10年の間に異なる3つの受注分野を開拓

リレーエッセイ2016.08.19

10年ひと区切り、と言うけれど、気がつけばフリーになって10年が経ち、そうした節目を肌で感じることが明らかに増えたように思う。単純に年を取って敏感肌になっているだけかもしれないが、この10年間、自分なりに正しいと思ってやってきたことが時間という公平な基準によって証明されたような気がして、なんだか感慨深い。

振り返ってみると、最初に受験したトライアルが「ゲーム翻訳」だったのは幸運だった。当時のゲーム翻訳はまだ黎明期にあって人材が不足しており、今と比べて参入のハードルが低かった。それにさまざまなジャンルのゲームに対応できる、広く浅い知識が求められるという特性からも、特定の専門分野を持たない私にとっては、まさにこれしかない選択肢だったわけだ。

その後は「ゲーム翻訳」との絡みで「リーガル翻訳」に興味を持ち、スクールに通って一通りの知識を身につけたりもした。おかげで「リーガル」は今、自分の受注案件3本柱のひとつに成長している。

ゲーム翻訳仲間との出会いが転機に

大きな転機となったのは今から4年前、初めてゲーム翻訳の「同業者」に出会ったときのことだ。それまでも「翻訳者」の知り合いはいたが、「ゲーム翻訳者」の知り合いは一人もいなかった。

ゲーム翻訳には「機密保持」の大きな壁があり、仕事のことをほとんど公言できないため、当時はSNSや交流イベントでも滅多に発見されない(今はそうでもなくなったが)、業界の希少種だった。

そのせいで互いに奥歯に物が挟まったような奇妙な会話になったが、それでも仕事に対する見解や不満を共有できる仲間、ある種の戦友が見つかったことで世界が開けたような感覚に打たれたのは事実だ。同時にフリーランスになって忘れかけていた「人脈の大切さ」を再認識させられた。

この出来事をきっかけに、私の翻訳シェアは大きく変容していく。人づてにさまざまな案件を紹介されるようになった。逆に自分が紹介するケースも増えた。はっきり言って、今の自分はすべてこの出来事の延長線上にあるとさえ思っている。

ちなみに現在のゲーム翻訳業界は大きく変化する道をとらずに両極化した。そのためゲー翻志望者の方々は、自分に向いている「極」を嗅ぎ分けることが大切だろう。

話は戻って、そうして増えていったジャンルのひとつがマーケティング、厳密には「トランスクリエーション」略して「トラクリ」(勝手に命名)と呼ばれる分野だ。トラクリは文字通り、「翻訳」と「創作」を足して2で割ったような仕事で、あくまでも「マーケティングの目的に適っていれば」の注釈つきだが、通常ならレビュアーに説教を食らいそうな原文からの逸脱、追加、削除などが公然と許可、むしろ推奨されているのが最大の特徴である。

場合によっては10ワードくらいのコピーを2時間かけてトラクリするわけだが、もともと文芸翻訳を通過し、趣味がてらエッセイを電子出版するなど創作志向の私にとっては、どストライクの仕事。昨今は「トラクリ」のシェアを半分に増やし、業界初の「言繰師(トランスクリエーショニスト)」を(こっそり)名乗れるよう精進している。

映画を買い付け公開までこぎつける

こうして今はゲーム、リーガル、トラクリを3本柱に働いているわけだが、4本目の柱として地道に育てているプロジェクトがある。

「BadCats(バッドキャッツ)」だ。要約すると個人で映画を買い付けて字幕をつけ、公開までこぎつけるという「洋書の森」の映画版のようなプロジェクトで、映画業界のプロのサポートを得て、年頭に『私はゴースト』という作品を渋谷と大阪で劇場公開し、DVDもリリースするという、自分で言うのもなんだが快挙を成し遂げた。派生的に仕事も作ることができたので、成長の余地は十分にあるとみている。

最後に猫のことをひとつ。このたび家人が「LOVE&CO.」という犬猫保護シェルターを設立したので、興味のある方はネットで検索していただけるとうれしい。

そういうわけで次の10年もけっこう楽しみだったりしている。

『通訳・翻訳ジャーナル』2016年夏号より転載★