第4回 涼しくなりますよ~ 半身浴ホラー読書のススメ

一行翻訳コンテスト2007.08.16

■お勧めの1冊
怖い中にも時々笑えることも

『Swastika』
(Michael Slade著、Onyx刊)

Swastika

ということで、今回ご紹介するのは夏にふさわしいホラー系ミステリー作家、マイケル・スレイド(Michael Slade)。これまでに『Headhunter』(ヘッド・ハンター、上・下巻、東京創元社)、『Ghoul』(グール、、上・下巻、東京創元社)、『Cutthroat』(カットスロート、上・下巻、東京創元社)、『Ripper』(髑髏島の惨劇、文春文庫)、『Evil Eye』(暗黒大陸の悪霊、文春文庫)、『Primal Scream』(斬首人の復讐、文春文庫)が翻訳で発売されています。

タイトルから見ても分かるように、ホラー仕立てではあるんですが、ミステリーとしても完成度は高く、初期はやや文章が読みにくいという問題はありますが、特にデビュー作の「Headhunter」にはびっくりさせられました。全体がサーガにもなっていて、初期の作品は独立していたのが、次第にキャラが集結するようになって(「大甲子園」ではないんですが)、その中でいろいろ複雑な人間模様も楽しめるようになります。もちろん単発ものとしても読めるようになっているので、お好きなタイトルから始めていただいてもいいと思います。

マイケル・スレイドというのはペンネームで、弁護士と、歴史と英文学を学んだというその娘さんの共作です。このような理由から、ホラー、ミステリー、歴史小説、アクションものといった要素がよく言えば多彩に、悪く言えばごった煮状態で詰め込まれています。僕が山岳騎馬警察隊のことを知ったのはマイケルの作品のおかげです。

ご紹介したいのは2作目の『Ghoul』です。最初に僕が読んだのがこれ。内容は全作品中でもかなりおぞまし系で、小説、それも英語で読むから耐えられるけど、映像では1億円もらっても見られないと思う……。

さわりだけ書くと、連続殺人事件が起こり、死体からは必ず血と心臓が抜かれているという。それで警察はサイコ・キラー、シリアル・キラーの線で犯人を追っていくわけですが、実は……というわけです。にもかかわらず、つい読まされてしまうのは、いろいろなお遊びが面白いから。

たとえば、各章のタイトルはヘビメタ・バンドのパロディー(あるいはそのもの)になっていたり、登場するシーンが映画へのオマージュになっていたり、話のものすごさとは対照的にどこか毒のあるユーモアがちょっとだけモンティ・パイソンを思わせてしまうんですね。残念ながら、『Ghoul』の方はPBも翻訳も在庫切れになっていて、入手できるのは新しいシリーズ(といっても舞台とかは旧作とそんなに変わらないんですけど)の『Swastika』(Onyx)(http://www.amazon.co.jp/Swastika-Michael-Slade/dp/0451412001/ref=sr_1_1/250-5158071-6399460?ie=UTF8&s=english-books&qid=1186446634&sr=8-1)。

今回は’45年のドイツと現在のバンクーバーを交互に描くというスタイルで(亡くなったカート・ヴォネグート・ジュニアの『Slaughterhouse Five』をちょっと想い出します)、死体の額に必ずスワスティカ(かぎ十字)を刻んでいくという連続殺人鬼の物語が、第三帝国のナチス、さらに米国の軍事技術の物語と結びついていきます。科学技術的な話も盛り込まれていますので、意外に楽しめると思います。相変わらず章のタイトルには音楽趣味とかが出ています。米国やカナダの小説を読んでいると、どうしても登場するのが経済絡みのシーン。ということで今回のネタはこんな感じ。

Stockholders of Enron and WorldCom know only too well what happens when greedy corporate executives mistake thier companies’ eranings for their own personal piggy banks. Kurt’s company had been listed on the stock exchange, and he had driven it straight into bankruptcy. (P.162)

こういうのがすっと頭に入ってくるようになるといいです。

■今月のペーパーバック

『Aliens: Original Sin』
(Michael Jan Friedman著、 DH Press刊)

Aliens: Original Sin

では次に今月のPB。夏はこわいぞシリーズ第2弾ということで、上にもちらりと書いたんですが、僕はスプラッターとか一切だめなんですね。血が出るのはダメ。特に人間が出てくるのはダメ。だから「Saw」とか「Cube」とかは全部アウト。ただし怪獣とエイリアンはOKなんです。

おじさんの昔話になってしまいますが、まだ学生だった頃に、血がだめな僕に、ミズーリに留学した先輩が「僕はねえ、アメリカで『エイリアン』という映画を見たのですが、一番怖かったのが……」ということで有名なアレが腹から出てくるシーンについて説明されてひどい目にあったんです。ただ映画としてはとても面白いということで、見に行ったわけですが、あのシーンだけ眼鏡外すわけです。そうすると、何かすごいことが起こっているようだが怖くはないという。結局全編完全に見たのは7回目くらいかな。B級テイストのホラー映画としては本当に良くできた作品だと思うんです(『エイリアン2』の方はアクションものとしてガンダム見ているみたいな感じでした)。

ちなみに、あの映画がはやってから「Alien」というのはああいう地球外生物のことを主に指すようになりましたが、もともとは「illegal aliens」のように、外国人という意味でも使っていたんです。ですから成田の到着客の入国手続きのところには「Alien Passport」って書いてあったんですが、この映画のおかげで、「わしらはエイリアンかい(怒)」というクレームがあったとかで、「Foreign Passport」や「Non-Japanese Passport」に変わったんですね。

で、エイリアンはアメリカでも人気があり、映画の続編はもちろん、コミックやゲームが作られ、さらにエイリアン(それにリプリー)を主人公にしたまあ外伝がいっぱい書かれています(中には「エイリアンvs.プレデター」のようにコミックからとうとう映画になっちゃったのもあります。個人的には「エイリアンvs.遊星からの物体X」とか楽しそうなんだが)。角川ホラー文庫から翻訳が出たのもありますが、売れなかったのかな。それでハワイに行くたびに新作を買っています。

現時点での最新刊が『Aliens: Original Sin』(DH Press)(http://www.amazon.co.jp/Aliens-Original-Michael-Jan-Friedman/dp/1595820159/ref=sr_1_1/250-5158071-6399460?ie=UTF8&s=english-books&qid=1186449276&sr=1-1)だと思います。主人公リプリーは「エイリアン3」で死にましたが、クローンとして蘇り、相変わらずエイリアンと戦っています(ふと「必殺仕事人」とか「暴れん坊将軍」を想い出すのは僕だけ? ちなみに暴れん坊将軍、やたらと奉行とか老中とか倒しているけど、任命責任はないんだろうかと思うのは僕だけ?)。基本的には、ライトSFとして読むにはちょうど良い長さで、難しいテクニカル・タームも出てこないので、ちょっと寒くなりたくなったらぜひどうぞ。。

■第3回 ウルトラショート翻訳課題の講評

では、先月の課題についてコメントしましょう。
意外に難しかったみたいですね(^-^; 文脈はこうでした。

The cop looked at Mallard, then at Lucas, then at the Prosche, and said to Mallard, “You guys’re getting pretty fat rides these days.”
“Hey, the income taxes are pouring in — you can’t believe it,” Lucas said. “We figure, might as well enjoy life.”
Mallard said, “He owns it personally…he works for the city of Minneapolis. The federal government drives low-end Chrysler products that would make your mother cry with shame.” (P.178)

警官がマラード、ルーカス、ポルシェを順番に見て、マラードに「いい車に乗ってるね」と言います。それに対して「所得税がばんばん入ってくるから楽しもうと思ってね」とルーカスが冗談を飛ばしたあとのマラードのセリフが今回の課題文です。ミネアポリスというのは市の名前で、平たく言えばルーカスは地方公務員、そしてマラードはFBIの人間なので国家公務員なんですね。なのにポルシェに乗っているのは地方公務員という話です。「(これは私物なんだよ。)……こいつはミネアポリス市の職員なんだ。そして連邦政府の方(自分のこと)と言えば、母ちゃんが恥ずかしくて泣き出しそうな安物のクライスラーを走らせているというわけだ。」くらいのニュアンスなんですね。いろいろ訳し方はありますので、「彼は個人で所有しているんだ。……勤務先はミネアポリスなんだけどね。連邦政府の人間が、見たら裸足で逃げ出したくなるようなクライスラーの安物を運転しているというのに。」とか。意味があっていたら、あとはそれっぽく訳すだけでいいんですよお。

★彼はミネアポリス市の公務員なんですよ。連邦政府じゃ割安のクライスラーしか運転させてもらえないし、それじゃ母ちゃんが恥ずかしくて世間様に顔向けできないんでね
(意味は合っているんですけど、「割安」というとお得感が出ちゃうかな。刑事コロンボみたいなキャラかな)

★彼はミネアポリス市に勤めてるんだ。連邦政府じゃ使わせてもらえる車は、親の面子丸つぶれの、クライスラーの中でも一番安い車だからね
(これも意味は合っているんですけど、ルーカスとマラードの立場と車の関係が少しぼけているかも)

★彼、ミネアポリス市勤務なんだ。その連邦政府がクライスラー車に乗ってるんだけど、それがおんぼろで母親を情けなくて泣き叫ばせるくらいなんだって。
(「連邦政府」が車に乗るとつぶれると思うよ(^-^; もう一工夫。あとぼろいというよりは安物なんだよねえ)

★こいつはミネアポリスの公務員さまなんだが役所の公用車ってのがボロッボロのクライスラーでな、あんたのお袋さんなんかもしあれに乗っかったら恥ずかしくって泣くだろうな
(これだと、ルーカスがクライスラーを運転していることになってしまいますね)

★そいつはミネアポリス勤務でな。うちのお上の足なんざ、お袋のツラにも泥塗るトラクター顔負けクライスラーよ。
(気持ちは分かるんですけど、さすがにFBIの職員(=けっこう偉そう)べらんめえ調でしゃべるとは思われず。トラクターはさすがに行き過ぎ)

★奴はミネアポリス・シティーで働いている。政府が低級クライスラーを手がけてるって知ったらお前の母ちゃんは恥ずかしさのあまり号泣さ。
(これもルーカスとマラードの関係がうまく出てないです。政府がクライスラーを手がけたら、国営事業になっちゃいますよ)

★彼はミネアポリス市の職員だ。連邦政府は、君の母さんを恥で泣かせるような大衆車のクライスラーを運転しているよ。
(「連邦政府は~運転している」と読めてしまうんですね。連邦政府が何を指しているかが出るようにもう一工夫)

★彼はミネアポリスの市のために働いてるよ。その連邦政府は、君の母さんが恥ずかしくて泣きたくなるくらい、安物のクライスラー製品を取り扱ってるっていうのにね。
(ミネアポリス市は地方。連邦政府は国なんで、その関係が不明確かな。あとクライスラー製品を取り扱うというと、何か連邦政府がディーラーやっているみたいな感じがします)

★こいつはミネアポリス市に勤めているのさ。連邦政府はお前の母ちゃんが恥ずかしくって泣きたくなるような安いクライスラーを転がしていているだろ。
(これも連邦政府が誰を指しているのかを明確に出した方がいいです。もう一工夫)

★こいつはミネアポリス市警で働いてるんだ。連邦政府の方はクライスラーの一番ケチな車。まったく、お袋が恥ずかしくて泣き出すような代物だぜ。
(「連邦政府の方」だと人の意味にとらえてもらえるかがちょっと気がかりかも。あとlow-endというのは一番安いということにはならないです)

★こいつはミネアポリス市警だからな。連邦政府の人間は皆安物のクライスラーを走らせてるというのに。まったくお袋が知ったら情けなくて泣くだろうよ。
(「皆」というのはどうかなあ。この場合は連邦政府の人間=FBI=自分ということですから。それに連邦政府がクライスラーだけしか使えなくなったらたぶんGMとか怒りそう(^-^;)

★彼はミネアポリス市警の人間だ。クライスラーのお手頃な車じゃ、国家のお役人として面子に関わるだろ。
(誰がクライスラーに乗っているか分からないよね。あとお手頃というのはどちらかというと良い意味になってしまいます。お役人というのが誰かぴんとこないよね)

★ミネアポリスで働いてるんだぜ。連邦政府御用達クラスのクライスラーじゃ、おふくろさんも泣いて恥ずかしがるだろ。
(誰が働いているんだろう。前後の文章のつながりがもう一つ。ただ「御用達」というのは皮肉が効いてそれはそれでいいかも知れません)

★こいつはミネアポリスの市役所に勤めてるからな。政府はお袋泣かせのクライスター社の残り少ない最終製品を取り扱ってるんだ。
(これだとミネアポリスに勤めているとポルシェに乗れちゃう風に読めます。残り少ない最終製品ってどこから出てきたんだろう?)

★やつはミネアポリスで働いている。連邦政府が乗ってるクライスラーはおまえの母親もはずかしくて泣いちまうくらいの安物だ。
(連邦政府が乗ってしまうことになってます。連邦政府は人を指しているからそのことが分かるようにしないと)

★こちらさんはミネアポリスの地方公務員だからね。連邦政府はクライスラーの安物さ。おふくろが見たら恥ずかしくて泣くだろうよ。
(連邦政府=クライスラーの安物という風に読めますね。自分が分かっているからというのではなく、相手にどうやったら通じるかというのを工夫してみてください)

★これでも彼はミネアポリスで働いているんだよ。ミネアポリスの政治家は安めのクライスラーぐらいしか買えないっていうのに。
(うーん、これだとミネアポリスが特殊な町に見えますね。政治家じゃないです。文脈をもう少ししっかり把握しましょう)

★彼はミネアポリス市の職員なんだ。連邦政府に雇われて、クライスラーの低級品に乗せられて、母親の顔に泥を塗るような真似はしたくないんだよ。
(いや、意味がぜんぜん違っているから(^-^; クライスラーの低級品というか、ポルシェに比べるとクライスラーはずっと庶民的で安いというだけの話なんですね)

★あっちはミネアポリスの市の職員だ。それなのに政府の人間が安いクライスラーの車に乗ってるとあっちゃあ、母親も悲しくて泣けてくるよな。
(ちょっとべらんめえ調なのが気になりますが、今回の中では一番うまく訳せてましたね。「あっちゃあ」は「あったら」くらいが良いかも)

第3回ウルトラショート翻訳課題 MVP

浜崎 千夏さんに決まりました! おめでとうございます!

図書券 5,000円分をお送りします。

■第4回 ウルトラショート翻訳課題

ということで、次回の課題文。

Stockholders of Enron and WorldCom know only too well what happens when greedy corporate executives mistake thier companies’ eranings for their own personal piggy banks.

本文中の文脈も一応見ておいてください。知らない人はEnronとかWorldComについてもちょっと検索すること。特にpersonal piggy banksをうまく訳すようにしてください。
それではまた来月(その頃にはQ&Pコーワから解放されたいものです)。

次回は9月5日アップ予定。

★★訳文の応募は締め切りました★★