第1回 ユーモアの翻訳に挑戦

文芸翻訳コンテスト2016.04.15
今回から始まった文芸翻訳家・宮脇孝雄さんの連載「本に埋もれて、翻訳の享楽」。宮脇さんが未訳・既訳を問わず「おもしろい!」と思った小説を取り上げます。その小説の一部を課題文として、読者から訳文を募り、宮脇さんが優れた訳文を決定するコンテスト形式のコラムです。『英和翻訳基本辞典』や『翻訳の基本』などの著書もある宮脇さんが翻訳のコツを伝授! 翻訳のおもしろさ、奥深さを体験しましょう!月1回の更新予定です。

第1回の課題文はこの作品から

Coffin, Scarcely Used

Coffin, Scarcely Used
Colin Watson 著

イギリスの作家が小説の要素として一番大事にしているのはユーモアです。もちろん程度の差はありますが、どんな深刻な話にも、必ずユーモアが含まれています。

ミステリの場合もまったく同じで、すべての英国ミステリはユーモア・ミステリである、といってもいいかもしれません。ミステリはだいたい殺人の話ですから、ユーモアはその陰惨さを中和する働きもしています。

ミステリとユーモアの融合を得意とする作家はたくさんいますが、イギリスのコリン・ワトスン(Colin Watson、1920-1983)もそんな作家です。ただし、ユーモアは翻訳しにくいので、あまり紹介が進んでいませんでした。

課題として取りあげるのは、そのコリン・ワトスンの長篇、Coffin, Scarcely Used (1958年)の冒頭です。ワトスンの作品はだいたいイングランド東部・リンカンシアのFlaxboroughという架空の町を舞台にしていますが、これがその第一作です。

題名もふざけてますね。何も考えずに訳せば「ほとんど使われていない棺」ですが、これは中古販売のカタログでよく使う書き方で、「棺売ります、何度か使っただけで、新品同様です」という意味になります。普通は、使わなくなったハンドバッグなどを売るときの文言です。

思わずにやりとするそんなユーモアが、冒頭の文章からも感じられます。あんまり肩に力を入れず、さらりと訳せば、原文の感じが伝わるかもしれません。応募をお待ちしています。

課題文

Considering that Mr.Harold Carobleat had been in his time a town councilor of Flaxborough, a justice of the peace, a committeeman of the Unionist Club, and, reputedly, the owner of the town’s first television aerial, his funeral was an uninspiring affair.
And considering the undoubted prosperity of Mr.Carobleat’s business establishment, the ship brokerage firm of Carobleat and Spades,its closing almost simultaneously with the descent of its owner’s coffin into a hole in Heston Lane Cemetery was but another sign that gloria mundi transits as hastily in Flaxborough as anywhere else.