第68回 「バスで帰っていい」言葉の真意は?

通訳ガイド行脚2013.07.16

旅行会社から依頼されるのではなく、通訳ガイド自身がインターネットで直接海外の顧客から仕事を受注するケースも増えてきました。世界各地の観光ガイド宣伝ネットサイトでは、運営者に20%程度の手数料を支払ったり、料金振り込みの際に銀行へ2500円程度の手数料が必要になったり、思わぬ出費も嵩みます。キャンセル条件、交通費その他の経費支払条件なども確認して損のないように慎重に進めて活躍してくださいね。

旅行会社が介在していない場合には、あらゆるトラブルも自分で解決せねばなりません。最近の落とし穴とも言える事例をご紹介しましょう。

個人受注のガイドではこんな点に注意!
新緑の美しい日、横浜在住のガイドAさんは初めてネット経由で受注した15名のブルガリア人グループを箱根に案内しました。いつもの英語ガイディングをコンパクトに短くして、それをツアーリーダーがブルガリア語に訳してゆくというスタイルでした。ガイドの正味時間が短く、しかも羊のようにおとなしく優しいお客様達をリーダーがしっかりまとめてくれるので比較的楽な仕事だと感じました。

ホテルを出発して富士山の五合目、ランチ、箱根芦ノ湖観光の後、最後は夕方に新富士駅で京都まで行く新幹線に乗せ込んで終わりというお仕事です。新幹線が予定に入っていると、何よりもそれに乗り遅れる事のないように注意することが第一優先。Aさんは前日からツアーリーダーと打ち合わせ、タイトな旅程を無理なくこなすため、朝の出発時間を一時間早めるように配慮して頑張りました。お蔭でツアーは順調、新富士駅にも新幹線発車時刻の20分前に到着できました。

ところが問題はそこで起きました。もとからブルガリアのツアーリーダーからは、「ガイドさんは終了後、空のバスに乗って横浜まで戻っていい」と言われていました。しかし新富士駅でバスを降りる時になって、バスのドライバーが、
「ガイドさんがお客を駅のホームまで誘導し、列車に乗せて見送ったあとバスに戻ってくるまでの25分なんて待てないよ。バスはこんなところに停めておけないし!」
と、ゴネだしたのでした。
「でも、バスを手配したお客様からそう言われてます…」
Aさんは説明しようとしました。しかし、怒鳴るような勢いのドライバーとやりあっている時間がありません。ここはお客様優先。Aさんはしかたなく諦めて、「じゃあ、いいです(しかたがない。片道の交通費は自腹でいいや)」と、バスはその場で解放し、空バスで帰ってもらうことにしました。

お客様を無事見送って、ホッと胸をなで下ろしてから自分も帰宅の途につこうとしてAさんは、ギョッと驚きました。新富士から横浜は新幹線代が¥5000以上もするのです。ほぼ半額の普通列車だと3時間もかかってしまいます。

一般の仕事で「ガイドさんの帰る方向が同じなら、バスに乗せてあげますよ」と運転士に言われれば、それはバス会社の好意で乗せてもらえた=ラッキーの世界です。しかし、今回はガイド自身の交通費を請求できる旅行会社が介在していない節約ツアーだったので、経費節約のために乗って帰れという意味合いがあったところまでは、うっかり、Aさんは気がつきませんでした。

他のスタッフとの関係づくりも大切に
バス会社には事前にそのことが伝えられていたにも拘らず、現場のドライバーさんにきちんと理解されていないケースもあります。バスのドライバーさん達は一般に、少しでも早く仕事を終えて、さらに遠路の車庫に戻りたいという気持ちが強い人が多いですし、ちゃんとした駐車場が手配されていないのにバスを待たされるのは辛いと感じるのです。ガイドが帰路バスに乗るのは嫌がられることかもしれないという心理を理解していれば、朝一番会って行程の打合せをする時から、ご機嫌をとりつつ(?笑)ドライバーさんとは仲良く会話を交わして帰路の段取りが確認できました。バスを待つ場所に困れば、時間を決めて迎えに来てもらうなどの相談もできたでしょう。

実は今回は中国のバス会社、ドライバーさんも中国人の方でした。なにかと気持ちが通じにくい部分があったのかもしれません。運転士さんは職人肌の人も多く、愛想が良い人ばかりとは限りません。言葉使いも荒かったり、命令口調で話されると気分を害して反応が悪かったり。もちろん人柄が抜群の方達も多いのですが、ガイドと同じく当たり外れはあるものです。どんな相手でもうまく味方につけてチーム意識でツアーの成功に大きな一役を買ってもらわねばなりません。

様々な仕事仲間とうまくつきあう術も、通訳ガイドに必要とされているのですね。