第81回 ピカイチガイドの極意を見た!

通訳ガイド行脚2014.07.16

世界遺産に登録になってから、富士・箱根のツアーは年中人気が高く、優秀な通訳ガイドが求められています。
先日、大手旅行会社お薦めのピカイチガイドさん(以下、Pガイド)による一般的な「富士箱根ツアー」の通訳ガイド試乗会に参加してきました。そこで強く印象を受けたことがいくつかあるのでご紹介したいと思います。

東京都内から富士山の麓あたりまではトイレ休憩もなく、1時間半から2時間近くバスで移動します。富士山に近づいたら富士山にまつわる話がいろいろできるのですが、それまではあまりたくさん富士山については語りません。天気が悪く、頂上が見えるかどうかわからない時などは、逆に期待を多く持たせるのは適切ではないかもしれないからです。地上の天気が良くても山に登ると雲に隠れてしまうこともあります。

そこで当然、まずは車窓に見えてくるものに話題が飛ぶのですが、都内からは都心のビジネス街~住宅街~サッカースタジアム、府中競馬場、リニアモーターカーの実験ラインなどが目ぼしいものであり、その他は一般的な“ジェネラルトピックス”になるのが普通です。

その日のPガイドさんは、この“ジェネラルトピックス”の展開がとても良かったのでした。
新宿を過ぎると新宿駅の混雑ぶりと、かつて世界中に有名になった“プッシュ・マン”または“プッシャー”と呼ばれる仕事人の話に移りました。
普通だと、「混雑するラッシュアワーには、乗客を車内に押し込むプッシャーがプラットフォームにスタンバイするんですよ」だけで終わってしまいがちなのですが、Pガイドさんはそのあとプッシャーに押される混雑ぶりを興味深く説明するのです。

「日本のラッシュアワーに電車に乗ったことがありますか? 凄いんですよ。車内では、まず自分の足で立とうとする努力をしなくていいんです。吊り手につかまろうと手を上げたらそのまま次の駅まで手は下げられないし、いわば人間のふとんに挟まれたベッドが縦になったような、暖かくふんわりした感じでもあります」
と、自分の体験をリアルに話し始めます。「へえ~ッ!」という外国人客の反応が想像できますね。

競馬場が見えると、競馬以外の日本のギャンブル事情、つまり競輪、競艇の話に移り、日本人の庶民的なエンターテイメントとしての“KARAOKE”の話が出ます。どうやらそれはPガイドさんの得意な話題だったようで、スムーズに揚々とピッチ良く語り始めました。

「機械があなたの歌った歌の出来を採点するKARAOKEもあるんですよ! 僕が試したら最高で100点満点中92点! まあまあ悪くないなと思っています」(自画自賛もこの程度だとお客様のニヤリとした微笑が取れます)
「友達の結婚式で歌うように言われたので、せっせとKARAOKEに通ったことがあります。マイケル・ジャクソンを練習し、本番では帽子を被り、手袋をはめ、ムーンウォークは無理でしたがなかなか評判が良かったですね(ここでマイケルの歌を一節実際に聞かせる)」
…かなり個人的な体験談ですが、聞いていて不思議と惹きつけられるのです。

「が、これが仕事の上司と一緒にいくと、楽しみと同時に辛さもあるんですよね。歌の好きな上司がマイクを持つと部下は、それがどんなにひどい歌でも一斉に大拍手をしなければなりません。気を良くする上司はさらにもう一曲……と続くので、これは辛い残業そのものになってしまいます…」

観光のガイディングというよりは、もう日本の友人からプライベートな話を聞かされているといった感じなのですが、こういうトークを通じて外国人客はPガイドに親近感を覚え、親しみを持って接してくれる日本人に会えたような気分になれるのでしょう。

―――その日、残念ながら富士山は姿を見せませんでした。しかしPガイドはひたすら謝るということは一切せず、富士山を後にしたころからは折り紙で鶴を折って見せたり、指さばきも手際の良い“あや取り”で富士山の姿をお客様の目の前で見せてくれたりするのです。そのサービス精神に感動して、誰も富士山が見えなかった不運に文句を言う人は出ません。ああ、これがピカイチと言われるガイドの秘訣なんですね。

フレンドリーな話題の運びと、お客様を何とか喜ばせようとする溢れるサービス精神に通訳ガイドの原点を見たような気がしました。慣れてくると忘れがちな基本を思いださせてくれたPガイドさんに感謝し、見習いたいものだと思いました。