第50回 体験ツアーの定番、日本を伝える「茶の湯」のガイディング

通訳ガイド行脚2011.12.16

茶の湯を実際に体験できるスポットも
賓客おもてなしのプログラムや、一般のツアーでも人気が定着した感の茶の湯。各流派のインターナショナル部門が世界中でお点前を披露され普及宣伝に努められている結果、外国では茶の湯が日本という国を知る上で重要な伝統文化であることが浸透してきているようです。

茶の湯は言葉では説明しにくい体験文化なので、興味を持たれたお客様にはできるだけ本物を体験していただきましょう。気軽な立礼席スタイルから本格的な茶室まで、各地にお手前、菓子・お茶で1服1000~5000円程度で観光客が楽しめる場所がネットで検索できます。英語対応が可能な会場も増えました。

そういった場所にお連れする際は、できるだけ到着するまでに概略を説明し終わっていたいのです。なぜかというとお茶室内では和敬静寂の精神のもと、静けさquietnessの中で亭主とお客様とが心を通わすことが最も大切だからです。tea partyというと外国人は賑やかな楽しさを期待されるかもしれません。実はまったく逆なので、ガイドがベチャベチャ喋りまくって雰囲気を壊してはいけないのです。ガイドが模範モデルを示すことが外国人客にとっては最も良い体験なのかもしれません。

伝統文化を日常と関連づける
さて、それでは外国人客の興味を引くために事前に説明しておくのはどんなことでしょうか。茶の湯とは? 歴史、お茶の種類、道具、お点前の方法、茶室の建築、しつらえ、そしてお茶をいただく際のマナーなどがパッと思いつきますね。

歴史はできるだけコンパクトにしましょう。遣唐使によって日本に持ち帰られた中国飲茶の習慣は、現在の茶の湯とはまったく異なる形で茶丸を削り、塩や野菜を入れてcookしたものだったらしいとまで言われています。しかし、何せ昔のことで正確な文献は乏しいのです。

上流階級から次第に武士や一般に広まっていったのですが、足利義満の時代には茶会とはもともと絵画や芸術を楽しむのが主目的。それでは当然お金もかかります。そこで16世紀に著名なtea master千利休が、贅沢品ではなく、心を入れることに目を向けさせたがゆえに庶民までが楽しめるものに普及していったと言われています。

そして普及に貢献したのが日本独特の家元制です。そのお陰で伝統が守られています。入門レベルから始まって徐々に技能と経験値の向上とともに組織での地位も上がってゆきますね。家元はどれほどの尊敬を受け、その直筆のお軸やお扇子、手作りの茶杓tea spoon などはなんと素晴らしい価値があるものでしょう! そうそう、家宝のように大切にしていた茶碗を毎日桐の箱から取り出して大事そうに両手でかかえ、満足そうに眺めていたおじいちゃんが近所にいました・・・。

茶の湯の崇高な意味合いだけでなく、このように日常生活と密着した面を説明すると親近感が出て、外国人のお客様の目はキラリと輝き始めます。全国に200万人とも言われるお茶の愛好家は男性サラリーマンにも多いですが、ちょっと前までは嫁入り前の日本の娘がたしなまねばならない必須の稽古事としてお茶、お花、お料理があげられていました。・・・娘時代を思い出して(笑?)語って良いのです。お月謝はいくらぐらい支払っていたのか、月に何回お稽古があるのか、全国の学校や会社のクラブでも茶の湯クラブがあるのは、おいしい和菓子が食べられるからという理由も大きいかもしれません。美しい着物を着る機会があるからかもしれません。

そこから茶の湯はお茶、お菓子、料理、金属工芸、禅語、竹細工、お裂地、和服、お香、指物工芸、塗り物、焼き物、表装、建築、庭、書に至るまで総合的な伝統文化の芸術なのだ、奥深い、極めるには一生かかる・・・とガイドしてゆく手もあるのですね。

茶室では最大限の配慮を
お点前は将軍でも庶民でも誰でもが一番おいしくお茶が立てられるためのもの。
お点前そのものは、現場で日本語でも英語でもご亭主による説明を見れば理解できます。

おっとその前に、茶室に入る前に「茶室のルールに従って体験することを希望するかしないか」をお客様に確認しておくことが成功のコツです。望まれない場合にはあらかじめご亭主に相談して、伝統的ルールとの妥協点を見出すようにすればお互いに失礼や居心地の悪さは避けられるからです。

高価な茶碗やお道具を傷つける可能性のある長いネックレスや指輪は取り外して茶室に入りましょう。そしてポイントは、外しても失くさないように注意することです。「あなたが外せといったからダイヤの指輪を紛失した・・・」なんて騒がれないようにしなくちゃです。茶室に入る場合には清潔な(できれば白)ソックスをはいて清い場所を尊重する配慮をします。

質問は、お点前の後が望ましいそうです。少なくともお茶をたて終わるまでは待ちましょう。ご亭主による説明が少ない場合には、軸、花、お菓子、お茶、お茶碗、などについてご亭主に尋ねる形で会話を引き出し、それを低めの声でお客様に通訳するようにしましょう。あくまでご亭主側の配慮を伝え、もてなす側と客との心の通いが主目的になるように。

ああ、茶の湯はまだまだ話題がつきません。まずは通訳ガイドさんご自身がお稽古をするなどの体験ができるといいですね。習わねばならないことが山ほど残っている通訳ガイド人生です。