第7回 大学のときに読んだペーパーバック

一行翻訳コンテスト2007.11.16

■お勧めの1冊
ヘミングウェイの有名な短編作品

『The Nick Adams Stories』
(Ernest Hemingway著、Scribner刊)

The Nick Adams Stories

では今月の一冊目。どうも僕の推薦書はクセが強いようなので、片方は少しフツーの作品になるように心がけた方がいいかなとこれまでの半年に取り上げた本のリストを作ってみたら気付いた次第。ということで、今回のまともな方はヘミングウェイを取り上げてみようかと思います。大学に入学した時に、最初の一冊として勧められたのがヘミングウェイの「老人と海」(The Old Man and the Sea)とAgatha Christie(どれでもよい)でした。薄いのと英語が平易で読みやすいという理由だったと思います(他にPearl BuckやW. Somerset Maughamあたりもいいかも)。でも「老人と海」ではフツーなので、ここでは「The Nick Adams Stories」を取り上げてみたいと思います。これはヘミングウェイの短編集に良く登場し、ヘミングウェイの分身とも言われているニック・アダムスを主人公とする物語を集めたもので、最初に登場した時は医者の子供として先住民のお産に立ち会うところからスタートして、成長し、兵士となり、最後は作家、親にまでなるまでの過程が断片的に描かれていくというものです。確か大学2年くらいの時に読んだのだと思いますが、文体・用語ともとても読みやすいはずです。いわゆるハードボイルドというスタイルを確立したのはヘミングウェイや、ミステリーでいえば、ダシール・ハメット、レイモンド・チャンドラー(村上春樹が「ロング・グッドバイ」(長いお別れ)を訳出し直したので有名になったかな?)、それにアール・スタンリー・ガードナー(ペリー・メイスンものってもう知らない人が多いかな?)といった作家です。で、このシリーズはまあ昔読んだというのもあるのですが、強烈な印象を残しているのは、”The Killers”という作品が入っているから(結局そこなんですが(^-^;)。マトリックスのエージェント・スミスではありませんが、トレンチコートに帽子を被ってといういわゆる映画の殺し屋のスタイルというのは実はこの作品が始まりだったと思います。

“The two of them went out the door. George watched them, through the window, pass under the arc-light and across the street. In their tight overcoats and derby hats they looked like a vaudeville team.”

こういう感じ。昔の小説というのはすべてを記述するというのがあったんですね。部屋の描写だけで数ページ費やしたりとか。そういう部分を読者のイマジネーションに委ねるというのは今なら当たり前かも知れませんが、最初に踏み出すというのはずいぶん大変だったと思います。今ではpolitically correctではないような表現とかも出てきますが、そういう時代性も含めて、今読んでも面白いと思います。

■今月のペーパーバック
読みやすい長さのホラー作品
『The Attraction』
(Douglas Clegg著、Leisure Books刊)

The Attraction

では今月のPBのご紹介。今月はホラー作家ですが、先月のEdward Leeとは違って、もう少し?ソフトなのが今月ご紹介するDouglas Clegg。”The Attraction”は「The Attraction」と「The Necromancer」という2編の中編を収録したまあ入門編みたいな感じです。ここでは前者について取り上げると、ネタとしてはけっこうお約束なんですが、大学生がみんなで旅に出て、その途中で恋のさや当てとかいろいろあって、たまたま邪悪なものを呼び起こしてしまって、あとは生き延びるために必死に戦うといった展開。けっこう低俗なんですが、それでも楽しめるのは、やはりアメリカの小説の一つの流れである成長物語がうまく取り入れられているからでしょう。もちろんRobert McCammonの”Boy’s Life”やStephen Kingの”The Body”(映画”Stand by Me”の原作)ほどの深みはありませんが、それは字数の違いということで。それにしても読みたい本はいっぱいあるのに、時間がなくて困ったなあと思う今日この頃。時間は大切に使いましょうね。

■第6回 ウルトラショート翻訳課題の講評

では今月のコメントです。まず状況を再整理しておきましょう。ナディア(she)と主人公、ルーカス(Lucas)が犯人を追いつめているわけですが、向こうはライフルを持っていてこちらに向かって撃ってきている。そこでルーカスがナディアに対して言うセリフを訳すというものです。セリフだけでと書いたんですが、なぜか全文訳してくださった人もいらっしゃるようで。翻訳のトライアルだと指示に従わないと落ちちゃうぞ。

She didn’t move, so Lucas took her by the arm and steered her toward Carl’s Chevy. “Just…stay.”
“I’m not a dog,” she said.

彼女が動かなかったので、ルーカスはその腕を取ると、カールのシェビーに向かって引っ張っていった。

stayというのは「待て」で一般的にも使う言葉なんですが、それをネイティブでないナディアは犬の用語「sit」(お座り)とか「stay」(待て)とか「down」(伏せ)のように覚えていたためにこういうセリフになっているわけです。ただし、銃でねらわれているというタフな状況ですから、のんびりした会話に訳さないことがポイント。あとやっぱり男女の別はうまく出したいですよね。たとえば「おとなしく、伏せてろ」「犬扱いしないでよ」とか「いい子にして待て」「犬じゃあるまいし」みたいな感じかな。ではさっそく皆さんのチャレンジを拝見しましょう。

1. 「いい子だから、ここにじっとしてろ」「犬みたいに言わないで」
(けっこういい感じだと思います。「ここに」はない方がすっきりするかな)

2. 「しばらく伏せてたほうがいい」「あたしは犬じゃないのよ」
(後半は悪くないですが、前半は少しのんびりしすぎでは?)

3. ナディアが動こうとしないので、ルーカスは彼女の腕を掴んでカールのシボレーまで引っぱっていった。「いいか……待て」「人を犬扱いしないで」ナディアは言った。
(「シボレー」はそうなんですが、ここでは「シェビー」でいいかも。セリフの部分は「待て」から犬に結び付けるのが難しいんですよね。あとここは短いからいいですが、「~said」の類をどう処理するのかがけっこう大変だったりします)

4. ナディアは動かなかった。ルーカスは彼女の腕をつかんで、カールのシボレーへと向かわせた。「ステイだ。わかるな?」「私は犬じゃないわ。」
(「向かわせる」というのはちょっと流れが悪くなりますね。「ステイだ」はわからないと思います)

5. 「そこで、じっとしてるんだぞ。」「犬みたいな扱いは御免だわ。」
(これも悪くないんですが、実際に声を出すとわかりますが「犬扱いは」の方がすっきりしますね)

6. ナディアが身を守ろうとしないので、ルーカスは彼女の腕をつかみ、カールのシボレーがある場所まで引き連れて行った。「ここで・・・待て。」「飼い犬みたいに言わないで。」ナディアは言った。
(身を守ろうとしないと死にます(^-^; 「引き連れて」は少しニュアンスが違うかな。セリフは前半はまあいいとして、「飼い犬みたい」がやっぱりテンション低そう。それなら「飼い犬扱いしないで」の方がすっきりするよね)

7. 「おとなしく・・・此処でお留守番してろ」「私は犬ではない」
(「此処」は開きましょう。女性だから「私は犬ではない」は少し堅苦しい感じがします)

8. 「じっと待っていろ。」「私は飼い犬じゃないわ。」
(これもいい感じなんですが、もっと簡潔に出来そう。「動かずに、待て」「飼い犬じゃあるまいし」とか)

9. 「よし、ここにいろ。”ステイ”だ。」「失礼ね、犬と勘違いしないで。」
(「ステイ」だとしてしまった時点で、もう意図的な発言になっちゃってるんですね。もう一工夫)

10. ナディアが動かないので、ルーカスは彼女の腕を取って自分のシボレーに引き寄せた。「ステイ!」「私は犬じゃないわ。」ナディアは言った。
(カールのだから自分のじゃないよね。「ステイ」としてしまうと、意図的になっちゃいます。あくまで偶然だから)

11. 静止したナディアの腕をルーカスは引っ張り、カールのシボレーまで連れて行った。「いいか。・・・待て。」「そんな犬に言うような言い方しないで。」ナディアは言った。
(静止には違いないけど、フリーズしているような気がしません?(^-^; 前半はちょっと意味が通じにくい。後半は「言う」「言い方」とこれもちょっとくどく感じます。もっと流れを作りましょう)

12. ナディアがじっとしているので、ルーカスは彼女の腕をつかんでカールのシボレーの方へ行かせた。「とにかくここで待ってろ。」「犬みたいに言わないでよ。」と彼女が言った。
(流れはいい感じなんですけど、「ここで待ってろ」って別に犬じゃなくても言うんだよねえ。惜しいなあ)

13. ナディアが動かなかったので、ルーカスは彼女の腕をつかみ、カールのシボレーが停めてある方へと導いた。「とにかくここで…待て。」「犬に命令するような言い方はやめて。」ナディアは言った。
(地の文の訳は悪くないです。会話の部分は、緊迫した状況でここまで長いセリフを言えるかどうかがちょっと疑問。もう少しコンパクトに)

14. 「そのまま…待て。」「私は犬じゃないわ。」
(「そのまま」だと別に犬じゃなくてもいい感じがしちゃうんですよね。もう一工夫するといい感じなんだけどなあ)

15. ナディアはじっとしていた。そこで、ルーカスは腕を掴み、カールのシボレーの方へと引っ張って行った。「よし…….待て!」とルーカス。すると、すかさずナディアが言った「私は犬じゃないわ!」。
(じっとしていたわけではないんですね。動かなかったので、引っ張っていった感じ。「すかさず」とかは足しちゃうと面白さがなくなっちゃうんですよ)

16. 「いいか、ここでおあずけだ」「わたし犬じゃないわよ」
(「おあずけ」だと何からかが分からないですから唐突ですよね)

17. 「まて…おあずけ」「犬のしつけに慣れてるみたいね」
(銃撃されている最中にこれはないと思います(^-^; いじくりすぎ)

18. ルーカスは固まっているナディアの腕を引っ張り、カールのシボレーの陰へ追いやった。「そこで待っとけ」「犬じゃないんですけど」
(steerだからguideというか引っ張っていく・連れて行くという感じですよね。追いやるはニュアンスが違うと思う。「待っとけ」はちょっとくだけすぎ)

19. 「ここで待て。」「犬じゃないわ。」
(もう一工夫かな。どうもぴんとこないんですよね。リズムが悪いと思う)

20. 「待て。わかったな?」「犬じゃないんだから。」
(「いいから待て」くらいにしたらよかったかなあ)

第6回ウルトラショート翻訳課題 MVP

どの方のもそれなりにおもしろみがあるのですが、逆にどれももう一工夫という気もしました。その中ではあくまで好みも入ってですが、8.さんにMVPを差し上げようと思います。がんばってください。

星 晶子さんに決まりました! おめでとうございます!

図書券 5,000円分をお送りします。

■第7回 ウルトラショート翻訳課題

では来月の課題文です。この間「Resident Evil: Genesis」(バイオハザードのノベライズ)を読んでいたら、天才コンピュータ科学者で、英国人(ここ重要)で、果てしなくシニカルな教授(最初の授業で絶対Aは出さない、半分以上落とす……と宣言するタイプ)の授業に、ある女子生徒が眠りも削って付いていった結果、次のようなレターを受け取るというものです。全文は出せないのですが、この文章の前に「よくがんばった、まああくまで凡人の割りには」みたいな流れがあります。そして、今回訳していただきたいのはその最後のパラグラフの最後の2行。

Nevertheless, you have performed the tasks you were given in the class, and I would be dishonest if I did not give you fitting reward for that accomplishment, even if it is less of an accomplishment than I might desire. A.”

最後の”A.”はaじゃないですから。この文章をパンチを効かせて訳してください。ちょっと長いけど難しいところはないと思います。that accomplishmentは授業でよくやったことをさしています。

次回は12月5日アップ予定。

★★訳文の応募は締め切りました★★