第8回 哲学書で知る一行、一語の重み

一行翻訳コンテスト2007.12.16

■お勧めの1冊
哲学書は分かりやすい英語版で

『Tractatus Logico-Philosophicus』
(Ludwig Wittgenstein著、Routledge刊)

Tractatus Logico-Philosophicus

 

学生の頃は、もっぱら英文学(といいながらホラーメインだったりして(^-^;)とかを読んでいたわけですが、ちょうどその頃にたまたま電車の中で読み始めたのが栗本慎一郎(今は東京農業大学の教授だったかな)の「パンツをはいたサル」という本でした。学生の頃は思想とか哲学とかは興味がどうしても持てなかったんですが、当時はニューアカデミックスみたいなのがはやっていて、浅田彰の「逃走論」とかがベストセラーになっていたんですね。これを読んだ時は、何か目からウロコ状態だったんですね。それで栗本がお勧めする本とかを読みまくったんですが、その過程で出会った一冊が「Tractatus Logico-Philosophicus」という本です。著者はルードヴィッヒ・ヴィトゲンシュタイン。邦題は「論理哲学論考」といいます。翻訳で最初読んだというか、読もうとしたのですが、まったくわからん。それで翻訳自体は部屋の片隅に積み上げられたままになっていたんですが、それから何年かして会社を辞めた後、大学のクラブの学外指導員というボランティア活動をするようになって、そこでクラブの後輩と勉強会を始めたんですね。そこで昔分からなかった「論理哲学論考」を英語で読もうということになったわけです。いやー、つらかった。何せ一行の意味を理解した気になるまでに軽く4~5時間かかるんですから。でも、あの時くらい一行とか一語の重みについて考えるだけ考えた経験というのはないと思うし、そのことが翻訳に実はものすごく反映されているように思います。たとえば、ヴィトゲンシュタインは、

1.The world is everything that is the case.

1.1The world is the totality of facts, not of things.

1.2The world divides into facts.

などとおっしゃるわけです。あ、だいじょうぶです、これは課題文ではありません(笑)。引かないでね。そうすると、caseという単語の意味から悩み出すわけですよ。あるいはfactでもいいです。そうすると、日本語で事実っていう意味かなというだけではだめなんですね。一語一語を再定義、あるいは再認識していかないと理解できないわけです(いや、本当に理解したとは思わないですが)。そうすると、factという言葉の意味を理解するために、たとえば英英辞典を引く、語源を調べるといった作業までやっていくわけです。たとえばこんな感じ。「<ラテン語 factum なされたこと,行為〔facere「する(DO1)」の過去分詞 factus の中性形名詞用法)」(ランダムハウスより)フランス語のfaireとかだよね。そうすると、thingsとfactsの違いは何かとかまた考えなければならない。そのまま読めば「世界はものではなく、事実の全体である」とかいうことになるんだろうけど、これだけ読んでも意味分からないですよねえ……。でも自分のこととして考えれば、それなりに解釈はできるわけで、たとえば、みなさんの多くはこの連載に出会うまで、「はまぞおくん」なんて知らなかった人が多いと思うんです。でも、みなさんが知っているか知らないかにかかわらず、この48年くらいの間、「はまぞおくん」というthingは存在していたんですね。でも「はまぞおくん」は皆さんの世界の一部ではなかったわけです。「はまぞおくん」抜きでも「世界」は成立していたわけです。でも、いまは皆さんは「はまぞおくん」の存在を認識したので、「はまぞおくん」は皆さんの「世界」の一部になってしまいました。あうううう。こういう理解は邪道なのかも知れないですが、でも英語とか言語とかと向き合う上でものすごく役立ったんですね。といってもこの本は、数学の知識とかもないとしんどいので、無理して読まなくてもいいです。ソクラテスとかデカルトとか、もっとシンプルなのを英語で読んでみるといいですよ。哲学は英語とかの翻訳で読むとずっと分かりやすいです。でも奇特な方がいたら、ぜひこの本を手に取ってみてください。

 

■今月のペーパーバック
文学的な香りが漂うホラー
『The Conqueror Worms』
(Brian Keene著、Leisure Books刊)

The Conqueror Worms

 

肩の凝る本はここまでとして、もう1冊はBrian Keeneをご紹介します。9月にEdward Leeの「Slither」についてご紹介しました。あっちは虫のサイズが数メートルでしたが、今回は数十メートル(笑)。タイトルは「The Conqueror Worms」。どう考えても、やばそうな表紙で単なる怪獣ものと思うとそう一筋縄ではいかなくて、意外に面白いんです、これが。ホラー作家としては筆力のある方で、どちらかというとStephen KingやRobert McCammonのような文学的な香りが漂ってしまいます。この作品は3章からなり、うち2章は老人の視点から、もう1章は若者の視点から描かれています。そこに描かれる世界は、ある意味Ballardのような終末を感じさせるものです。かつてベトナムにも行ったアメリカの片田舎に住む、妻を亡くした老人の視点から、最初は淡々として描かれる、ただ雨の降り続ける世界。既に日本を含む太平洋の島々やニューヨークといった海に近い土地は水の底に沈んでいます。そして降り続ける雨によって、地の底や海の底に眠っていたものたちも上がってくるのです。ホラーですから、怪物も出てはくるんですが、怪物の恐怖とかではなく、むしろ老い、そして雨と共に日常が崩れていく様がとても不気味でもあり、また美しくもあります。意外な掘り出し物かも知れません。たとえば、

I passed the little apple tree Rose and I had planted six years ago. It lay uprooted and on its side now, withering and dying as the soil around it turned into quicksand. (P.118, Leisure)

というのは、亡くなった妻と一緒に植えたリンゴの木が、雨によって倒れているというシーンですが、これが老いや不幸の象徴のように何度か描かれていきます。こういった感じのシンボリズムが効果的に使われていて、時々ホラーということを忘れたりします。ちなみにBrianの他の作品のタイトルは、「City of the Dead」、「Ghoul」、「The Rising」といった感じ。やっぱりやばそうですね(笑)。

■第7回 ウルトラショート翻訳課題の講評

では前回の課題文について。

Nevertheless, you have performed the tasks you were given in the class, and I would be dishonest if I did not give you fitting reward for that accomplishment, even if it is less of an accomplishment than I might desire. A.”

まず英国人らしいもってまわったような言い方がうまく訳せているか、それから、最後がうまく決まっているかが評価の基準になるでしょう。

「然れども、貴君は授業で与えられし課題を成し遂げ、よしんばそれが私が望みうるところの成果には及ばないにせよ、かくの如き成就に相応しき報奨を与えずんば、私こそが不誠実であるということになろう。故に貴君にAを与える。」

やりすぎ? いや、もっと口語調でいいです。でもリズムとか雰囲気は大切にね。それではコメントしましょう。

1. とは言え、君は、授業で与えられた課題をこなした。それが私が望むレベルに達さないとしても、私が誠実である証に、君がやりとげたことに正当な評価を与えなくてはならない。A。
(けっこういい感じなんですけど、「誠実である証」ってしちゃったのが惜しいかな。ここを「I would be dishonest if」とやるところがいやらしくていいので、そこを出して欲しかったなあ)

2. とはいえ、君はこの授業の所定の課題を履修したので、私が期待するレベルには達していないとしても、その頑張りにふさわしい成績を認定するのが筋だろう。A。
(「履修=定められた学科・課程などを学習し、修得すること」なので、ちょっとこうは使わないですね。あとやっぱり「がんばり」はこのおっさんは認めないと思う。がんばったことを評価しているのではなく、あくまで達成したことを評価しているからね。もっと辞書を引こう)

3. そうは言っても、君はすべての課題を遂行したわけだし、不誠実だと言われないためには君の業績に見合った評価を与えるべきなのだろう。まあ、その業績も私が願っていたレベルとは言い難いがね。評価はAだ。
(ちょっとくだけた感じの訳ですが、その文脈での雰囲気は出ていると思います。ただ仮定法を使ってくるあたりの回りくどさが消えているかなあ)

4. まあしかし、君は授業で与えられた課題をこなしており、もし私がそれを評価せねば公正ではなかろう…たとえそれが私の期待に応えるものでなくともだ。ほれ、Aだ。
(「ほれ」はダメよ、さすがに(^-^; 柔らかく訳してもらっても構わないんですが、やはり限界はあるはず。人を人と思わないような教授だから、口調はかえってそういう感じにはならないんじゃないかな)

5. でもよくやったよきみは。僕が望むほどじゃないけど、頑張った分だけいい成績をあげなくてはいけないね。Aにするよ。
(書き言葉なので、ちょっとこうはやっぱり言わないんじゃないかなあ。とにかく「がんばった」っていうのはこのおっさんは認めないと思う)

6. いずれにせよ、貴女は授業で出された所定の課題を終えたわけですから、その出来が私の考えるところのAに達しないとしても、それ相応の評価をしなければならならないとは考えています。
(丁寧な感じはそれはそれでいいんですけど、それ相応の評価はAじゃなければなんなんだろうとは思っちゃう。やっぱり落ちをなくしてはいけん)

7. それでも、君は授業での課題をこなしたわけだから、たとえ「A」をあげてもいいという程じゃなくても、その努力に見合う評価をしないと、私がひどいやつだということになるんだろうね。
(「A」がpunchlineなんですね。だから落ちは何としてもいかさないと。あと「ひどいやつ」って言えるような先生だとそんなにやなやつじゃなくなっちゃうんじゃないかなあ。自分がひどいやつなんて思わないと思う、このおっさんは)

8. とはいえ、授業で与えられた課題はそれなりに君はこなしたようだし、たとえその出来がわたしの望みにはそぐわないとしても、それに見合った報いをやらなければ、わたしはいい加減な評価をしていることになるだろう。A
(この先生「それなり」だったら絶対評価しません。accomplishだからねえ。carry out a taskなんですよ)

9. しかしながら、貴女は授業で与えられた課題はやりとげた、なので、もし私がその業績に相応しい見返りを与えなかったなら、不誠実となろう、たとえその業績が私の望み以下の程度であっても。Aだ。
(流れは悪くないです。ただ句読点の使い方がちょっとよくないなあ。あと少し硬めの言葉と柔らかい言葉が混ざっているかなあ。見返りと不誠実はバランス悪いよねえ)

10. そうは言っても君は課題をやり遂げたのだし、私の期待以下の成果とはいえ適切な判断を下すべきだな。Aだ。
(原文の回りくどさが消えているかなあ。rewardsが消えちゃっているのもうーん。これはもう少し原文にある言葉をもう少し活かしてほしかったなあ)

11. 何にしろ、君はクラスで出された課題をやり遂げた訳で、もしそれに値する点をやらなければ、私は不正直という事になってしまうだろう。もしそれが私の望む程の出来ではなくともね。「A」
(「ね」と「点」がちょっと引っかかるかな。その辺でけっこう親しみやすい先生になってしまっているかも。あと「何にしろ」も気になる~)

12. それにもかかわらず、君はちゃんと授業で出された課題をこなした。私が、その君の頑張りに相応しい評価をしなかったら、不誠実ってことになってしまうだろう。たとえそれが君の期待するA評価に届かないものであってもね。
(がんばりは避けたいんだよねえ。期待しているのは君じゃなくて私。あとオチがなくなっていますね。もう少し原文を丁寧に読むこと)

13. 君が課題をこなしたことは確かだ。期待していたほどではなかったが、それに値する評価を与えなければうそを付くことになる。したがって、「A」だ。
(これだと先生はAクラスの生徒がいることを期待していることになってしまうんだけど、絶対Aを出さないって言ってたから期待してないんだよねえ)

14. “まあ、君は確かに私の生徒の中では良くやった方だと思うよ。そのことについては、よくやったといわざる終えないのだが、しかし私の目から見れば君はまだ「中の下」ってとこかな。”
(んー、原文の意味からはずれすぎています。よくやったとかやらないというのもこの先生には関係ないのだと思う。あくまで、成し遂げたことが、先生の客観的水準に照らしてAを与えざるを得ないという文脈だから)

15. 確かに君は私の生徒の中では、よくやっていたほうだとおもうよ。それについては正当な評価を下さねばならんだろうね。まあ、私から言わしてもらえば君は「中の下」と言わざるおえんのだがね。
(上のやつのバリエーションかな。コメント的には同じ。「言わざる__を__」ですから注意。あくまで翻訳は原文ありきだから、その上に立っていろいろ工夫してみてね)

16. “それでも、君は授業で与えられた課題をこなしたわけだから、君の頑張りにそれ相応の報いをやらねば私が誠実でないことになる。もっとも、私の望んだ成果には乏しいがな。Aとしよう。”
(「がんばり」がどうにも気にはなるんだけど、後半はまあまあかな。ただ「乏しいがな」と「Aとしよう」の間には何か一拍欲しいような気もしますが)

17. だがしかし、出された課題をこなしたわけではあるし、たとえそれが私が期待していたほどのものではないにしても、それなりの評価を与えるのが道理というものだろう。 A
(「それなり」だったら「しかるべき」かなあ。でも流れはけっこう悪くないかも知れません。「道理」という訳語は一工夫あっていいと思いますが、ここでは「私」を出してほしかったかな)

18. しかし、君は授業で与えられた課題をきちんとこなした。私が望む出来には及ばないにしても、それに見合った評価を与えないわけには行かないだろう。つまりAだ。
(ああ、雰囲気的にはやや柔らかいですけれども、とても良い感じです)

19. とりあえず、君は授業で与えられた課題をこなしたわけだ。その頑張りが、私の期待以下であったとしても、公正でありたいと願う私は、その頑張りに対しては報いたいと思う。よってA。
(「がんばり」は使いたくないなあ。your effortsとかならいいんだけど。ただ「~に対して報う」とかはよい表現だと思います。もうちょっとがんばれ)

20. とはいっても、君はクラスの課題をやってのけた。たとえそれが僕の望むものに満たなくとも、君の成果に対して見合うだけの報酬を与えなければ僕は不誠実だということになるだろうな。評価 A
(これも少し柔らかいかな。報酬はどうかなあ。「労働や物の使用などに対するお礼の金銭や物品。」(大辞林)ですからちょっときついかも)

21. しかし、君は僕が授業で与えた課題は全てやってきたし、これでそれに見合わない成績をあげたら公平じゃないからな。まぁ、僕のスタンダードにはまるで届いちゃいないけど。今学期の成績:A。
(やるだけじゃだめなのよねえ。「まるで」というニュアンスもないと思います。原文のニュアンスは拾いながらなお大胆に行ってみてね)

22. いずれにせよ、君が私の授業に最後まで付いてこれたのは事実だ。紳士たるもの、君が成し得たことに見合う評価を与えてやらねばならんだろう、たとえ君の成績が、私の望んでいるA判定には及ばないとしてもだよ。
(付いてきたかどうかというのは判定基準としては微妙かな。この先生が自分を紳士と思っているかどうかは不明なので、ちょっと「紳士」は避けたいかも知れません。あとオチが消えちゃっているね)

23. それでもやはり、君は授業で与えられた課題をやりとげた。それに相当する評価をやらねば、私は不誠実となってしまう。たとえ私が要求する完成度より劣っていても、Aだ。
(完成度っていうのは何の完成度なんだろう。それに当たるものがこの文章の中では見つからないのがネックかなあ。全体の意味はほぼ取れていると思うのでもう一踏ん張り)

24. それにしても、君は課題を良くこなしたものだ。私の期待には及ばないが、それなりの評価を与えようと思う。今回は”A”だ。
(この先生は「こなしたものだ」という感想は持たないだろうなあ。「今回」はじゃあ次回はあるのかとか突っ込みたくなるから、やはりない方がいいと思います)

25. 君はあのクラスの課題によくついてきた方だと言わざるを得ない。私は、生徒を正当に評価しないことほど恥ずかしいことはないと考えている。たとえ、その出来が、私の望むレベルより低いとしても、だ。よって、Aを進呈する次第である。
(いや別に恥ずかしいと思っているわけではないと思います。ただ正直とか誠実ではないと考えているのでしょう。「ついてくる」かどうかもこの先生は気にしないでしょうねえ。大切なのは成果物だけ。でも最後の行は悪くないかも)

26. しかし、よくここまで私の授業に付いてこられましたね。Aをつけるほど君が優秀ではないとしても、努力に対してふさわしい評価をしなければなりません。これからいじわる教授呼ばわりされるのもなんですし。
(いや、Aをくれたんだよ(^-^; あと「いじわる教授」とかこの人は絶対に考えないと思う。要求する高いレベルに応じられない者は評価しないといっているだけなので)

27. とはいえ、君は私が授業で出した課題をこなしてきており、たとえ私が望むレベルにわずかに足りないとしても、そのテスト結果に見合う成績をつけなければ正直とはいえないだろう。Aだ。
(「わずか」という価値判断をこの文章ではしてないです。テストもしたかどうかは書かれていません。少し足しすぎ。全体の雰囲気は悪くないんだけどねえ)

28. されども貴君は講義で与えられた課題を修了したものであり、その出来にふさわしい評価を授けないならば、これは不誠実というものであろう。それが私の求める程ではないにしてもだ。A.。
(努力は認めたいところ。でも修了=一定の学業・課程を全部おさめおえること。なので、課題は修了しないと思います。「それ」が何を指しているのかがちょっとわかりにくいかなあ。もうちょっとがんばりましょう)

29. それでも君は授業で与えられた課題をきちんとこなした。私の要求を完全に満たしたわけではないが、君の努力に見合った評価をしなければ私が不実者にされてしまうからな。Aだ。
(「完全」という価値判断はしてないです。あとこの先生の感覚では「されてしまう」というのはないと思います。基準は自分の中にあるんですよ)

30. とは言え、君は授業で与えられた課題をこなしたわけであるし、その努力に対してふさわしい評価を下さなければ、真実味に欠けると言えよう。もっとも、その程度の努力では、私の期待には応えられないがね。まぁいいだろう、評価はAだ。
(「真実味」はちょっとニュアンス違うかなあ。真実であるという感じ。本当らしさ。(広辞苑)だもんねえ。「その程度」とかいった感じの価値判断する先生ではないんだよねえ。もう一工夫)

31. それでも、君は授業での課題を成し遂げたのだから、その成果にふさわしい報酬をあげなければ、私は嘘をつくことになる。たとえそれが私の求めるレベルに達していないものだったとしてもね。だからAだ。
(「嘘を付く」はビミョーかなあ。「自分に」を付けるといいかも知れません。報酬は上にも書いたけれどもここでは使いにくいかも)

32. まあ、授業であたえられた課題はそこそここなしているようだし、その努力にそれなりの評価をしないのでは気の毒だからね。わたしがよくやった、と認めるにはいささか貧弱な内容ではあるが、Aということで。
(「そこそこ」だったらこの先生はAくれないと思うんですよ。「気の毒」といった気持ちはこの先生にはないと思います。「貧弱」だったらAくれないと思います)

33. それでも君は講義課題に取り組んだ。その頑張りに見合う評価を下さねば、誠意に欠けるというものだろう。とは言え私の基準にはまだまだだがな。Aだ。
(取り組むだけでAくれるなら苦労しないでしょうねえ。「がんばり」も一緒。「誠意に欠ける」はなかなかいい感じなので、全体にこのトーンで行って欲しかったなあ)

34. 私の授業において、君は与えられた責務を果たしてきた。それに対し相応の評価を与えねば、私が不誠実ということになる。私の要求には到底及ばない成果であるにせよ、「A」ならば文句はあるまい。
(「到底」かどうかもこの文章からは判断しにくいんじゃないかなあ。この部分はあくまで要求には及んでいないとしか言ってないんですよね)

35. それでもきみは、授業で出された課題にくらいついてきた。だからそのしぶとさに見合ったほうびをやらないと、不誠実のそしりをまぬかれまい。わたしが望むレベルには、まだまだだがね。評価A。
(「くらいつく」とか「しぶとい」ことを評価するなら、A取れる人はもっと出ると思いますよ。「まだまだ」というとけっこう差があるような印象を(僕は)受けるんだけどなあ。そういう価値判断はしてないような気がする)

36. しかし、講義で出された課題は全部こなしたし、私が本来要求するレベルには若干達していないものの、君の実績を妥当に評価しないとすれば、私は自分に嘘をつくことになる。因って、A。
(「全部」とは書いていないかな(まあ当然全部でしょうけど)。「若干」かどうかは不明。後半はいい感じですね。かなりいい方。もう一声)

37. とはいえ、君は授業で提示された課題をやり遂げた。その功績に見合う褒美を与えなければ、私は不誠実だということになるだろう。たとえ君の出した成果が、私の要求するものには及ばないとしても。評価Aを進呈する。
(功績=すぐれた成果。立派な働き。手柄。だからセーフかなあ。褒美=ほめて与える品物や金銭。褒賞。なのでこれまた微妙かも。報奨ならオッケーなんだけど。でも出来はいいです。もう少し国語辞典を引いてみてください)

38. それでも、授業で与えられた課題を君はすべてやり遂げたわけだから、そのことをきちんと評価してあげなければわたしが不届き者ということになってしまう。たとえ成績がわたしの望むレベルにはには及ばないとしてもね。優とする。
(これもけっこういい感じ。成績がちょっと気になるかなあ。「にはには」がなければ「優」あげたんだけどなあ(^-^; )

39. しかしながら、授業での課題もしっかりこなしたことをかんがみれば、たとえ私の望むほどまでの成果でなくとも、君のがんばりに見合った点数を与えないとなると、私に誠意が欠けていることになる。評価 A。
(「がんばり」が気になるんですよ。あと評価なのでここでは「点数」ではないですね)

第7回ウルトラショート翻訳課題 MVP

全体に気になったのが、とにかく「がんばり」が多かったこと。確かに「英国人(ここ重要)で、果てしなくシニカルな教授(最初の授業で絶対Aは出さない、半分以上落とす……と宣言するタイプ)の授業に、ある女子生徒が眠りも削って付いていった結果、次のようなレターを受け取るというものです。全文は出せないのですが、この文章の前に「よくがんばった、まああくまで凡人の割りには」みたいな流れがあります。そして、今回訳していただきたいのはその最後のパラグラフの最後の2行。」とは書きましたが、この文章の中にはがんばりはないんです。正確にはこの先生はがんばりを評価したわけではなくて、あくまで「accomplishment」が、この先生の基準から見て、「A」に達していたから「A」を与えるというわけですね。この先生からすると「A」の理想型が存在していて、それは多分「神」とか「天才」の領域なんでしょうが、その理想型を言ったら、お前はそこには達していない。けれども一般的に見れば(凡人的に見れば)「A」の基準に達しているのでAをやるというロジックだと思います。ですから、「頑張り」を入れてしまうと、この先生らしさが消えちゃうんですね。がんばるとは、苦しさに負けずに努力することで、この先生は努力に対してAをくれたのではなく、あくまで結果(成果)に対してAをくれたという点が出ないとつらいです(その意味ではちょっと出題の時に誤解を招くような部分があったかも。そのあたりはごめんなさいです)。あとやっぱり国語辞典をもっと引いて欲しいなあ。でもなるほどなあとか部分部分で感心するところも多いんですよ。こちらも勉強させてもらっていますので、皆さんもがんばってくださいね。

今月のMVPはその意味で18.の阿部良子さんに差し上げます。この中では一番過不足なく訳せていた気がします。37.の岩切さん、38.のdecoさんも惜しかったですが、細かなミスがもったいなかったですね。

阿部良子さんに決まりました! おめでとうございます!

図書券 5,000円分をお送りします。

■第8回 ウルトラショート翻訳課題

それでは来月の課題文。すんげいむずいです。そのかわりめちゃくちゃ面白いです。Lynee Trussの「Eats Shoots and Leaves」というパンクチュエーションの本から。

あるカフェにパンダが入ってきました。サンドウィッチを頼み、これを食べてから、銃を取り出し、上に向けて2発撃ちました。ウェイターに理由をたずねられたパンダは、野生動物マニュアルを取り出して、「俺はパンダだ。引いて見ろ」と答えました。そこにはこう書かれていました。

Panda. Large black-and-white bear-like mammal, native to China. Eats, shoots and leaves.

訳していただきたいのは、最後の部分「Eats, shoots and leaves」です。楽しい訳文を期待しています。3語にこだわらなくていいですよ。

それではまた来月。あ、そうだ、どうぞ良いお年を。

次回は1月8日アップ予定。

 

★★訳文の応募は締め切りました★★