第55回 外国人客をより楽しませるガイドトークのひと工夫

通訳ガイド行脚2012.05.16

日本三名園のひとつ金沢の兼六園では、善意通訳者のメンバーによる外国人観光客の案内サービスが定着して地元の国際観光を支えています。この春、そこで通訳ガイド技術の研修を実施しました。参加者に各重要スポットで数分ずつのガイディングを実際にしてみていただき、その実技に私がコメントを加えて指導してゆくというものでした。テーマは“楽しいグレードアップ”。

ポジティブな表現、補足説明で印象がぐっと変わる
時期は4月も半ばを過ぎ、桜散る中でした。
「残念ながら(Unfortunately) 桜は散り始めてしまっています。先週が満開のピークでした。」
というガイドトークには、ものごとは良い面をフィーチャーしてポジティブに表現してはどうでしょうか、とご提案しました。私だったら「ピークは過ぎたけど、今は風に吹かれて花びらが舞い散る桜吹雪の美しさが楽しめる絶好のタイミング。ロマンチックですよね」とでも言いそうです。桜吹雪はflower showerと言うと、可愛らしい雰囲気が出ますね。

「瓢池は、瓢箪(gourdまたはcalabash)の形をしているところから名づけられました」
これだけの説明ではピンと来ない人もいるかもしれません。せっかく口に出した説明の意味合いを十分に発揮させるには、補足説明をしましょう。瓢箪は実がたくさんなるところから、繁栄やめでたさを象徴しますが、水やお酒を入れる容器として使われました。昔のペットボトルですね・・・なんて少し笑いをとったりすると印象に残ります。

票池の次に案内があったのは滝でした。突然「あの滝は・・・」というよりはひと工夫を加えます。滝に近づいているけれどまた滝が見えない場所から、「何か聞こえませんか?・・・そう水の音ですね。なぜだかわかりますか?」などと言うとお客様は興味をひかれ、滝を見た時の感動が増します。視覚・聴覚・嗅覚etc.すべてを駆使して楽しんでいただく手法の一つです。

さて、兼六園のシンボルでもある有名な徽軫灯籠(ことじとうろう)、これは霞ヶ池を渡る石橋を琴に見立てると、灯篭が琴の糸を支える琴柱(ことじ)の姿に似ているところからその名があります。水面を照らす雪見灯篭が変化した二本足。この説明は研修の受講者がデモをして下さった通り、琴と琴柱を描いたイラストを見せて説明するのがベストです。琴(Japanese harp)と言ってもすぐイメージが湧かないかもしれません。百聞は一見にしかずです。

「日本全国の人がテレビで頻繁に放映される兼六園の徽軫灯籠を見て季節の移り変わりを楽しみますが、それを写すTVカメラはこれです」(と、常設のカメラ施設を指差す)

この説明ガイドは強力な補助効果がありますね。兼六園の観光が一瞬にして日本人全体の日常文化の紹介になります。自宅の居間のTVニュースでこの灯篭の姿を見て、雪景色を愛で、天気を知り、ほっと安らぎ覚える日本人の姿を頭に浮かべてもらえばバッチリ。

セールスポイントをトークに加えれば期待感アップ
もう一つグレードアップ提案をさせてもらいました。それは「さあ、次に行きましょう」の表現です。次から次へと場所を移動してゆく場合に、いつも“This way, please.”ではワンパターンすぎます。先ほどの滝の場合だったら、
“Let’s go and see what it is.”
と歩き進めますし、ほかには
“Shall we go to the next spot?”
“Would you like to follow me, please?”
徽軫灯籠に向かうなら
“Now, one of the most famous lanterns in this country is waiting for you.”
もいけますね。迫力の根上り松を見せようと思ったら
“I’d like to show you a very unique pine tree.”
などとセールスポイントをキャッチフレーズのようにトークに含めて、次から次へとお客様の期待感をあげて進む。これがコツです。

お客様から教えていただくユーモア表現も貴重なノウハウです。菊のように花びらの多い珍しい桜を紹介すると、「恋占いをするのに、ちょっと時間がかかりますね」の一言がスパイスのように皆の笑顔を引き出します。私がこの研修中に受講者から学ばせていただいたジョークです。

17世紀の創立当時は小さな庭園だったのが時代と共に素晴らしい大名庭園となり、現在の広さとなりました。現在は石川県が管理していますが、フルタイムの庭師が5~6名、清掃員25名に外部発注の作業を加えて維持されているそうです。重要な樹木の手入れなどは専任の庭師のノウハウを駆使し、それを若手に伝えてゆくためには常に各世代の人材が揃っているのがベストですが、人材育成もなかなか難しい課題がありそうですね。名園を保持するための舞台裏も、年間維持費用などもあわせてご紹介できるといいと思います。