第93回 通訳ガイドの喉と拡声器

通訳ガイド行脚2016.06.29

仕事柄、喉はフル稼働

梅雨の時期を私は、メンテナンス・シーズンと名付けています。来日観光客数も春に比べると少し落ち着くので、この機に「娘の結婚式に海外へでかけます」「家族旅行です」「法事で田舎に戻ります」などと個人的な予定で忙しくなる人も多いですし、「静かなシーズンのうちに普段行けない遠隔地の下見に出かける予定でいます」「研修に参加します」など、3-5月の繁忙期にできなかったイベントが立て続く為、案外、秘かなガイドさん不足現象もあるのです。

繁忙期にはちょっとやそっとじゃ行く余裕のなかったクリニックや病院にお世話になる人が、次から次へと続出するのもこのシーズンです。「伸ばし伸ばしになっていた入院と手術をします」「検査入院で動けません」。その中で職業病だなと思うのが「喉のポリープを取ります」というケースです。日頃から大きな声でテンション高く話し続けるガイドさんは要注意!疲れが溜まったまま喉を使い続けて頑張ってしまうと喉を傷め、頻繁ではありませんが声帯にポリープができる場合があります。悪性になるといけないのでタイミングを見計らって手術で除去すると、すっきり喉の調子も軽くなるそうです。

知人の某男性ガイドさんは、いつもとても元気な方ですが、ポリープ手術をしてからは喉をいたわるようになりました。ポータブルスピーカーを常時携帯して腰からさげ、屋外でもマイクを使って話しています。最近では価格も廉価になって多種多様な拡声器が通信販売あるいは量販店などで売られています。文明の機器はうまく利用すべきですね。

拡声器は使う?関東と関西の違い

この拡声器は関西地域ではほとんどのガイドが「必需品として持っています」というぐらい普及している印象があります。観光客の集中度が高い京都などではこれがないと実際無理、というのが実情でしょう。

ところが関東首都圏のガイドはどうか?というと、拡声器を持っている人は半数もいるでしょうか?まだまだ普及率は低いと思われます。博物館や美術館などでは当然「他の人への迷惑になるから」と、使用厳禁アイテムです。私が日光東照宮で係員に注意されたときは「千人桝形などのエリアでは良いですが、仏門より中に入ったら使用しないでください」とのことでした。

人混みの出る狭い場所になることと(人混みだからほんとは使いたいのですが)、宗教上の理由もあるかと思われました。神聖な場所で大声で話すのは神仏に対して失礼なこととされ、拝殿や本殿の建物の中では、たとえガイドでも囁くような小さ目の声量にするのが常識です。
お客様からの「説明が聞こえない」というクレームと、神仏への礼という板挟みで微妙なところではあります。

観光ツアーによっては、イヤホンガイドとかパナガイドなどと呼ばれるイヤフォンがお客様に準備され、ガイドはマイクを通して説明をすることがあります。これはお客様にも大好評、ガイドの喉にも優しくて大助かりです。これがあれば周囲がいくら混雑してお客様がガイドから距離が離れても、しっかり一言も漏らさずガイディングが聞けるので、とても親切で便利な機材です。迷子も出にくい。ガイドにピタッとくっついていかないと聞こえないような団体ツアーだと、ガイドの声を聞くために必然的に顔をガイドの方に向けることになるので、周囲の景色を十分に見る時間が少なくなります。または詳細な説明は諦めて、景色や雰囲気を主に楽しむだけになりがちです。

喉のいたわり方

私も喉は弱い方で、何度か喉のトラブルに泣きました。風邪気味でも少しぐらい痛みがあっても無理をして声をだしてしまった結果、扁桃腺を切る羽目にもなりました。今は自衛策がたくさんあります。

普段から喉を労わって大声での話は避け、うがい薬を携行してうがいをよくする。喉飴も活用する。夜はマスクを年中着用して眠る。ガイド中でも「あ!」と気が付いたら一呼吸、深呼吸をしてから、一回りゆっくり話すようにする。(ゆっくり話すのは喉にも優しいのです)バスの中などマイクが使える場所で、なるべく込み入った説明は済ませてしまう、屋外ではなるべくお客様に”Can you please come closer to me?” などとお願いして極力喉の負担を軽くするようにする。喉から声を出さず、複式で声をだすように心がけるなどです。

ガイドは機械ではありません。皆さまどうぞご自身の商売道具(=身体、喉、頭脳そして美貌?)をしっかりメンテナンスして繁忙期に備えましょう。日頃から体力を鍛えるのも大切ですね。