第11回 少年時代のお気に入り小説を原文で

一行翻訳コンテスト2008.03.16

■オススメの一冊
定番のミステリーを手元で

『And Then There Were None』
(Agatha Christie著,Harper刊)

And Then There Were None

まずは今月の本から。僕は子供の頃から本が大好きでしたが、特に小学生になってからはまったのが最初は江戸川乱歩の「少年探偵団」とかシャーロック・ホームズ、それに怪盗ルパン。学校の図書館にあるその手の子供向けの本を読み終えると、今度は創元推理文庫に手を出し、一時期は古本屋で絶版ものなども探し(といってもプレミア付きは買えないので、今なら一冊100円コーナーみたいなところで買っていましたが)、創元の本格マークならほぼ全部揃えていた時期もありました。後に処分してしまったんですが、今考えるとけっこうもったいなかったなあ……。

さて、子供の頃や少年の頃はまだ英語など当然読めませんから(ちなみに最初に読み通した洋書はたぶん高校3年の時に読んだムーミン)、日本語で読んでいるわけですが、一方でこの原文はどうなっているんだろうとか思うこともけっこうありました。それで、大学に入った頃から、昔読んだ本格推理小説を英語で読もうという野心を抱いたわけですが、実は、日本で翻訳されている本格推理小説作品、たとえばヴァン・ダインとかエラリー・クイーンとか意外に手に入りにくいんです。もちろんオリジナルのハードカバーとかであれば、お金に糸目をつけなければ簡単に手に入るし、いまはネットでも注文が簡単になりましたが、僕が学生の頃の交換レートは1ドル=250円……。今の倍以上です。たまに大学で洋書バーゲンとかがあって、1冊300円~500円というときにまとめ買いしていたのを覚えています。(でも本格ミステリーは手に入りにくかったけど。)比較的手に入れやすかった(いまもそう)なのはアガサ・クリスティー。今月のお勧めの方も(入手しやすいという理由から)クリスティーの「そして誰もいなくなった」を入れておこうかと思いますが、実はちょっと通なお楽しみは、たまにぽろっと再発されて、すぐに市場から姿を消す本格推理小説の方だったりします。

僕が個人的に特別入れ込んでいるのは、密室の王者、ジョン・ディクスン・カー(カーター・ディクスン)。出張のときに古本屋を回ったり、アマゾンなどでこまめに検索をかけたりすることで、長い間かかってずいぶん集めました。(オリジナルじゃないですよ。)これは箱に入れて老後の楽しみに取ってあります。ヴァン・ダインもけっこう揃いましたが、意外と苦戦しているのがエラリー・クイーンの国名シリーズかな。隠居したら、南国のビーチかプールサイドで、こういうのをのんびり読むのがささやかな夢だったりします。今回、ちょっとだけご紹介するのが、「The Problem of the Green Capsule」。邦題は、「緑のカプセルの謎」。実はタイトルからして楽しみだったりするわけで、たとえば「謎」であってもProblemの場合も、Mysteryの場合も、Questionの場合もあるわけで、邦題だけ読んでも分からない。調べて、ああなるほどというのもいいんですね。

で、この作品ですが、カーとしては珍しい「毒殺」もの。衆人環視の中で、どうやって犠牲者は毒を飲まされたのか。実は衆人環視というのは広義の密室なんですが、それは置いておいて、この作品は、作中に「毒殺講義」が出てくるのでも有名です。僕が持っているのは、International Polygonics版で、1986年に印刷されたもの。アマゾンだと4,000円~6,000円くらいになっています。現在のミステリーなどとはまた違った楽しみは、やはり格調高いとまでは言わないにせよ、少しばかりクラシカルな文体。たとえば、この小説の冒頭部分から数行引いてみると「The man who saw it had been in Naples for a week on business. His business there does not concern this narrative. For that afternoon he was in the mood for a little idle sight-seeing, and the past had always fascinated him as much as the present.」みたいな感じ。いいでしょ? 別にミステリーでなくても構いません。昔、翻訳で読んだお気に入りの小説を原文で読むというのもぜひチャレンジしてみてください。

■今月のペーパーバック

『The Chronicles of Narnia』
(C. S. Lewis著、Harpercollins刊)

The Chronicles of Narnia

では次に、お楽しみ本。ちょっと前に映画化もされましたから、ご覧になった方も多いと思いますが、今月は「ナルニア国物語」。これについては個人的な想い出があるんですね。今を去ること25年前、僕はアメリカはミネソタ州の田舎にある大学に留学していたんですが(でもやってたのはフランス語(笑))あの時くらい勉強していたことはなかったと思うんですけど、その時にまあ勉強が終わっても冬になると何せ零下10度とか(体感-60度なんていうのもありました)、外で遊べるような状況ではないので、自然と本を読んでいる時間が長くなります。それでミステリーからホラーから文学までたぶんトータル9カ月で50冊以上読んだんじゃないかなあ。そういう集中して読む時期って絶対に必要なような気がします。その時にたまたま手にした本の一つがナルニアだったわけです。当時の値段で税別1.95ドルでした(^-^; 「不思議の国のアリス」とかアーサー・ランサムみたいなもので、常識として読んでおこうと軽く手に取ったのが運の尽き。3日で7冊読んでしまいました。これってC・S・ルイス版の聖書という内容だったんですねえ。もちろんそういう背景を抜きにしても、ストーリー自体が面白いし、何よりキャラが立っているのがいいです。

児童文学というのはけっこう侮れないですね。英語圏で暮らしていた人は別にして、難しい単語というのはけっこう意味がはっきりと決まったり、日本語と一対一対応になったりするんですが、生活により近い言葉というのほど身に付きにくいというのがあります。(その際たる例が冠詞のような気がしますが。)たとえば、広辞苑で「石」を引くと「岩より小さく、砂より大きい鉱物質のかたまり。」と書いてあります。次に「岩」を引くと「石の大きいもの。特に、加工せず表面がごつごつしているもの。」と書いてあります(笑)。日本人ならこれで分かるけど、日本語を勉強している外国人にはきついですよ、この定義。この種の生活に近い単語を疑似体験的に学ぶという意味では児童文学というのは非常に勉強になります。逆に翻訳という意味でもとても面白いです。対象年齢によって使える漢字が違ったり、大人なら当たり前のことでも子供の目線だと分からないことがあったりします。たとえば、「ジュディ・モード」(小峰書店)というシリーズがあるんですが、主人公の本当の名前はJudy Moodyなんですね。でもムーディーという名前にしても子供には分からないわけです。この子はその時によって感情がくるくる変わる子なのでこういう名前を作者が付けているわけですが、日本語ではモードにすることで「ぷんすかモード」のように訳すと、そういう雰囲気がうまく伝えられたりするわけですね。こういった工夫が児童文学の醍醐味でもあり、すごく大変なところでもあります。いわゆるもう少し上の世代を対象にしたヤングアダルトになると、シリアスな内容も出てきますが、ナルニアのようにもっと下の世代を対象にしたものは読みやすいし、何よりお気楽。それでいて意外に僕たちに欠けている英語の知識を補ってくれるのでぜひ読んでみてください。

■第10回 ウルトラショート翻訳課題の講評

では今月の一行翻訳いってみましょう。今月は「Living Dead in Dallas」から。

<課題文>

“I am sorry that the maenad picked on you.”
I glared at him. “Not enough,” I said. I was trying hard to hang on to this conversation.
“Angelic Sookie, vision of love and beauty, I am prostrated that the wicked evil maenad violated your smooth and voluptuous body, in and attempt to deliver a message to me.”

この文章の最後の行を、ドハデにお願いします。ちなみにviolate your bodyというのは、このスーキーの会話相手である男性にメッセージを届けるために、maenad(イノシシを連れた謎の女)がペットのイノシシにスーキーを踏んづけさせたことを指しています。ちょっと長いけどよろしくね。

<解説>

またタイポがありました。ごめんなさい。最後の行の「an」は「and」ですね。prostrateはprostratedです。

maenadというのは、ここではまあ使い魔のようなものだと思ってください。読めばわかるように、この使い魔がスーキーに迷惑をかけた(ひどい目に遭わせた)ので、そのことに対してわびろとスーキーが要求するのに対し、たいそう大仰なセリフで答えているわけです。まずangelicはわりと簡単。「天使のような」ですが「天使のようなスーキー」と始めちゃうとあとが苦しくなります。「ような」だったら「如き」とかにするとぐっと派手になりますね。「天使の如きスーキー様」とか。デーモン小暮とかなら「閣下」ですが、さすがにそこまでは行かないかな。

「vision of love and beauty」はここでは、「目に見えるもの」と考えると分かり良いでしょう。「愛と美が見えるもの」ですから「具現化」とかいう感じですよね。とするとここは、「化身」というとても便利な言葉があります。「愛と美の化身たる、天使が如きスーキー様」。だいぶ派手になってきました。

次が「I am prostrate」ですが、prostrateというのは平伏させるとか屈服させるといった意味の他動詞です。that以下に対してごめんよ、という意味を派手に言っているわけですから、ここは昔の三国志あたりに出てきそうなセリフなどを使っちゃうと楽しいかも。たとえば、「~賜りますよう伏して申し上げます」みたいなノリ。先にthat以下をやってしまうと、「wicked evil maenad」ですから「悪くて悪いメナード」ではかっこよくないですから「邪しまにして悪しきメナード」みたいにしちゃおうかなあ。メナードというのはもともと「酒神 Dionysus の供の女; 忘我・狂気の状態に陥り山野を狂いまわった」ですから、「我が供の女」みたいにするのもありかな。

「your smooth and voluptuous body」。『滑らかで「肉欲にふける, 官能的な; 肉感的な, なまめかしい; ここちよい, 満ち足りた」肉体』ですが、「すべすべしたエロいボディ」ではスネークマンショーになってしまいます。「滑らかにして艶やかなる」とか。肉体はあかんよ、肉体は。せめて「お体」とか。ここではたとえば「御身」とか。そうすると「滑らかにして艶やかなる御身」をどうしたかというと、「violate」したわけですが、「犯す」とかだとちょっとイメージ的に違う方に行ってしまいそうなので、最低線が「汚す」かなあ。たとえば「冒涜する」とかも行けそう。「滑らかにして艶やかなる御身を冒涜せしめる」。いい感じかなあ。

あとは「in and attempt to deliver a message to me」。ここでは主語に俺とか僕はアウト。やはり「私」とか「我」が良いのではないかと。messageはやはりメッセージだとちょっとダイレクトなので、たとえば「便り」とか「口上」とかがいいかな。そうすると、「我に口上を伝えんと」みたいな処理もありかな。で、まとめてみると、

「愛と美の化身たる、天使が如きスーキー様、我に口上を伝えんとの思いの余り、邪にして悪しきメナードが滑らかにして艶やかなる御身を汚せしこと、我は伏してお詫び申し上げます」

みたいな感じかな。凝古文のさらにニセモノという感じですが、雰囲気は出るでしょ? ではコメントです。

“Angelic Sookie, vision of love and beauty, I am prostrated that the wicked evil maenad violated your smooth and voluptuous body, in and attempt to deliver a message to me.”

1. 愛と美の理想像、愛しいスーキーよ、私はすっかり参ってしまった。
(*立ち上がりはいいんだけど、後半は原文の中身を省きすぎです。翻訳だから、これだと超訳を超えたハイパー超訳かな。)

2. ひどく邪悪で狂乱したあの女が、私に伝言を伝えようとして、あなたの流麗で官能的な肉体を汚してしまったのだから
(*「~I am prostrated」までなくなっているし。「~だから」どうするのかが気になります。)

3. まさに愛と美、と呼ぶにふさわしい、天使のようなスーキー。あの性悪女が僕にメッセージを届けるために、君の滑らかで艶やかな体を傷つけるような事をしたなんて、僕は心が張り裂けそうだよ。
(*イメージとしては悪くない方かなあ。でもスーキーが失踪してるし。あと「性悪女」というと性質が悪いという意味と浮気者という意味と両方あるから、ここではちょっとどうかなあ。)

4. アンジェリック・スーキー殿、愛と美を絵に描いたような人よ。あの性質の悪く邪悪なイカレ女めが、私にことづけを届けようとして、貴方様の素晴らしく艶やかな御体を傷つけてしまった件に関しましては、土下座したいくらいでございます。
(*angelicは形容詞なんです。まあ最初の部分はいいとしても、そこから「イカレ女」と言っちゃったらムードぶちこわし。土下座したいくらいとするなら、土下座しちゃった方がいいです。)

5. 天使のようなスーキー。愛と美の姿よ。あの邪悪で意地の悪いメナードが、僕に伝言を渡すために君のその滑らかで官能的な体を汚してしまうとは。僕は地面に頭をついて君に降服するよ。
(*「姿」というのはちょっとピンとこないでしょう。それならせめて「似姿」とかにしないと。(似姿:実物そっくりの姿。また、似せて作った像や絵。)官能的な体というのは当人に向かっては言わないんじゃないかなあ。というか言ったらまずいでしょう(^-^;)

6. 天使のようなスーキー、君は愛と美の化身だ。僕は邪悪で不吉な狂女のまえに屈服している。僕にメッセージを届けようとして君のなめらかでなまめかしい体を踏みにじった女に。
(*スーキーが「狂女」に最初読めてしまいました。あと本人前にして「君のなまめかしい体」って言うでしょうか?(^-^; この状況ではないでしょう。)

7. エンジェリック・スーキー、美を愛する美女よ、私は、邪悪な悪魔 “maenad”が私へ伝言を届ける為に、あなたの滑らかでグラマラスな体を冒涜したことの前に頭を垂れます。
(*「頭を垂れる」みたいな表現を使ったのはいいんだけど、エンジェリックというのは名前ではないし、「美を愛する美女」だと意味違っています。悪魔とすると何か自分の子分にずいぶんな言いようかも。これだと悪魔がスーキーを○○した風にしか読めないぞえ。)

8. アンジェリック・スーキー、愛と美の絶世の美人。邪悪な逆上女が、私にメッセージを届けるために、あなたのなめらかな色っぽい体を踏んづけたことに屈伏した。
(*アンジェリクだと違う話になるし。「愛と美の絶世の美人」ってひょっとして同語反復になってませんか? 「踏んづけたことに屈服した」のは誰? 「逆上女が屈服した」の?)

9. 天使のごときスーキー、幻と見間違うほどの愛すべきその美貌、無礼で邪悪な女が、私への伝言を届ける際、滑らかで艶やかな御身を汚したこと、ひれ伏して謝ろう。
(*前半はいい感じなんだけど、「無礼」がぷらぷら浮いている感じ。それなら「礼すらわきまえぬ邪なる」とかもう一工夫だなあ。せめて「無礼にして」。あと「謝ろう」は上から目線だなあ。もう一工夫でMVPだったんだけど残念。)

10. 天使の如き、愛と美の結晶の如きスーキーさま。あの邪悪な不道徳女メナードめが、私へメッセージを届けようと貴女さまの滑らかで艶かしいお体を踏み躙りましたこと、平伏してお詫び申し上げます。
(*惜しい。アプローチとしては、かなりいい感じなんだけど、「不道徳女」ってこの文脈だとえらく浮いています。もう少し助詞に気を配るとさらによくなりますね。あと「如き」が繰り返されているのもちょっと気になるところ。「お体を踏み躙る」というのもちょっとアンバランスでは?)

11. わが天使スーキー、愛と美の化身よ。私はひれ伏して許しを請う。あの罪深く邪悪な女が、君のなめらかで官能的な肉体を踏みにじってしまったとは。何ごとかを、私に伝えんとしたがゆえに。
(*これも惜しい。「わが」はない方がいいかな。「官能的な肉体」がまずいと思います。というか面と向かって言わないでしょ?(^-^;)

12. 天使のごときスーキー、愛と美の化身よ。あのよこしまで頭のおかしい女がわたしへの伝言を届けようとした際に、あなたのそのなめらかでなまめかしいお体を冒涜したこと、伏しておわび申し上げます。
(*「よこしまで頭のおかしい」はちょっと微妙かなあ。「なめらかでなまめかしいお体」だったら「滑らかにして艶めかしき御身」みたいにするとかっこいいです。)

13. スーキー、愛と美の天使よ。あの邪悪な下僕のメナードが、メッセージを届けようとして、あなたの滑らかで豊満なお体を傷つけましたこと、この通り、ひれ伏して謝りまする。
(*「豊満な」というのも相手に向かって直は言わないんじゃないかなあ。そういう場合は「ふくよかなる」とかになりそう。「ひれ伏してお詫び申し上げます」とか。)

14. アンジェリック・スーキー、愛と美貌の権化よ、あの邪悪で腹黒いメナードの奴が私への見せしめのためにあなたのその艶やかで官能的な肉体を冒とくしたことは痛恨の極みだ。
(*アンジェリクだと名前になっちゃうよねえ。この文脈で「腹黒い」とか「見せしめ」にするとちょっと行きすぎかな。「官能的」というのは「肉体的な欲望をそそるさま」なんだから、面と向かって言わないでしょう。)

15. いとしのスーキー、愛と美の幻よ、僕にメッセージを届けようとして、あのひどく性悪な女に、君の美しく魅力的な体がいためつけられていたというのには頭が下がるよ。
(*angelicは愛しのという意味にはなりにくいかな。「愛と美の幻」と「いためつけられる」はバランスが取れてないです。頭が下がるって、敬意を表してしまわないかなあ。)

16. スーキー、君は天使のように美しく愛らしい。私にメッセージを届けようとして、あの憎たらしい意地悪オンナが君の艶やかな体を傷つけたのかと思うと、僕は卒倒してしまいそうだよ。
(*「オンナ」とカタカナにした部分がぷらぷらと浮いている感じです。あとやっぱり「卒倒する」のではなくて「ごめん」だよねえ。)

17. 愛と美の化身、まるで天使のようなスーキー様、あの邪悪で悪魔のような狂女が、私にメッセージを伝えようとして、あなた様の柔らかで色香に満ちたお体を傷つけましたことに、私は打ちひしがれる思いでございます。
(*「愛と美の化身にして」かな。「色香に満ちた」も面と向かっては言わないような気もするけど「官能的」よりはいいかなあ。)

18. 心優しく、人間とは思えないほど愛くるしく美しいスーキー。土下座して謝るよ。あのとんでもない悪たれ女がおまえの滑らかな悩殺ボディーを冒涜したのは、わたしにメッセージを届けようとしてのことだったのだ。
(*微妙かなあ。心優しいとは書いてないし、人間とは思えないとも書いてないもんねえ。原文、ラテン系の言葉が多いでしょう? ということは雰囲気としては漢字が多いという印象になるはずなんですよ。)

19. 愛と美にあふれた天使のようなスーキーよ、ぼくにメッセージを届けるために意地悪なメナードが、きみの魅力的でなまめかしいからだを傷つけてうんざりだよ。
(*「うんざりだよ」がまずいよねえ。そう言ってしまったら反省が感じられないですもの。)

20. 天使のようなスーキー、愛と美の化身よ。私、打ちひしがれておりました。あの邪悪なメナードが、滑らかで官能的な貴女のお身体を傷つけたと聞き及んで。全ては、私へ伝言を届けたが為に起こったのですから。
(*うーん、何で「聞き及んで」で句点を打ってしまうのかなあ。「打ちひしがれておりました」って本人が目の前で言い直し求めているんだからおかしいでしょ。)

21. 天使のようなスーキー、あなた様こそ愛と美まさにそのもの、あのとんでもないワルで頭のイカれた女が、わたしにメッセージを届けようとして、あなた様のなめらかでなまめかしい御身に傷をつけたとは、なんともはや面目次第もないことでございます。
(*まさにの位置がちょっと変かな。こういう言い方していて「ワルで頭のイカれた」という表現はアンバランスです。もう少し工夫を。)

22. スーキー、君は天使みたいにきれいだ、まさに絶世の美女だよ。それなのに、あのとんでもない性悪女が、僕にメッセージを届けようだなんて企んで、君のすべすべの、そのグラマーな身体を踏みにじりやがって。本当にすまなかった。土下座するよ。
(*言い直せと言われた割りにはあまり反省の色が感じられないのが残念です。かなり下品な感じを受けてしまうんですが(^-^;)

23. 意地悪で邪悪なマイナスが君の豊満な肉体となめらかな肌を傷みつけたことに俺は心を打ち破られている。俺に知らせを届けようとしただけに。
(*「俺」という主語立てた時点で「prostrate」という動詞ともう合わなくなっています。「しただけに」は「していただけなのに」か「しただけなのに」のどちらかかな。)

24. 天使のようなスーキー、愛と美の女神よ。あの邪まで激しやすい毒婦が、私への言づけを託そうとして貴女の艶めかしくすべらかな身体を傷つけてしまったとは憤懣やる方なく思う
(*「毒婦」って「邪悪な性質をもつ女。悪事をはたらく女。奸婦」なので、ちょっとどうかなあ。「憤懣やるかたない」はprostrateとはちょっと合わないと思います。「いきどおりもだえること。腹が立っていらいらすること」。謝っているというニュアンスではないよね。)

25. アンジェリック・スーキー、美しき愛の女神よ。君に土下座して謝る。小悪魔のメーナドめが、私からのメッセージを伝えるためにせよ、なめらかでお色気たっぷりな君の体に罪を犯してしまったんだからね。
(*angelicは形容詞。女神に対して「君」というのはどうかなあ。小悪魔というとこの文脈ではちょっとまずいかも(吸血鬼ものなので。)「君ってお色気たっぷりな体だね」って面と向かって言うのはかなりやばい状況のような気がします。)

26. 「巫女がすまなかったね。」 彼を睨んだ。「それだけなの?」と、しつこく食い下がってみた。 「美しき愛の天使スーキー。僕にメッセージを届けようとした、どうしようもない巫女のやつが、君の洗練された、魅惑的ボディを冒涜したなんて、申し訳なくて僕も辛いんだ。」
(*「やつ」と言った時点でちょっと品がなくなってます。「魅惑的ボディ」は面と向かって言わないでしょう。もっと大仰にするといいですよ。)

第10回ウルトラショート翻訳課題 MVP

よくがんばってくれている人が多かったのですが、部分部分では光る訳語があるのに、全体としてバランスが崩れている場合が多かったようです。特に「the wicked evil maenad」の訳を軽いノリで訳してしまっている例が圧倒的。逆にそこで差が付かなかったので、10番、Pachiさんを今月のMVPにしたいと思います。まだ精進が必要ですからがんばってね。

■第11回 ウルトラショート翻訳課題

ということで、今回は格調高い英語。(ホントか?)ペーパーバックになっていないので、本文では取り上げられませんでしたが、難しいものにもたまには挑戦しましょう、たまには。Walter de la Mareの”Walter de la Mare Short Stories 1927-1956に収録されている「Crewe」という短編小説の冒頭です。実はこれ、もう10年ほど前に、NIFTY-SERVE時代の翻訳フォーラムで行われた「難解翻訳コンテスト」の課題文に選ばれたもの。どういう情景なのかを頭にイメージできればまずは成功かな。

When murky winter dusk begins to settle over the railway station at Crewe its first-class waiting room grows steadily more stagnant. Particularly if one is alone in it. The long grimed windows do little more than sift the failing light that slopes in on them from the glass roof outside and is too feeble to penetrate into the recesses beyond. And the grained massive furniture becomes less and less inviting. It appears to have made for a scene of extreme and diabolical violence that one may hope will never occur. One can hardly at any rate imagine it to have been designed by a really good man!

ボールド体で示した一行を、「だ・である調」で。
それではまた来月。

★★訳文の応募は締め切りました★★