第2回 小説の翻訳は形から入る

文芸翻訳コンテスト2016.05.15

応募訳文 その1

【1】
 ハロルド・カロブリート氏は生前、フラックスボロウの町会議員であり、治安判事であり、ユニオニスト・クラブの会員であり、またうわさでは町で初めてテレビアンテナを設置した人物であるが、そのわりに彼の葬式というのは味気ない催し物であった。
 それにカロブリート氏の事業、カロブリート・アンド・スペード船舶仲介会社の疑いようのない成功のことを思えば、社長の棺がヘストン通り共同墓地の穴の中へ降ろされるのとほとんど同時に会社が閉業したことは、この世の栄光は、フラックスボロウでも例外なく、早々と消え去ってしまうものなのだ、ということのひとつの表れでしかなかった。

【2】
ハロルド・カロブリート氏が生前に、フラックスバラ町議会議員や治安判事、労働組合委員を務め、うわさでは、町で最初にテレビアンテナを買った人物だったことから考えると、その葬儀はぱっとしないものだった。
そして、カロブリート氏の興した海運仲立業、カロブリート・アンド・スぺーズの紛れもない成功を踏まえると、そのオーナーの棺がヘストンレーン墓地の穴に埋められるのとほぼ時を同じくして会社が倒産したのは、言い方を変えれば、多分に漏れずフラックスバラでも、世間の栄華はあっという間に滅ぶことの証だった。

【3】
 ハロルド・キャロブリート氏が、存命中はフラックスボローの町議会議員であり、治安判事であり、労働組合員クラブの委員であり、噂によると町で最初にアンテナを手に入れた人間でもあるということを考えると、彼の葬儀は地味な出来事だった。
 そして、キャロブリート氏の揺るぎないビジネスの成功である、船舶の仲介会社キャロブリート・アンド・スペードのことを考えると、そのオーナーの棺がヘストン・ローン霊園の穴に転落すると同時に閉業したのは、他の地域と同様、フラックスボローでも急ぐように栄光が過ぎ去っていく前兆だったのだ。

【4】
 ハロルド・キャロブリート氏が若いころにフラックスボローの町議会員で、治安判事で、労働組合委員で、そして評判によると、町で初めてのテレビアンテナの所有者だったことを考えても、彼の葬式は感興をそそらない出来事だった。
 そしてキャロブリート氏が立ち上げた事業の紛れもない成功、キャロブリート・スペーズ海運会社を考えても、社主の棺がヘストン・レイン墓地の穴のなかへ降ろされたのとほぼ同時に会社が閉業したのは、ほかのどの場所にも劣らず急速に、フラックスボローで世界の栄光が移りゆくもう一つの表れにすぎなかった。

【5】
ハロルド・カロブリート氏はこれまでフラックスバラ町議会議員、治安判事、労働組合クラブ委員を務め、そして噂によれば町で初めてテレビアンテナを所有していたのだが、そのわりには彼の葬儀は平凡な出来事として扱われた。
また、カロブリート氏の事業所はカロブリート・アンド・スペードという船舶仲介会社であって確かに繁栄していたのだが、そのわりには事業所は主の棺がヘーストンレーン共同墓地の穴に入ったのとほとんど時を同じくして閉じられた。この世での彼の栄光が他の場所同様フラックスバラから急に消え去ったというもう一つの証拠であった。

【6】
 ハロルド・キャロブリート氏が、かつてフラクスボローの町会議員や治安判事、ユニオ二スト・クラブの委員を務め、さらに評判では、町で最初のテレビアンテナのオーナーだったらしいことを思えば、その葬儀はパッとしないものだった。
しかもビジネスでは、船舶ブローカー、キャロブリート・アンド・スペード社を設立して紛れもない成功を収めたのに、彼自身の棺がヘストン・レーン墓地の穴に沈められていくのとほぼ同時に、その会社もつぶれてしまったのは、フラクスボローであろうとどこであろうと、この世の栄光はあっけなく移ろいゆくものだというもう一つの象徴にすぎない。

【7】
 往時にはフラックスバーロウの町議会議員と治安判事と統一主義者クラブの委員を務め、噂によれば町で初めてテレビアンテナを購入した人物という経歴にしては、ミスター・ハロルド・キャロブリートの葬儀はぱっとしないものだった。
 そしてミスター・キャロブリートの事業、キャロブリート・アンド・スペイズ船舶仲介商会が間違いなく繁盛していたことを思えば、事業主の棺がヘストン通り墓地の墓穴に下ろされるのとほぼ同時にこの商会が閉業したのも、古【いにしえ】の栄華の移りかわりなど、どこでもそうだがフラックスバーロウでもあっというまとの理【ことわり】がここでも示されたにすぎない。

【8】
 ハロルド・カロブリート氏がそれまで、わがフラクスボロー町における町会議員をつとめられ、治安判事、さらには労働組合員クラブの委員をもこなされ、また、伺い聞くところによりますれば、町内における最初のテレビ・アンテナ所持者であったことなどを勘案いたしますと、カロブリート氏のこの葬儀は余りぱっとしたものではございませんでした。
 また、カロブリート氏のビジネスにおける成果であるところの、カロブリート&スペイド船舶斡旋会社における、疑いようもなき繁栄を勘案いたしますれば、この会社のオーナーであられました氏のお入りになられた棺桶が、ヘストン通り共同墓地に穿たれました穴の底深くほとんど降下され終わるやいなや、この会社そのものが閉鎖されるに至りましたことも、いわゆるこの世の栄華なるものがフラクスボロー町においても他のいかなる地にも劣らず迅速にしてすみやかに移り変わりゆくものであることの、また新たな証左となったのであります。

【9】
生前フラックスバーロウの町会議員であり、治安判事でもあれば、ユニオニスト・クラブの委員も務め、世評によれば町で最初のテレビアンテナの持ち主でもあったらしい割には、ハロルド・カロブリート氏の葬儀は退屈なものだった。
氏が立ち上げ紛れもない成功を収めていたカロブリート・スペーズ船舶仲介会社は、オーナーの棺がヘストン通り墓地の墓穴に下ろされるのとほぼ時を同じくして幕を下ろしたが、これは単に、世の栄枯盛衰の移ろいの激しいこと、フラックスバーロウにおいても他と異ならないことの一例がまた増えたというだけであった。

【10】
新品同様の棺 コリン・ワトスン

在りし日のハロルド・キャロブリート氏は、フラックスボローの町会議員であり、治安判事であり、労働組合の一員であり、街で初めてテレビアンテナの持ち主となったと噂の人物であり、それらを考えあわせると、氏の葬儀は退屈な出来事だった。

そして、まちがいなく繁盛していたキャロブリート氏の会社、船舶仲買業社キャロブリート&スペードは業務停止し、ほぼ同じ頃に、オーナーの棺がヘストンレーン墓地の墓穴に降ろされた。これもまた、グラックスボローでも他の土地と同じくらい急ぎ足で、世の栄光はかくも儚くなるということの、新たな一例だった。

【11】
ミスター・ハロルド・カロブリートが全盛期の頃は、フラックスバロウの町議会議員や治安判事やユニオニスト・クラブの委員を歴任したうえ、テレビアンテナを町でいち早く取り付けたというのに、葬儀はずいぶんと簡素なものだった。
そして、彼の棺がヘストン・レーン共同墓地へ埋葬されるや、盛者必衰のことわりどおり、ご多分に漏れずここフラックスバロウにおいても、あれほど繁盛していたカロブリート・アンド・スペード船舶仲買会社が時を同じくしてあっと言う間に倒産してしまった。

【12】
ハロルド・カロブリートはフラクスバラに住み、町議会議員、法務官、労働組合委員もしたし、噂によれば町いちばんにテレビアンテナを付けたのも彼だったという。しかしながらそんなハロルドの葬儀はつまらないものだった。
スペードと一緒に立ち上げた船の仲介事業は確かに成功していたというのに、ヘストンレーネ墓地の穴へ彼の棺が急落したこととほぼ同時にその終結は始まった。
それはまさに、フラクスバラでの栄枯盛衰の激しさを示していたのだった。

【13】
 ハロルド・キャロブリート氏は生前、フラックスボローの町議会議員や治安判事を務め、アイルランド独立を認めぬユニオニストクラブのメンバーでもあり、聞くところによると町で最初にテレビアンテナを取り付けた御仁でもあったというが、その割に氏の葬儀はどうという感興ももよおさぬものだった。
 それに、手がけていた海運仲立(なかだち)業のキャロブリート&スペード社は間違いなく繁盛していたが、その割に、オーナーである彼の棺がヘストン・レーン墓地の穴に下ろされるや、そそくさと葬儀が済んでしまったのも、フロックスボローでは他のどこよりも素早く栄光が移りゆくことのありふれた証左に過ぎなかった。

【14】
ハロルド・キャロブリート氏が、生前、フラックスバラの町議会議員、治安判事、保守党員、そして、町で一番最初に設置されたテレビアンテナの持ち主だと噂される人物だったことを思えば、彼の葬儀はなんともぱっとしないものだった。
さらに、船舶の仲買商社であるキャロブリート・アンド・スペーズというキャロブリート氏の会社が、誰の目にも明らかな成功を収めていたことを考えると、会社のオーナーの棺がヘストン・レイン墓地の墓穴に下ろされたのとほとんど同時に会社も幕を閉じたことは、何処(ルビ:いずこ)も同じように、フラックスバラの町にも栄枯盛衰があることの証でもあった。

【15】
 ハロルド・キャロブリートは生前、フラックスボローの町会議員や治安判事やユニオニスト・クラブの一員として務め、町で最初にテレビアンテナを取り付けたと言われる人物だ。しかしそれにしては、あまりにも地味な葬儀だった。
 彼の経営するキャロブリート・アンド・スペーズ海運会社は紛れもない成功を収めたが、経営者の棺がヘストン・レーン墓地の墓穴に降ろされたのとほぼ時を同じくして終焉を迎えた。だとすれば、他の町のようにフラックスボローの繁栄も足早に過ぎ去っていくのだろうと思わざるを得なかった。

【16】
 フラックスバローの町議、治安判事、労働組合委員を長年務め、うわさでは町で初めてテレビのアンテナを手に入れた人物にしては、ハロルド・カロブリート氏の葬式はさえないものだった。
 また、氏の海運会社<カロブリート・アンド・スペード>は間違いなく成功をおさめていたが、所有者の棺がヘストン・レーン墓地の穴の中に降ろされるとともに終焉を迎えつつあり、栄光が急激に失われるのはどこでも同じで、フラックスバローとて例外ではないということの表れでもあった。

【17】最優秀訳文
 人生で最も羽振りの良かった頃のハロルド・キャルブリート氏は、フラクスボローの町議会議員、治安判事、社交クラブの委員を務めていた。噂では、この町のテレビアンテナ所有者第一号だったという。その割には、彼の葬儀は侘しいものだった。
 そのキャルブリート氏が設立した船舶仲介会社<キャルブリート・アンド・スペイズ>は大成功を収めたのだが、ヘストン・レーン共同墓地の一画に氏の棺が埋葬されるのとほぼ同時に、会社は閉鎖された。フラクスボローであれどこであれ、栄光はあっという間に過ぎ去るものだ、という証でもあった。

【18】
 ハロルド・カロブリート氏はフラックスボローの町会議員であり、治安判事であり、ユニオストクラブの一員でもあった。噂によると、町で最初にテレビアンテナを持ったのも彼だ。そう考えると、カロブリート氏の葬儀はぱっとしないものだった。
 それに、カロブリートアンドスペーズという、船の仲介業をしている彼の会社がかなり繁盛していたことを考えると、オーナーの棺がヘストンレーン墓地に入るのとほぼ同時に会社も終わりを迎えるということは、まさに栄光が他の町と同様にフラックスボローを急いで過ぎ去っていくことの表れの一つだった。

【19】
ハロルド・キャロブリートさんが若い頃にフラックスボローという町の町議会議員で、治安判事、統一主義クラブの一員であり、世評によればその町の初のテレビアンテナの所有者だったことを考えると、彼の葬儀はつまらない気が滅入るものだった。
だけどまた、キャロブリート氏の事業所の確実な繁栄、彼とスペード氏による船舶証券会社を考えると、ヘストンレーン墓地で彼の棺を穴に埋めるのとほぼ同時の終り値は、グロリア・ムンディ氏がフラックスボローで他のどこよりも早く亡くなるもう一つのサインだった。

【20】
 ハロルド・キャロブリート氏が生前、フラックスボロー町会議員、治安判事、ユニオニストクラブ委員を歴任した人物であり、噂では、この町で最初にテレビアンテナを所有した人物でもあったらしいことを考えると、同氏の葬儀はかなり地味だった。
 キャロブリート氏が営んでいた海運仲介会社「キャロブリート&スペーズ」も、誰が見ても事業は上々のようだったが、オーナーである彼がヘストン・レーン墓地に埋葬されたのとほぼ同時に廃業してしまった。世の栄光の移り変わりは、フラックスボローでもどこでも、同じようにあわただしい。これも、その一例らしかった。

ページ: 1 2 3 4