第46回 大名文化の名残を味わえる小石川後楽園

通訳ガイド行脚2011.08.16

外国のgardenと日本庭園のイメージ
夏の1日、蝉しぐれの中、のんびりと庭園散策を楽しむのも心が豊かになるものです。下見を兼ねて最近訪れた素敵な庭園をご紹介したいと思います。外国人のお客様をご案内するとすれば、どういう切り口で語れば良いのかを意識しながら玉手箱を開けるような思いでした。

ところで一口に庭園(garden)というと、欧米的には眺めて楽しむよりは、野菜や果物を栽培する場所、花を育てる場所という機能的なイメージが先行しがちです。
でもJapanese gardenはそれとはちょっと違います。その中に風光明媚な景観の縮図が表現されていたり、極楽や自然界、また人生の教えが暗示的に組み込まれるなど哲学的な奥深さ感じさせるものもあります。造園の技法に現れた日本人の知恵や配慮、自然との向き合い方など、是非通訳ガイディングによって外国人観光客にその味わいを深めていただけるよう研究したいものです。

東京ドームに隣接した小石川後楽園は、東京のど真ん中にあって特別史跡、特別名勝の二重指定を受けた点では全国でも数少ない貴重な大名庭園です。水戸徳川家の祖、頼房と水戸黄門として馴染みの深い二代目藩主の光圀によって400年程前に作られました。

Japanese gardenはlandscape garden, dry garden, paradise style garden, hill garden, flat garden・・・など様々なカテゴリーで説明されますが、多くの大名庭園がそうであるように、小石川後楽園は回遊式築山泉水庭(stroll garden)になっています。山あり滝あり池ありの庭を歩き、梅、桜、藤、花菖蒲、杜若、蓮、紅葉など四季の自然美の移り変わりを楽しみながら、大名や姫君達はここで大切な思いを込め、学びの場、楽しみの場、もてなしの場として活用したに違いありません。

所々に見られる巧みな演出効果
園内は1.4kmの1時間コースと30分コースがありますが、入り口をはいるとまずはゆったりとした大泉水の池に目を奪われます。極楽を思わせるような蓮の花が満開ですが、実は蓮の花は4日しか咲かないのだそうです。今咲いている花は明日にはもう枯れていると思うと必死で咲く花の気持ちが伝わってきそう。

大堰川の手前の石灯籠は8月初め現在でも3月の地震で倒れたままです。文化財であるため専門家による詳細な調査が必要で、簡単に手直しができません。文化財の修復は困難なのですね。
有名な円月橋と同様、西湖堤は当時は最先端のハイソサエティ趣味だったであろう中国の風物として取入れられ、また、京都の嵐山や清水、東山の風情を模したと思われるスポットも興味深いです。朱塗りの通天橋は、周囲の木が紅葉するとその鮮やかな色あいが倍増して美しさがマックスになる、滝は目前に見えなくても、かすかに聞こえる水しぶきの音でその存在を感じさせるようになっている、目隠し用の木立を一足踏み進むと突然、壮大な景色が眼前に広がる・・・など、あれこれ演出効果が計算されているのを知ると、当時の造園技術の高さに驚いてしまいます。

花菖蒲田の隣には稲田があるので、一瞬、農村に来たような錯覚を覚えます。これは日本人にとって大切な稲作の知識が深められるよう、農業に無縁の水戸家の“嫁教育目的”で稲が育てられるようになったのが始まりだったと説明を受けましたが、何だかちょっと親近感を感じて嬉しい気分になりました。今でも地元の子供たちの稲作体験に活用されています。

都心にたたずむ自然と日本の歴史
さて、庭園の一角に豪華な大名屋敷に似つかわしくない、古びた農家か居酒屋風に見える建物があるのはなぜ?実は殿様が普段足を運ぶことのできない庶民の生活感を味わって楽しめるようにと配慮された、お気に入りの場所だったそうです。古びた民家風レストランが現代人に人気があるのと同じ心理でしょうね。自分にない物への憧れ。それを実現できるのが庭園内だったのでしょう。

小石川後楽園は、当時の大名生活の側面に触れることができる美しい都心の深山幽谷でした。定期的に庭園ボランティアガイドさんによる説明案内がとてもわかりやすく、学ばせていただく点が多いです。何と言ってもガイドする場所への愛情の心が滲み出るのがお客様の心を打つのですね。

ただ、一つ悩ましいことがありました。真夏の木陰は涼しいですが、蚊に刺されっぱなし!庭園の入り口で販売されている虫除けスプレーの意味がわかりました。お客様を案内するガイドさんは必ず事前に注意を促し、一缶持っていると良さそうですね。