第48回 モラルとマナーを備えた通訳ガイドとは?

通訳ガイド行脚2011.10.16

静寂が求められる茶室でのガイド
通訳ガイドに望まれるマナー意識について、前回に引き続き考えてみたいと思います。

たとえば茶室での茶道体験も外国人観光客の人気が高まっていますが、そこで期待されるガイドのマナーとは何でしょう? 目にするものをことごとく説明できて、その歴史的文化的背景についてもスムーズに、即時、語れるのが優秀な通訳ガイドであるという概念があります。伝統的な茶室に入れば、ガイドは親切心からも、床の間や掛け軸、茶花やお道具、そして亭主の立ち居振る舞いからお点前のしぐさについてまで、はては侘び寂びや一期一会などに至るまで、事細かに伝えてご案内したくなるものです。テキパキと定位置にお客様を案内して座らせ、興味をそそる説明を始めると和やかで楽しい雰囲気が生まれます。

しかし、そのガイドの言動を受入れ側のお茶室の亭主はどのように感じているのかというと、実は「まあ外国人だからしかたないけれど、茶室では静寂が基本であり、大声でしゃべり続けるのはご遠慮願いたい」と苦々しい思いに包まれることもあるようです。

もちろん、どのタイミングでお菓子を召し上がっていただき…、抹茶をいただく前には茶碗を2回手前に向かって廻して、そしてその理由は…など説明をしなくてはなりませんが、タイミングと場をわきまえるマナーを心得たうえでの通訳案内が上質な技です。

ではどうしたら良いのでしょうか? お茶の歴史や茶室のしつらえ、お点前作法についての説明は、できるだけ茶室に到着する前にすませておき、現場では最低限の説明を、静かで落ち着いた声のトーンで行うにとどめて、客と亭主との間の心の通じ合いを図るという、茶室に見合った言動をガイド自らが示せるようにするのが理想的なのだと、茶の湯の専門家はおっしゃいます。慌しいツアー現場では理想的には運べない現実もあるでしょうが、そのことを知っているのと知らないのでは大きな違いがでるでしょう。

ガイディングは知的財産 技術習得中もマナー意識を
ガイドのマナーは、技術習得中にも必要です。熱心な新人ガイドさんは、観光地に下見に出かけるものですが、そこで先輩ガイドさんがお客様を案内している現場に出会えば、超ラッキー。先輩の技は示唆の多い良い参考になります。昔はそれっとばかり必死にメモを取りました。今は? すぐさまICレコーダーを取り出し、先輩ガイドの声を録音する手もあるのです。

でも、ちょっと待った! それは自由に許されることでしょうか? 仕事中の先輩ガイドさんに一言、挨拶をして了解を得た上ならば問題ありません。しかしながら、突然、面識もない人から録音機を向けられたら、誰も良い気分ではありません。

お客様の中にもガイドの説明を録音しようとする人が時々いらっしゃいます。観光の記録としてビデオに撮られるのは映る景色の一部となるためか不思議と抵抗を感じにくいのですが、音声だけを録られるのは嫌がるガイドも少なくありません。「著作権があるからご遠慮いただけますか」とやんわり断っているベテランガイドの姿を何度も見かけたことがあります。怪訝な顔をするお客様もいますが、大概は理解してくださるようです。

そう、ガイディングとはパフォーマンスとして著作権があるのも同然だと思うのです。プロの演奏が録音OKなコンサート会場なんて聞いたことがありません。同じ情報でもどのようにプレゼンテーションするかは、各ガイドが独自に考え抜いたノウハウです。もちろん、中には、録音されるほど価値のあるガイディングだと喜んでOKするガイドもいます。でもそこには、了承を得ることが必要なわけで、それを望まないガイドがNOと言っても、「あんたはケチだ」などと思うほうが間違っています。

素晴らしい知的業務を行っているという誇りがあれば、その知的財産への敬意も表さねばなりません。

どこからの情報かにも気を配る
ジェネラルトピックスの社会一般情報でガイディングに含まれる情報についても、時として配慮が必要です。以前、よくあるタイプの質問に答えながら、とうとうと解説ガイドをしたことがありました。「よく知ってるね、君は」といわれて得意げになっていた自分が、今思うと恥ずかしい気分です。ヨーロッパから来たジャーナリストの客は、こう付け加えたのでした。「君が述べた情報は、すべて自分が調査して調べ上げてきたのかい? 人から聞いたり何かで読んだりした情報だったら、その情報源を明確にすべきだよ」
最初は、意味がよくわかりませんでした。でも確かに先輩たちからもそういう細かい点に気を配るようにアドバイスをもらったことがありました。その時から私は、できるだけ「~と先週の新聞で読んだのですが」とか「~の調査によれば」とかいう表現を加えるように意識をするようになりました。
他人からの情報をパクるわけじゃないけれど、現場では、「~です」と、断定的に言い切らねばガイドとして説得力がないのも事実です。そのあたりのさじの投げ加減、情報発信の料理の仕方が通訳ガイドの個性と人格にかかわる力量でしょう。

知的財産ともいわれる大切な業務だからこそ、人として敬意を感じられるようなモラルとマナーを備えた通訳案内士を目指したいものです。