第58回 震災から生まれたガイドの場~被災地訪問プログラム

通訳ガイド行脚2012.08.16

3.11の震災の影響で、昨年は来日外国人客が一時は70%も落ち込んだという激減状態でした。今年もまだ影響が残り、例年ならば夏季に来日する学生の国際交流グループ・ツアー・イベントが不催行のケースも目立ち閑散としていました。大型のツアーは一年かけて企画や営業を行うので、昨年の夏にはまだ日本が安全という宣伝が徹底できず、今年の夏に間に合わせることができなかったためです。

しかし、逆に震災があったからこそ全米各地から1,000名ものアメリカ人高校生がボランティアとして日本を訪れ、彼らにアテンドする通訳ガイドの活躍の場が生まれたケースもありました。

アメリカ人高校生が被災地を訪問
東日本大震災復興関連事業として日本政府が国際交流基金を通じて行う「絆 強化プログラム」です。帰国後は、高校生達に明るい日本の復興を周囲の人々に発信してもらい、風評被害を打ち消してもらおうという目的です。今後、アメリカ以外の地域からも若者を受け入れる予定。同時に逆のコースで日本の高校・大学生もアメリカに渡り、日本の復興の現状を語った・・・という若い世代層をターゲットにした日本のイメージ・アップ&人材育成作戦ですね。

6~7月に来日したアメリカ人高校生の一行は、福島県南会津や、宮城県の大島、岩手県、茨城県など被災地4県に滞在し、地元の語り部の方々の話を聞く、学校訪問をする、農業の被害の実態を農家の方々から聞く、また水産物の缶詰工場などの訪問をしました。ボランティア活動というよりは、実際には被災地の人々との交流と学びがプログラムされていたのでした。その後は京都などの一般観光ルートも含まれる旅程で伝統文化も満喫。

実際にそのツアーを担当した知人のガイド、SさんやKさんの話によれば、被災地現場で専門色のある通訳業務は、JICE(財)日本国際協力センターの通訳者が担当したので、あまり大変な思いはなかったそうです。このプログラムは政府による日本復興PRの一環ですから、節約ムードだったこととは想像しますが、それでも地元のホテルや民宿施設などは賑わいがあっただろうと思うと、同じ業界の者として良かったなと笑顔になれそうです。

ところで、現場で高校生達の反応はどうだったのでしょう? 放射能など不安に感じる様子はなかったのでしょうか? どうやら事前に英語での資料が十分に提供されていて、不安げな様子は特に見られず、とにかく日本の復興が想像よりも早く進んでいることに感心していた様子だったそうです。そして何よりも日本政府が招待をしてくれたこと、そして受入れの人々の親切な対応に終始深く感謝をしている様子だったということでした。

参加者は日本語を学んでいる学生、という条件で選抜されたので基本的には優秀、優良なお客様だったわけです。しかも“招待された立場”ですから、自分でお金を支払って来日する観光客とは違って文句も言わず、わんぱく過ぎるメンバーもいません。政府のプログラムというのは実に威力がありますね。模範にならなくちゃ・・・という意識が日米の双方に芽生えるのでしょう。一般の観光業務に比較すると料金は低いですが、通訳案内士としては意義深く、比較的やりやすい業務だった、そして自らも学ぶことが多く、楽しい業務経験になったと聞きました。

神戸他でも防災センターなど、普通の観光では訪れないような場所が旅程に含まれました。そんな時、通訳ガイドは事前に下見をする、資料を読みこなすなどして準備を万全にしなくてはなりません。

でも、歴史的に見ても日本が度重なる地震や津波などの震災に見舞われており、その都度、全力を尽くして復興していることを知った外国人学生達が、日本人の強さ、たくましさに驚いている姿を見ると、アテンドする側も嬉しくなりますね。

観光地ではないという配慮も必要
さて、被災地を訪れるお客様にアテンドする時の注意事項があります。それは

・服装が一般の観光旅行気分を感じさせるようなものでないこと(流行を追った派手な色目や露出度が高い服装は当然ご法度ですね)
・写真を撮る時は、指でピースサインなど出さないこと(ちょっとした普通の仕草が地元の人々の心を傷つけます)

これらはみな常識的なことですが、来日客はふっと緊張がほぐれた瞬間に、つい観光旅行気分にはまりがちです。そんな時にしっかり指導をするのも通訳ガイドの役目です。

被災地を訪問時に受けた印象でこれからの世界での日本の印象が決まると思えば、受け入れ側は対応にベストを尽くして下さった事でしょう。被災地のボランティアの方々、民宿のスタッフその他すべての場所で、とても良く迎え入れていただいたと通訳ガイド自身が感動してしまうくらいだったそうです。被災地ではまだまだ言葉に表せないほど大変な現状が多々あることは想像がつきますが、そんなところにドッと大人数が押し寄せて地元の方々に忙しい思いをさせてしまい申し訳ないくらいの気持ちも正直あった、という声も耳にしました。

様々な環境で働く通訳案内士たち・・・こうやって日本の国のために役に立っている一面を見ると、ちょっと誇らしく嬉しい気持ちにもなりますね。