第10回 フリーランスの真のメリットとは?

実践!ノマドライフ2016.09.20

ノマド的フリーランス論

社会人になり立ての頃、僕はすっかり自信を失っていた。地元に戻って就職したはいいが、会社に貢献しているという実感を持てずにいた。その後部下もできたが、「人を使う」あるいは協力してもらうというのがどうも苦手だった。一方で、就職活動に力を入れて希望の会社に入った友人たちは生き生きして見えた。活躍ぶりを称えながら、心のどこかで舌打ちしていた。そんな自分がますます嫌になった。

フリーランスの特権。それは時間と空間を自由に使えることだと、これまで書いてきた。通勤しなくていい、好きな時間に働けるという「フリーランスの二大メリット」のように言われがちなことも、結局はこの特権の一部だ。このコラムでは、それにとどまらず特権を存分に生かすための手段として、旅しながら仕事する「ノマド」と複数拠点で仕事する「マルチハビテーション」を紹介してきた。でもこの「特権」というのはメリットではなく、正確には「特典」つまりオマケにすぎない。ではフリーランスの真のメリットとは何なのか。「隣の芝生が青く見えなくなること」ではないかと、僕は思っている。

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僕のような煩悩深い人間が他人の成功をねたまないためには諦念(「自分には無理」)や無関心(「どうでもいいよ」)も有効かもしれないが、フリーランスという働き方が与えてくれるのは希望だ。大農園の任された持ち場で仕事をこなし、規定の報酬を得る。その方が安定はしているが、自分の持ち味を生かせるとは限らないし、いくら頑張っても見返りには天井がある。

ならば農園を飛び出し、自分のスキルを最大限に生かせそうな場所をノマド(遊牧民)のように求め歩いてはどうか。そこでスキルを磨いていけば収穫はどんどん増え、すべて自分のものにできる。だから努力次第で、きっといつかアイツと同じぐらい成功できるはず!実際そんなにうまくいくかどうかは見てのお楽しみとして、そんな希望を持ちやすい。

新しいスキルや知識を獲得するのも収穫を増やす手段の一つだ。産業翻訳にも金融、医療、ITなどいろんな分野がある。その中で掘り下げていくのもいいが、スキルや知識を掛け合わせていくことで自分だけの収穫フィールドを作れる。

例えば僕は「英語力 × 文章力 × サッカーの知識 × 金融知識 ×マーケティング知識」と掛け合わせることで、「サッカービジネスに関する翻訳」というライバルが少ないフィールドの「ニッチプレーヤー」になっている。とにかく、頑張り次第でどうにでもなる。そう思えることが大事だ。

フリーランスになって、友人や知人の活躍や出世を心から称えられるようになった。昔の嫌な自分がいなくなった。組織の中でくすぶっていた当時の他人に対するねたみは、「頑張ってるなあ!自分もやらなきゃ!」という成功へのモチベーションに変わった。体はフォーティーでも心はフォーティーン。そんな自分に変われたことが、最大のメリットだと思っている。

ノマドとマルハのハイブリッド

そんなフリーランスとして、翻訳者として、怠るわけにはいかない新しい知識の獲得。Facebookで誰かの「大人になっても勉強してます」アピールに主婦さんたちが「すごい!頑張って!」とリスペクトを交えて反応するのを見ると内心「けっ、翻訳者は常日頃勉強してるよ」と、こちらではいまだに嫉妬しているが、勉強にはノマドが非常に有効だ。

『脳が認める勉強法』(ダイヤモンド社)によると、環境を変えて勉強すると、いつも同じ場所で勉強する場合に比べて記憶の定着率が40%もアップするという実験結果が出ているそうだ。旅しながら勉強すれば、その場所の景色や風の匂いが脳にしまった情報を引っ張り出す際の手がかりになるのだ。

ただ、宿を転々としながら仕事するなんて非効率だ。かといって格安リゾートマンションを購入して仕事に集中できる拠点を自宅以外に持つという、マルチハビテーション(マルハ)はリスクが大きすぎる。そういうことなら、間をとってウィークリーマンションに長期滞在というのはどうだろうか。

今年の春は広島でそれをやった。広島を選んだのは長らく訪れていなかったのと、東京からのLCC(格安航空会社)が就航して交通費が安かったから(往復1万円ほど)。そしてウィークリーマンションが比較的多く、競争により賃料が低めだから。同じ条件の都市には、ほかに高松などがある。
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(原爆ドームから徒歩圏内のリバーサイドマンション)

ウィークリーマンションのメリットとして、長期滞在するほど1泊当たりの宿泊費を抑えられる。ただ、掃除費や寝具代などの固定費をチャージされるのが一般的で、期間が短いと返って割高になってしまう。僕の場合は12日で4万6000円(光熱費含む)。1泊当たりにすると4200円。安い!と思われるだろうが、この程度なら僕がいつもノマド旅をしながら当日見つけている割安なビジネスホテルと大して変わらない。ただし週末だとこの料金のホテルはなかなかないし、キッチンがあるので食費を抑えられる。

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目的は環境を変えて勉強し、仕事に集中すること。だから、そうそう観光ばかりしてもいられないが、せっかく見知らぬ街に来たんだから、ということで毎朝ジョギングした。東京ではやらないくせに地方都市に来るとよく走るが、これをやると土地勘が得られる。そしてドームのすぐ手前に架かる元安橋を毎日のように渡り、本通商店街を毎日のように歩いた。お好み焼きを何枚も食べた。

そうやって2週間も同じ場所で過ごしていると愛着がわくものだ。その後、オバマ大統領が広島を訪問した時は胸が熱くなった。平和記念公園にゲーマーがたむろしていると聞き、どうか世界から来る人たちの平和への祈りを邪魔しないでほしいと思った。広島カープがリーグ優勝して、ちょっと嬉しかった。ほんのちょっとだけ。基本、中日ファンなので。
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(広電ノマドと宮島ノマド)