第2回 翻訳って奥が深いんです

一行翻訳コンテスト2007.06.16

■今月の1冊
僕のお気に入りのブラック・ユーモア作品 くすくす笑いながら読めます

『Dave Barry’s Money Secrets』
(Dave Barry著、Three Rivers Press刊)

Dave Barry's Money Secrets

まず今月のおもろい本から。僕の読む本は仕事上のものが一番多くて、今だと『Stragetic Planning for Dummies』(Erica Olsen, Wiley Publishing)などを眺めていますが、これはあくまで英訳のための英語表現を拾っているだけなので読んでいるうちには入らないかな。

ということで普段から硬い英語に触れていることが多いので、趣味で読む英語はホラーかミステリーかユーモアという感じです。僕はアメリカのスラップスティック的なものよりも英国のモンティ・パイソン系ブラック・ユーモアの方が好きなのですが、読み物としてアメリカのユーモア・ライターで一番気に入っているのがDave Barryです。たとえば『デイヴ・バリーの日本を笑う』(東江一紀訳、集英社)のように何冊かは翻訳が出ていますが、この手の本は日本では売れにくいのかな(少しだけ土屋賢二っぽいかも知れません)。僕は1年に一度ハワイに買い出し(兼バケーション)に行くのですが、毎年最新刊(でもPB版の方)のDaveの本を買ってきます。今年入手したのは『Dave Barry’s Money Secrets』(Dave Barry、Three Rivers Press)。タイトルの通りカネをネタに笑おうという本です。この人の本を読んでいるとついくすくすと笑ってしまいます。

ネタバレは避けたいところですが、たとえば、Introductionでこの本を買う理由として「…when it comes to your personal finances, you are, with all due respect, a complete moron.」(P.1)と書いてしまうわけです。このあたりの毒は慣れるまで時間がかかると思うんですが、分かるようになってくると違う世界が広がってきます。たとえば次の文章も面白いです。「The most precious gift that a parent can give to a child — more precious than material things such as diamonds, or gold, or a big mansion — is a big mansion filled with diamonds and gold.」(P.89)これは日本語でもそのまま通用しそうですが、

次のになるとかなり翻訳者泣かせ。二人の男がカーディーラーでまったく同じ車を買ったのに一人は3,500ドルも安く買えたのはなぜかという話です。「Throughout the entire course of his discussions with the car salesman, John was holding an eighteen-inch machete. This basic tactic…gave John a big edge in his negotiations…」(P.151)a machete(なた)を持っているというのでまず一度笑える上に、edgeにダブル・ミーニングがかけられていてさらに笑えるという。edge=刃であると同時にcompetitive edgeなどで使うように優位という意味もあるんですね。この辺でくすくす(げらげらも可)笑えるようになったら英語感覚がかなり身に付いてきた感じになると思います。産業翻訳的にもこのedgeというのはうまく使いたいところで、いつもcompetitivenessばかり書くんじゃなくて、competitive edgeも混ぜるとかすると渋かったり。

またDaveの本の良いところは細かな章に分かれているので、気が向いたところまで読んだら、次に時間ができるまで放置できることかも知れません。ちなみに英国のユーモア作品も好きで、特にモンティ・パイソン絡みだとMichael Palinの『八十日間世界一周』(山村宣子訳、心交社)とかEric Idleの『Road to Mars』(Boxtree)とかも楽しめます。

■入門者用おススメペーパーバック
翻訳が出ていないということを動機づけに 原書でKingのロードムービー型小説を楽しもう!
『Cell』
Stephen King著

Cell

では次にPBのおすすめ本をご紹介。今月はStephen Kingの『Cell』。もちろんKingだったら、古くは『’Salem’s Lot』から『The Dead Zone』、比較的新しいほうでは『The Green Mile』などさまざまな名作も?作も生み出してきた訳で、本作はKingの水準から言うとまあ平均的な内容ではありますが、選んだ一番の理由は翻訳がまだ出ていない。従って、読みたければ英語で読むしかないわけです(翻訳は新潮社から白石朗の訳で出る予定。白石さんの訳は翻訳者としてすごく勉強になりますよ。また映画化も決まっています。しかし監督はイーライ・ロスか……)。この早く読みたいからというのは意外に良い動機付けになります。

KingとかDean Koontzクラスなら出来不出来はともかくとしてエンターテインメントとしての一定水準は保証されていますから。Kingを読んでいて面白いのはやはり米国の日常を実にうまく書き出して、その日常が突然非日常へと変わっていくところがすごくリアルなんですよね。ありえない話を身近に感じさせる能力に長けているというか。翻訳があるとカンニングしたくなるタイプの人の場合はいわゆるpage turnerを買って、とにかく夢中で読むという体験も大切かも知れません。Kingの場合、小説にいくつかパターンがあるんですが、本作はロードムービー型に当たると思います。『Stand by Me』のように何かを求めて旅をしていく中で成長や変化を経験するというたぐいの話ですね。

ある日、携帯電話を使っていた人々が突然理性を失い攻撃的かつ破壊的な存在になってしまいます。携帯電話を使っていなかった主人公のクレイトン・リデルは、旅先のボストン(松坂がレッドソックスに行ったおかげで、イメージが湧きやすくなりましたよね)で、このゾンビ化(実際この作品は映画、ゾンビ・シリーズの監督、ジョージ・ロメロに捧げられています)を免れ、離婚した妻と息子の生死を確かめようと故郷へと向かいます。その過程で、旅の仲間を得ながらクレイトンは次第に物語の確信へと迫っていきます。これはサイバーテロなのでしょうか。神の鉄槌なのでしょうか。そして物語は思いがけないエンディングへと進んでいくのです。面白そうでしょ? 長さもKingにしてはそこそこなので読みやすいと思います。あ、ちなみにスプラッタ描写が苦手な人はやめておいた方がいいかも。そのような場合には『Stand by Me』原作収録の『Different Seasons』がおすすめです。翻訳は出てますけれども。

では今月のフレーズに行きましょう。

■第1回 ウルトラショート翻訳課題の講評

先月の課題:“Thanksgiving will never be the same.”

七面鳥工場の中を見てしまったおかげで、もう今までのように感謝祭の七面鳥がおいしいとか感じられなくなってしまうという感じでしょうか。友人でやはり牛の食肉工場に関する本を読んで四つ足の動物(魚介類はOKらしい)は食べられなくなってしまった人がいます。ただのモノだったのが「生き物」に変わってしまうことで、それまでのように見られなくなるということですよね。そこのところのニュアンスを込めて訳すといいですよ。

何通か選んで講評というのも考えましたが、せっかくご応募していただいたのでできるだけ多くの方の解答に一行コメントすることにしますね。(丸括弧の中がコメントです。)

★あ~もうこれまでの様に感謝祭を迎えられないな
(文芸だと縦書きになるから「~」は結構使いにくかったりします。YAはともかく。)

★サンクスキ゛ウ゛ィンク゛に七面鳥に食らいつけなくなるよ。
(表記は一般のに従いましょう。サンクスギビング。)

★もう、今までのような感謝祭はないな。
(ストレート過ぎてしまってもう少し工夫が欲しいかな。「ないな」だったら「二度とこない」とか。)

★サンクスギビングデイが不味くなっちまった。
(アイデアは悪くないですけど、デイは食べないんじゃないかなあ)

★もう二度と感謝祭のシチメンチョウをまともに見られそうにない
(けっこういい感じですが、少し言葉が多いかな。「七面鳥はまともに見られない」くらいかな)

★これからは感謝祭のたびに憂鬱な気分になっちまうぜ
(荒っぽい口調の割にけっこう丁寧な感じもあって少しアンバランスかも)

★これから感謝祭がくるたびにこの場所が目に浮かびそう。
(口語と考えると「この場所」ってぴんとこないんですよね。「ここ」とか)

★感謝祭を心から楽しむことは、もうないだろうな
(これは割といい感じ。ただ少し説明的ですよね。自分で実際こういう風にいいます?)

★感謝祭は、家庭の数だけあり
(たぶん文脈の中で読んだらまったく意味が通じないと思います。翻訳はあくまで読者さんがあってのものですから)

★もう二度と、以前のような感謝祭はこないね。
(ストレートな訳で悪くはないと思いますが、何か訴えかけてくる部分が弱いと思いませんか?)

★もうサンクスギビングに七面鳥は食べられないな。
(意味はそういうことですが、サンクスギビング自体日本ではまだ定着してないかなあ)

★感謝祭が来ても、もう二度と七面鳥は食べられないだろう。
(上と同じなんですが、ストレートすぎておもしろみに欠けてしまいますよね)

◎今度の感謝祭が思いやられるな
(これは悪くないです。というか、今回で一番いいかな。「次の」とするともっといい感じ)

★感謝祭が来るたび、帰ってこれない鳥がいる。
(意味不明になってます。考えすぎ。そういう意味ではないし。)

★七面鳥のおいしい感謝祭ともおさらばだな。
(「おいしい」「おいしくない」という感覚かなあ。まあ、そっちに持っていってもいいんですけど)

★七面鳥のおいしい感謝祭よ、さようなら。
(発想は上のと同じですね。ただやっぱりこうは実際には言わないんじゃないかな)

★言葉ではとても表現できない
(元の文章からさすがに離れすぎで意味がわからなくなっています。翻訳なのでそのぎりぎりのところを考えること)

★これじゃあ感謝祭というより、謝肉祭だわ。
(これだと意味が変わりすぎです。謝肉祭はレントの前だから逆に肉食大歓迎になってしまわない?)

★来年からは、感謝祭の日はトーファーキーで済ましてもらおう。
(「トーファーキー」まだ知らない人が多いと思います。あとねえ、こういうのって形が似ているだけでもアウトだと思う)

★あと100年は七面鳥は御免だわ。
(「あと」というとこれまでもそうだったということになっちゃいますよん)

★一生分の七面鳥を見た気分だわ。
(アイデアは悪くないです)

★感謝祭の光景が変わるかもしれない
(光景ではないんじゃないかなあ。光景=目に映る景色や物事のありさま、です)

★こんな感謝祭もあるんだ…
(こんなというよりはこれからの話だからこれだと意味不明になっちゃいます)

★これから、感謝祭には七面鳥に祈るわ。
(いや、今までも祈ってから食べていたことはあると思いますよ)

★もう絶対に七面鳥は食べない!
(いや、食べないというよりは食べられないんだと思います。僕も子供の時に肉屋で吊された鶏を見てから鶏肉食べられませんから)

★ベジタリアンは感謝祭に何を食べるのかしら・・・
(そういう意味で違うんじゃないと思います。発想は悪くないんですけどベジタリアンはトーファーキー食べちゃいそうで(^-^;)

★感謝祭(のイメージ)がガラリと変わっちゃいますよ。
(特に小説などの翻訳の場合あまり原文にない丸括弧は使わない方がいいと思います。アイデアは悪くないんだけど。あと変わっちゃったんだと思う)

★身の毛もむしられるよ
(身の毛をむしるという表現自体がないのでは? 造語かも知れませんが)

ということで今回は◎を付けた方がMVPということで。翻訳の難しさは原文から離れすぎず、といって原文に引きずられずというところなんですよ。

第1回ウルトラショート翻訳課題 MVP

夏苅英一さんに決まりました! おめでとうございます!

図書券 5,000円分をお送りします。

■第2回 ウルトラショート翻訳課題

では今月の課題文。Dave Barryの『Money Secrets』から”This basic tactic…gave John a big edge in his negotiations.”をお願いします。ニュアンスとかはもうおわかりですよね。問題はこのa big edgeをどう訳したらいいのか。頭をひねってみてください。

それではまた来月。(第3回は7月5日アップ予定)

★★訳文の応募は締め切りました★★