第18回 1編10ページ程度の短編読破を日課に翻訳力をつける

一行翻訳コンテスト2008.10.16

■オススメの一冊
名探偵主人公が活躍するサイコ・サスペンス

『The Death Collectors』
(Jack Kerley著HarperCollins Publishers Ltd刊)

The Death Collectors

今月の一冊目は、Jack Kerleyの『The Death Collectors』。これはシリーズの第2作目で、第1作目は文春文庫からジャック・カーリー、『百番目の男』として、また本作も『デス・コレクターズ』として発売済。第5作目までは既に決定しているみたいなので、お勧めしちゃいます。主人公はカーソン・ライダーで、舞台はアラバマ。シリアルキラー専従班(といっても二人しかいない)に属しています。検死官がケイ・スカーペッタ博士っぽいとか、主人公の兄がシリアル・キラーでこれまたレクター教授っぽいとか、悪く言えばいろいろなシリーズもののおいしいどころ取りなんですが、それでもこのシリーズをお勧めしちゃうのは、細かなディテールや、主人公自身、あるいは周囲の人物にまつわる細かいエピソードがとても活き活きとしているので、ミステリーとしてばかりでなく、アメリカンライフをいろいろつまみ食いしているような気分で楽しむことができたから。もちろん、メイン・プロットとしての謎の骨格はしっかりしていますし、意外な犯人もちゃんとあり。さらに数十年前のシリアルキラーにまつわるグッズを集めているという悪趣味な人々の世界が妙にリアル。でもこの話の中では、奇妙なユーモアが効いているところが好きなんです。たとえば、カーソンが海辺の避暑地にある自宅(本来は別荘として建てられたもの。ローン大丈夫かなと今の経済状況考えると妙な心配をしてしまうんですが)に戻ってきます。近所の人たちはお金持ちなので、使っていない時には、別荘をレンタルしているんですね。で、カーソンが刑事であることも、自分たちが入っているのが私有地であることも気付かない金持ちのカップルのフリスビーを、帰ってきたカーソンの車が踏み潰したということで、絡まれてしまうわけです。「6ドル払ってちょうだい」って。それに対して、カーソンはこういう風に対応します。(itはフリスビーね。)

“It’s still alive,” I told them, sad-faced, shaking my head. “It’s in pain. Can’t you hear it?
“What the fuck are you talking about?” the woman cawed.
I bent and set the Frisbee gently on the ground. Then, in one motion, reached beneath my jacket for the Glock, racked the slide.
“Jesus,” the woman said, eyes wide. Hubby started backpedaling. I knelt beside the Frisbee and patted it gently.
“I’m going to put it out of its misery,” I said, taking careful aim at the plastic mangle. “Hold your ears.”
When I looked up again, they were twenty feet gone and moving fast.

けっこういけてるでしょ? その場にいたら確かにびびるよねえ。(邦訳出ているからこっちは課題文にしないよん。)

■今月のペーパーバック
大御所ミステリー作家陣の極上短編集
『Twelve American Detective Stories』
(Oxford Univ Pr (T)刊)

Twelve American Detective Stories

続いて今月の2冊目。今ちょっとout of printになっているんですが、『Twelve American Detective Stories』は、エドガー・アラン・ポー、ジャック・フットレル(タイタニック号と共に海に沈んだ作家です)、アンナ・キャサリン・グリーンといった初期のミステリー作家から、クレイグ・ライス、エラリー・クイーン、 レイモンド・チャンドラー、コーネル・ウールリッチまで幅広い12人のアメリカのミステリー作家の極上の短編を集めています。僕が買った理由というのは、ひとえにカーター・ディクスン(a.k.a. ジョン・ディクスン・カー)の「The House in Goblin Wood」が入っているから。日本では創元推理文庫カー短編全集の「妖魔の森の家」として翻訳されています。これはネタバレになるので出さないですけど、たぶんカーの短編では最高傑作。とにかくエンディング1行がすさまじく怖い。英語で入手できなければ日本語でもぜひご一読を。もちろんリアリズムを追究したミステリーも好きなんですが、やはりミステリーの醍醐味は謎解きなわけで、リンカーン・ライムものみたいに法医学などで髪の毛一本から犯人を捜していくというのも悪くはないんですが、やっぱり荒唐無稽に思えるような謎解きの方が読んでいて楽しいんですね。ですから、戦前、もっといえば1920年代くらいまでの小説の方が気楽に楽しめたりします。ジャック・フットレルの「13号独房の問題」など、確かにあり得ないといえばあり得ないんですが、それでも往時の状況とか考えればなるほどな、と膝を打ちます。ホラーも一緒で、グロテスクな描写も活字なら耐えられるものの、痛みとか残酷さで読まされるよりも、見えない恐怖みたいなものの方がより魅力を感じます。たぶん想像力を刺激されるからなのでしょう。昔のホラー映画だと、たとえば怪物の手が首の方に迫ってくるカットがあって、それから怪物と犠牲者の影が壁に映って、悲鳴とぼきっという音がするというのは良くあるパターンです。今だったら、もう全部見せちゃうんでしょうけど、全部見せちゃうと想像力は刺激されないんですよね。短編集・オムニバスはいくらでも出ているので、お好きなのを選んで読んでみてください。古いものにもいろいろ良い作品があるので、アマゾンの洋書>ミステリー&スリラー>ミステリー>Anthologiesと選べば、きっと宝石がたくさん見つかりますよ。長編を読むのはちょっとおっくうという人は、一編が5~10ページくらいの短編集を買って、それを毎日読むという手もあります。

■第17回 ウルトラショート翻訳課題の講評

では今月の課題文です。

<課題文>
“What do you collect, Cece?” ”Does dust count?” ”No.”

<解説>
一応男女の会話、それも大人の会話なので、あまり子供っぽい感じは出さないように。最初のセリフはcollectをどう処理するかが勝負。コレクターの話ですから「集める」、「貯める」とかかな。「収集する」とか「蒐集する」とかもあります。dustは塵(ちり)ですよね。本当は「ちり」(dust)は「積もる」(collect)ものなので、これを引っかけて訳せたらすごくうまいんだけど。あとは男女の会話らしく、語尾をうまくまとめればOKです。dustの定義は
1: fine powdery material such as dry earth or pollen that can be blown about in the air; “the furniture was covered with dust”
2: the remains of something that has been destroyed or broken up [syn: {debris}, {junk}, {rubble}, {detritus}]
3: free microscopic particles of solid material; “astronomers say that the empty space between planets actually contains measurable amounts of dust”
こんな感じです。

1.
「きみは何をコレクションしているのかね、チェチェ」「埃でもいいかしら」「だめだね」

(「コレクションする」っていうのはあまり大人は言わないんじゃないかなあ。それなら「君のコレクションは何かね?」とか。あと「?ね」が2回繰り返されているのはちょっと。)

2.
「あなたのコレクションは何ですか、チェチェ?」「がらくたでも良いのかしら?」「それはちょっと。」

(がらくたは「役に立たない品物。値打ちのない品物」なので、ここではちょっと原文のシャレから離れすぎかなあ。)

3.
「チェチェは何を集めているんだい?」「ゴミは数に入るの?」「まさか。」

(「数にはいるの」っていうのはなかなかいいなあと感心したんですが、やっぱり「ゴミ」としてしまうとちょっとシャレにならなくなるかと。)

4.
「チェチェ、君は何を集めているんだい?」「人々が遺した塵をかき集めてる、っていうのはありかしら?」「なしだね。」

(うーん、この訳は「なしだね」(^-^; 説明的すぎるでしょ。それに人々が遺した塵をかき集めるというと何かdust and ashes集めているみたいで怖い(^-^;)

5.
チェチェは何を集めるのかい?ほこりは集めてるうちに入るかしら?

(これはそのままだったのかな。引用符をちゃんと付けましょう。「No」も失踪しているし。基本的なルールは守ろうね。その上で「何を集めるのかい?」は日本語としておかしいです。「何を集めているのかい?」かな。)

6.
チェチェ、君は何を集めているんだい? ほこりも数える? まさか。

(これも引用符はちゃんと付けようね。これだと「集めている」と「数える」の関係が不明確ですよね。なぜそういっているのか分からないと読者も困ってしまいますよ。)

7.
「君は何を集めているんだい、チェス?」「埃はコレクションに入るかしら?」「そうじゃなくてさ。」

(うう、「チェチェ」だって書いたのに(号泣)。「入るかしら?」ときかれたら、「そうじゃなくてさ」とは答えないですね。)

8.
「チェチェ、何を集めてるの?」「あなたゴミまでコレクションに入れるつもり?」「まさか」

(「チェチェ、何を集めてるの?」だと、今その場で何かを集めている感じがするよね。あとこれだと男の方がゴミを集めているみたいですよ。)

9.
「君は何を収集しているんだね、チェチェ?」「埃も数に入れますか?」「いや」

(最初のセリフはOKなんですけど、これだったら2番目のセリフは「埃も数(の内に)入りますか?」かな。)

10.
”一体何を集めてるの、チェチェ?””えっ、ガラクタのこと?””そうじゃなくって”

(基本二重引用符は使わないです。文芸は縦書きになるからね。何か、金持ちと伝記作家というよりは、女性の友達同士の会話みたいですよね。ガラクタだとちょっとおもしろみに欠けるかな。)

11.
「あなたのコレクションは何ですか、チェチェ?」「ごみも数えるのかしら?」「いいえ。」

(ゴミのコレクションとは言わないよねえ。あと二番目は「ごみも数えていいかしら?」かなあ。)

12.
「チェチェは何を集めてるの?」「チリって、コレクションに入るかしら?」「いんや」

(チリをカタカナにすると、食べ物の方を想像すると思います(^-^; チリ、貯めたまま放置するとくさるぞー。あと金持ちで「いんや」と言うのは芸人ぐらいでないかい?)

13.
「君は何を集めているんだい、チェチェ?」「ホコリっていうのもあり?」「だめだね。」

(ストレートだけど、悪くないです。ただ「あり?」で終えるよりは「ありかしら?」みたいにした方が上品かな。)

14.
「チェチェは何コレクターなの?」「ガラクタも入れていいの?」 「またまた。」

(会話なら「何コレクター」ありですが、文章にする場合は「何のコレクター」まで書かないとわかりにくくなります。小説の会話って、実際に行われている会話とは違うんですよ。「またまた」も会話ならイントネーションがあるけど、文章だと分からないと思います。)

15.
「君は何を収集しているのかね、チェチェ?」「埃のコレクションというのは有りかしら?」「無しだ」

(「埃のコレクション」というのはやっぱりピンとこないよねえ。それならかえって「埃なら」くらいにしちゃった方がすっきりしそうだなあ。)

16.
「何を集めてるんだね、チェチェ?」「がらくたも入れるの?」「いいや」

(これもその場で何かを集めている印象。「がらくたも入るの?」でしょうねえ。)

17.
「チェチェ、君が収集しているモノは何だい?」「ガラクタでもいいのかしら?」「そういうモノじゃなくて。」

(モノはカタカナにするとmonoに見えないこともないんですよねえ。「物」か「もの」でいいんじゃないかなあ。もちろんモノと「ガラクタでもいいのかしら」の部分がうまくシャレになるならありなんですが、それもないもんねえ。)

18.
「チェチェ、君は何の収集を?」「ほこりも収集品の内になるかしら?」「なりませんね。」

(悪くはないです。ただ「収集品の内に入るかしら?」でしょうねえ。さもなければ「収集品になるかしら?」惜しいなあ。)

19.
「チェチェ、君は何を集めているのかな?」「ゴミも収集品に入ります?」「いや。」

(こっちは18さんのをすっきりさせた感じ。ただ「いや。」がちょっと弱いかな。「入りません」とか、「それはさすがに」とか。)

20.
「チェチェさんは、何か集めているものはあるかい?」「埃は集まってくるけど」「いや、そうじゃなく」

(さん付けの割りに口調がぞんざいに響きます。それなら「さん」なしでも。意味は合っているんだけど、何かおしゃれじゃないよねえ。「埃なら集まってくる」かな。)

21.
「チェチェ、君は何を集めてるんだい?」「ほこりもコレクションのうちに入るかしら?」「入らないよ」

(これはすっきりしている感じ。もう少しユーモアが出せるといいんですけどね。)

22.
「君は何を集めているんだい、チェチェ?」「ホコリ集め、って答えはありかしら?」「ダメだね。」

(ホコリ集めって言うかなあ。それなら「積もった塵はだめかしら」とかかなあ。)

23.
「君は何のグッズを集めているのかい、チェチェ?」「クズ集めでもコレクターって言えるかしら?」「物にもよるね」

(クズはグッズに入らないけど、ダジャレにしたかったんだろうなあ……。ちょっと考えちゃったからムリ、やっぱりムリ。それにクズでも物によってはオッケーってちょっと(^-^;)

24.
「君は何を集めてるの、チェチェ?」「ガラクタも数に入ります?」「いいや。」

(コレクターにとってはガラクタ(キップの切れ端とかマッチ箱)が宝だったりするから、ガラクタって言わないかもなあ。)

25.
「チェチェ、君はどういったものを集めているんだい?」「ゴミは遠慮するよ」

(あううう、チェチェのセリフがない(^-^; セリフは3つきちんと書いてくれないとだめだよう。)

26.
「チェチェ、君は何を集めているのかね?」「塵(ルビ:ちり)もコレクションに入るかしら?」「いや、積もっても山にはならないね」

(うーん、やりたいことは伝わってくるんですよ。でも「積もっても山にはならない」では落ちてない。ダジャレが落ちてないとますだおかだのおかだぐらいつらい。いやワッキーか? 「積もってもコレクションにはならない」かなあうーん。)

27.
「きみのコレクションはなんだい、チェチェ?」「埃っていうのはアリ?」「ナシ」

(会話のテンポはいいんですけど、やっぱりちょっと距離感が近すぎるかなあ。「アリ」「ナシ」ってカタカナ使うと、どうも特別な意図があるように読めるんだけど。)

28.
「チェチェ、君は何のコレクターなの?」「埃かしらね、コレクションとよんでよければ」「違う」

(発想は悪くないんですよ、これ。「コレクションと呼べるのは埃くらいかしら」とかにすればけっこう面白いんですよねえ。あと「違う」は素っ気ないです。)

29.
「チェチェ、何か集めているものは?」「埃もコレクションのうちに入るかしら?」「いや。」

(こっちはストレートな訳で悪くはないんです。ただ「いや。」が素っ気ないかなあ。)

30.
「君は何を集めてるんだい、チェチェ?」「クズも数に入る?」「入るか!」

(クズだとやっぱりシャレになってないです。クズは集めないでしょ。ちょっとぼけつっこみになっちゃっていて、それは翻訳だときついよう。)

31.
「あなたも何か集めていらっしゃるのですか、チェチェ?」「埃もそのうちに入るのかしら?」「いえ。」

(「そのうち」の「その」に当たるものがぱっと浮かんでこないですね。「集めているうち」かな。)

32.
「どんな物を集めているんだい、チェチェ?」「つまらない者も数に入れていいの?」「ダメだ。」

(つまらない者というと誰だろう。ちょっと怖いよ。誘拐犯なのかやくざの親分なのか。)

33.
「何をためこんでいらっしゃるのかな、チェチェ?」「埃も入ります?」「いや」

(これなら「埃でもよろしいかしら?」とか「ほこりでよろしければ」とかにすると落ち着くかなあ。)

34.
「君は何をコレクションしてるんだね、チェチェ?」「ほこりがたまったままだけど、それはコレクションっていえるのかしら?」「言えないだろうね」

(うーん、文章長すぎ(^-^; やっぱりもとの会話のリズムは何とかいかさないとねえ。)

35.
「君にもなにかコレクションはあるのかい、チェチェ?」「埃とか?」

(「No」が失踪しているよう。「埃とか?」よりは「埃なら」かなあ。)

36.
「チェチェ、あなたはなにを収集しているんですか?」「埃は数にはいるかしら?」「それは、ちょっと…」

(これだったら逆に「集めているんですか」とした方がよかったかな。「それは、ちょっと……」はいいんですけれど。)

37.
「チェチェ、君はどういったものを集めているんだい?」 「ちりも積もれば宝の山でしょ?」「ゴミは遠慮するよ」

(アイデアは悪くないんですが、一つ一つの台詞の間でつながりがよく見えないんですね。声に出してみるといいと思います。たとえば二番目の台詞を「ちりはどうかしら? 積もれば宝の山でしょ?」「それは遠慮しとくよ」みたいにすればつながりができてくるんですね。)

<試訳>
“What do you collect, Cece?” ”Does dust count?” ”No.”
①「君は何を集めているんだい、チェチェ?」「ほこりはいかが?」「それはだめだね」
②「チェチェ、君も何かためこんでいるんだろう?」「ほこりくらいなら」「それは却下だ」
③「君も何か収集しているんだろう、チェチェ」「ちりはどう?」「それはなし」
④「チェチェ君も何か家に積み上げているくちでは?」「積もった塵ならあるわよ」「それは論外」

自分でもいまいちだなと思いつつ、まあお好きなのをどうぞ。

<講評>
けっこうルールちゃんと守ってない人が多いのは「ちょっと」。どんな仕事でも指示内容をきちんと確認するのは第一歩ですからねえ。あとcollectとdustの関係が面白いので、それをうまく活かしてほしかったなあ。それから日本語は語尾とか口調で関係がはっきり出るのでそこにはもう少し注意を払ってください。

第17回ウルトラショート翻訳課題 MVP

その上で、今回よかったのは、13さん、21さん、29さん、36さん。純粋にこのみで末光裕子さんをMVPにします。他の人もがんばってね。

<今月の課題文>

『Oxford Twelve American Detective Stories』から、クレイグ・ライスの短編、「His Heart Could Break」

‘As I passed by the ol’ state’s prison,
Ridin’ on a steam-line train–‘

John J. Malone shuddered. He wished he could get the insidious melody out of his mind –or, remember the rest of the words. It had been annoying him since three o’clock that morning, when he’d heard it sung by the janitor of Joe the Angel’s City Hall Bar.
It seemed like a bad omen, and it made him uncomfortable.

短編小説の書き出しですから、最初の2行くらいでもう読みたいという気になってもらわないとあきまへん。で、課題は太字の下線部分(He wishedからthe rest of the wordsまで)です。この感じって分かりますよね。で、この感じがうまく出るように訳してください。Heを彼と訳すかどうかもポイント。

それではまた来月。その頃には経済の先行きが少しは見えているといいなあ。(あ、オバマ候補が当選?)

一言メッセージもお待ちしてます。

★★訳文の応募は締め切りました★★