回 専門家が語る中国人の観光案内

通訳ガイド行脚2011.03.16

早春は通訳案内士の国家試験合格発表直後から新人実務研修のラッシュ。私が主宰する通訳ガイド&コミュニケーション・スキル(GICSS)研究会恒例の新人研修プログラムでも、熱心な受講生が数日間厳しいトレーニングを受けました。途中で落ち込みそうになる気持ちと闘いながら、最終日には、今まで気がつかなかった潜在的な実力が自分に芽生えるのを実感して涙する人もいました。研修のハイライトは、貸切りバスで東京都内の明治神宮、皇居、浅草という典型的コースを廻り、全員が擬似ガイド体験をする日です。日本の歴史や宗教ほか基本的な情報を一生懸命に勉強して原稿作成し、暗記・練習をして現場に臨むので、当日のパフォーマンスは気合が入ります。

各国からのツアー客の中に中国系のお客様が混在するケースも増えた昨今、今年の研修では中国人ツアーの専門家から、増加する中国人観光客の特徴について語ってもらいました。

「今日は日本の歴史や宗教について良い案内ができましたね。しかし、実は中国人はそれらについては全く関心が無いのです。浅草には行くけれど明治神宮に行く人は皆無!」
「知りたいと思うのは、日本人の暮らしについて。それも経済的な視点の情報が欠かせません。家はいくらで買える?結婚式はいくらかかる?教育費は?それらには30歳のサラリーマンの年収の○倍、とか○ヶ月分の給料といった表現で説明するのがコツです」(確かに!この手の話題は中国人でなくても各国共通の人気話題ですね。基本となる30歳の収入というのが日本ではいくらなのか?を伝え忘れないようにしなくちゃです。)

「先ほど浅草寺の仲見世を歩いていたときに漂ってきた、何かしらおいしそうな臭い、そっちのほうが断然興味があります。必ず立ち止まって何だ何だと説明を求めて試食品をつまみます。バスの中ではお菓子など食べ物を食べながらの観光が普通。それも一人で食べるのではなく、周囲の人達に分けながら賑やかに。バスの中には必ずお茶が用意されていて食べ物とお茶はセットで常備される環境が望ましい・・・」(懐かしい町内のバス旅行や修学旅行の光景がふと思い出されます)

「土地やマンションなど不動産購入に熱心な人達も多いです。それは中国では土地はすべて国有地なので自分の土地を子孫に残すという発想は有り得ません。日本ならばそれが可能、彼らにとっては夢の実現になるのです」(TVでもよく報道されている実情です。大都市の一等地のみならず、リゾート地を含めた日本各所が中国人の所有地化しているのは日本人としては複雑な気分もしますが)
「日本的な工芸品なども好んで買い求めますが、いざ“買う”と決めると“ここから1メートル範囲の棚の商品すべてまとめてご購入”というダイナミックさも珍しくありません。そうなると、ユニオンカードまたはギンレイカードと呼ばれるデビットカード類が使える店であることが必須。そして団体客の場合には、ホテルへ帰る車両に全員分の大量のみやげ物を乗せるスペースが確保されていることがポイントになります!」(これは富裕層が多い現状からですが、・・・そうかあ、みやげ物用の車両スペースを計算に入れるというのは見逃しそうな“体験者ならではの視点”でした。)

台湾からのスペシャリストは日本と台湾の食文化の違いを面白く語ってくれました。
「台湾では“食べるときは皇帝(になる)”という諺があります。食べるときは自分が一番。積極的にあちこち手を伸ばして早い速度でガツガツと食べ、喋りながらワイワイ盛り上がるのが普通。一方日本での食事は“静かにして!”と叱られる時もあって、上品に箸でつまんで食べるのが良いとされているようですね。」(給食時間「静かに食べなさい」と先生に注意されたのは昔話と思いました。が、台湾事情に比べるとまだまだ日本の食事風景は相当静かなのでしょうね。上手にお客様と付き合うマナーとして、食事中には沈黙の時間がないように配慮することだとガイド業務を通して実感します。しかし食べながら会話を楽しむというのは案外難しい時があって、口に物が入った時には即座に返事ができず、無理やり飲み込んだりして困ったものです。)
「お箸の置き方も大きく違います。“戦いに出かける皇帝”の為に、台湾ではお箸は縦向きに置きます。でも日本では横向き。」(横向きの箸が、闘争心のない穏やかさの表現だと解釈してみたらおもしろい話題にできそうです。)

グローバル化では英語圏を意識することが多かったのですが、5-10年後のためにもうひとつ新しい言語を習いたくなるような一日でした。