第90回 大涌谷の噴煙と箱根観光

通訳ガイド行脚2015.06.06

大涌谷の噴煙と箱根観光

世界文化遺産登録になった富士山が見えるとして共に人気の高い観光地、箱根への観光客数が激減しています。大涌谷の噴煙が活発となり、Alertがnormalの1から危険区域への立ち入りを規制するAlert2に引き上げられたからです。

“No-go zone declared as volcanic alert was raised”

と伝えられればインパクトが強く、旅行を取り止める人、行先を変更する人も増えました。海外での報道は実際よりも過大なものもあったので不安を感じるのも当然です。しかし、減少率は実は外国人よりも日本人の方が多いかもしれず、冨士箱根方面の外国人パッケージツアー数には大幅な減少は見られていません。やはりせっかく日本に来たのだからやはり富士山を見たい、芦ノ湖を見たいという人は多いと再認識させられます。

出発の時には外国人客からも「大丈夫か?」と良く尋ねられますが、300-meter radius around Owakudani 半径300メートルの立入り禁止区域には近づきませんから、と答えて納得していただきます。
遊覧船乗り場の湖尻港が大涌谷からの距離約2.2km、大涌谷を通る箱根ロープウエイの代わりに利用される箱根駒ヶ岳ロープウェーの乗り場は3.3km離れています。駒ヶ岳の頂上は約2kmですから小規模噴火があったとしても距離があります。ただし現在、頂上付近にシェルター等はありませんから不安な気持ちを隠せないのはお客様だけではなく、通訳ガイドだって同様でしょう。
箱根園をすぎて元箱根まで来ると4.4km、関所跡は5.6kmですから噴煙も何も見えず普段通りの穏やかな景観です。

大涌谷、ロープウェイ以外でも
楽しく魅力満載の箱根

6月の初頭、この地域の通訳ガイド研修では、ロープウェーには乗らず、箱根の関所跡を訪れて徳川幕府の政策や歴史的な側面を紹介しました。大涌谷が噴火したのは鎌倉時代ですが、江戸時代にも富士山は噴火したので、東海道は危険を回避して現在の関所の場所に定められたということです。数十日に渡って灰が降り続く中、おそらく地震も絶えず、科学的な知識も情報もないまま暗黒の不安に襲われたであろう江戸時代の人々の気持ちを思うと気の毒なことです。それぞれの時代で頑張って来た、そんなこともガイドに加えたいな、と思ったりします。

関所跡に続いて訪れた成川美術館では、巨匠平山郁夫他の素晴らしい作品展示が見られました。所蔵作品数4000点という多さを誇って年に4回定期的に展示物が変わります。何といっても芦ノ湖を見下ろす高台に位置しているので美術館の展望室から望む芦ノ湖と富士の景色は圧巻です。悪天候でロープウェーや船が運休の時の代替として利用されることの多い場所ですが、天気が良い日も是非訪れたいスポットです。日本画に使われる岩絵具(辰砂、孔雀石、藍銅鉱、ラピスラズリなど様々な鉱石、半貴石を砕いて作った自然の顔料)についても学ぶことができて、いかに貴重で高価なものとなるかがわかります。

最後に旧東海道を少し下った畑宿の箱根寄木細工の工房に立ち寄りました。製造直売をする浜松屋さんでは200年前に創作され技術継承がなされている寄木細工と木象嵌の実演が見学できて技法の説明を聞くことができます。(団体の場合は要予約)蓋や側面を前後左右に操作して開ける事のできる秘密箱などは有名です。現在技術者は17名しかいないそうですが、有名な箱根駅伝の往路優勝校へのトロフィーとメダルは箱根寄木細工製となっているとこころに、地元の伝統工芸技術への誇りが感じられますね。

大涌谷に行かなくとも 又、ロープウェイに乗らなくても、箱根は充分に楽しめます。もちろんいつ起きるかわからない大噴火への注意は怠ってはなりませんが、「日本は火山の恩恵を受けながら、火山と共存する運命にある国です」という箱根町長の言葉を思い返して、風評弊害の及ばぬよう冷静にガイドをしなくてはいけないなと感じる昨今でした。