第43回 被災地でのボランティア通訳事情

通訳ガイド行脚2011.05.16

今回は予告内容からテーマを変更し、震災現場でのボランティア通訳事情をご紹介したいと思います。前回ご紹介した通訳案内士組織によるボランティア派遣チームからは、残念ながら4月以降は活躍の実績があまりない状況となりました。在日外国人数が突然減ってしまったこと、依頼を受けるルートや業務内容のマッチングの問題もあるかと思います。でも、今後またニーズが派生する可能性に備えて体制は整えていたいと考えています。

通訳案内士の中には個々にボランティアをしている人達がいます。今後そのような活動をしたいと思っている方々の参考に、現場からの声を集めてみました。

現場で周囲の負担なく動けることが
ボランティアの第一条件

Aさんは自分が在住する県や市のボランティアとして以前から登録をしていました。登録先から依頼を受けて東北に出向きました。Bさんは東北地方のボランティア組織に新たに登録をして現場に向かいました。いずれも交通費、宿泊費など経費は100%自己負担です。たまたま知人の実家が現場に通える地域にあったので泊まらせてもらえたとか、安い家具付きアパートを借りるとか、寝袋でもテント住まいでも、とにかく誰の世話も心配もかけずに現場で動けること、その環境を整えることも震災関連でボランティアをする際の大きな条件となります。必要経費はすべて寄付をする気持ちで負担できる心構えが必要ということです。国際会議などで活躍する語学ボランティアなどとはかなり状況が異なります。

ボランティア登録をする際に、「特技は通訳」と記載するので、通訳作業が派生したときに依頼されるわけですが、通訳依頼を待っていたというので声がかかりにくかったかもしれません。AさんやBさんに共通して言えることは、まず作業の種類を問わず、とにかくボランティアとして役に立ちたいと気持ちで現地に赴いたというところにポイントがあるように感じました。現場では援助物資の仕分け、誘導など、どんな雑務作業でも必要とされていることをやりました。すると突然、通訳が必要となる場面に遭遇し、そのまま通訳業務へと移行するのです。現場の状況がわかっているので依頼するほうも安心して頼みやすい、受けるほうも状況がわかっているので自然な流れとして現場に溶け込むことができたという両面があったことでしょう。

実際の通訳作業としては外国から支援にくるNGOやNPOのスタッフについて被災地を廻る日々が続いたそうです。最初は現場の被害状況の把握と連絡のために時には10数時間かけて各地をまわり調査をするサポートです。労働条件としては厳しい時もありますし、現場の悲惨さを目の当たりにして冷静さを保つのが大変な時もあったそうです。しかし通訳業務そのものは物理的な情報伝達なので一般的な通訳レベルで十分でした。

厳しい現場では
感情のぶつかり合いも

別の業務で、メンタルヘルス分野での会議にアテンドしてウィスパリングをすることになったり、カウンセリングの専門家について通訳をする時には、日頃使わない専門的な用語に日本語、英語ともに悩まされることになった人もいます。病名や治療法、医療器具名、これらはやはり専門のプロ通訳者でないと十分に役に立たないのではないかと辛い気分になるのです。役に立ちたい、が、実力以上の仕事をまかされてもNoと言いづらい現場では、業務に支障を来たすことのないように、迷惑をかけないレベル判断が難しそうです。震災現場では他にできる人がいなければ“やるっきゃない状況”となるでしょうが、その場合にはできるだけ早く、監督者にその状況を伝え、より適任の人材確保をしてもらえるようにしたいものです。

また、緊迫し、疲労感も漂う現場では突然、外国人が介入してくることに戸惑って、協力を得られなかったり、微妙に対立する時もあります。そういう時には、通訳者はどうしても外国人チームの一員として見なされ、クレームや感情は言葉の通じる通訳者に対してぶつけられることになります。「外国人たちは皆、善意で助けようとしているのに・・・」「私は単に通訳しているだけなのに・・・」そう叫びたくても、聞き役にまわり、対応をせねばならないのが精神的に厳しかったと述べる人もいました。

これは通訳という業務につきものの悩みです。ビジネス通訳の場であっても、気持ちを解してくれると思われる通訳者が良きにつけ悪しきにつけ情報&感情の矛先となり、通訳者は相手の気持ちも察しつつ、目的達成のために感情の処理・伝達が必要となります。人間としての成熟度が高いことが期待されますね。震災現場のボランティア・プロ(経験のあるボランティアスタッフ)は、感情のぶつかり合いも想定内として粛々と作業を進めることができるようです。

継続していくために
時には断る勇気も

「ちょっと戸惑うことがありました」
Aさんが予定日程を終了して遠隔地の自宅に戻ったときに、自宅に「翻訳お願いします」とFAXで書類が送られてくることがありました。まあ、業務の流れがわかっていて、その延長線上とすれば頼られてもしかたないかもしれません。が、ボランティアとして活動する時と、普段の日常生活時間とは区別したい気持ちは理解できます。
無理のないように、できない時にはできないと断る勇気も、継続するためには必要なことかもしれません。

セキュリティもポイントの一つです。私も東京都の防災ボランティアに登録して訓練を受けたことがあります。そのような組織では、稼働中は適用される保険があるので安心感がありました。個人で被災地に出向く場合などは、あらゆる危険性対応も考慮していただきたいと思います。

これらはほんの僅かな一部分であって、震災に関するボランティア通訳はもっと多様な面をさまざまに抱えていることと思います。良識を駆使して、役に立てるようご活躍をお祈りします。