第22回 時間がある時の勉強法~写経と暗唱、用語集づくりのススメ~

一行翻訳コンテスト2009.03.16

■今月のペーパーバック
ちょっと懐かしいSF作品
『Fahrenheit 451』
(Ray Bradbury著、Ballantine Books刊)

Fahrenheit 451

では、今月の洋書ご紹介を。今回はちょっと懐かしいSF作品から行きましょう。レイ・ブラッドベリ(Ray Bradbury)というと、「何かが道をやってくる」(Something Wicked This Way Comes)や「10月はたそがれの国」(The October Country)から「ウは宇宙船のウ」(R Is For Rocket)など実に数多くの好作品を残してきたSF・ファンタジー作家(でいいのか?)です。翻訳も数多く出ていますし、昔に比べると、読者が減っているような気がするSF作家の中でも、ブラッドベリとかはもっと幅広く読まれているような気がします。そういえば、これもちょっと不思議なんですが、ヤング・アダルトの小説はSF(というかスペースオペラ)はかなり多いし、アニメでもSFものはガンダム以来それなりに人気があるのに、なぜSF小説だけが売れないんでしょう。やっぱり内容が難しく感じられるからなんでしょうか。閑話休題。今回取り上げるのは、「華氏411度」(Fahrenheit 451)です。華氏451度というのは、本の紙に火がつく温度を指しています。この小説は、すべての不和や不幸の原因であると考えられている本を燃やす(焚書)ことを仕事にしているガイ・モンターグが主人公。内容にはあまり入りませんが、でも彼はそのことに疑問を抱いてしまいます。家庭がうまく行っていないからです。本を読み、これを保存しようとする反体制派を、当局は弾圧していきます。この手の作品としては、ジョージ・オーウェルの「1984年」(1984)や、オールダス・ハックスレイの「素晴らしき新世界」(Brave New World)も有名ですが、いずれも権力による人民の支配がテーマとなっています。果たして僕たちの今暮らしている世界はそうなっていないでしょうか。余談ですが、先日、CDを買った僕は、重そうなバッグを背負って、新宿をへらへらと(笑)歩いていたんですが、不意に警官に呼び止められて、「旦那さん、刃物は持っていないですか」とたずねられました。カバンの中を見せてくださいというので、見せて、その時は刃物を持っていなかったので無事でしたが、もし持っていると、警察に引っ張られる可能性もあったようだというのを後で知りました。銃刀法という法律では「6cm以上の刃物を正当な理由無く持ち歩いてはいけない」のだそうですが、軽犯罪法の「正当な理由がなくて刃物、鉄棒その他、人の生命を害し、または人の身体に重大な害を加えるのに使用されるような器具を隠して携帯していた者は拘留または科料に処す」というのがあるそうで、これを適用される可能性があるのだそうです。極端な話、ハイキングに行くためにナイフを持っていたら、引っ張られても文句は言えないという。あとでけっこうぞっとしたんですが、こういうのだって、「華氏411度」の世界に通じるところはあるんですね。それでもまだ日本は自由な方だとは思いますが、僕のようにあと10年ちょいもすれば隠居する(予定の)人間はともかく、若い人には自由のありがたさとかをもっと大切にしてもらいたいと思うのでした。そんな小説から一節を引用。

‘Established, 1790, to burn English-influenced books in the Colonies. First Fireman: Benjamin Franklin.’
RULE 1. Answer the alarm swiftly.
2. Start the fire swiftly.
3. Burn everything.
4. Report back to firehouse immediately.
5. Stand alert for other alarms.

これがルールなんですねえ。剣呑、剣呑。

■オススメの一冊
半身浴に最適?のホラー短編集
『The Collection』
(Bentley Little著、Signet刊)

The Collection

では2冊目。こちらはベントリー・リトル(Bentley Little)の短編集。ホラーです。以前「University」を紹介したベントリー・リトルは相変わらず翻訳が出ていないホラー作家。日本ではホラーの翻訳も売れないんだよねえ。例外はキングとクーンツとラヴクラフトくらいかなあ。「The Collection」は、ベントリーの短編集で、各作品の冒頭にベントリー自身の解説が載っています。短編集の魅力はやはり短時間で読めるという点でしょう。450ページほどのペーパーバックで、一編がだいたい10~20ページ程度。風呂で半身浴しながら読むにはちょうど良い長さです。ストーリー自体は、いろいろで淡々とした怪奇譚から、アメリカの建国の父の一人がシリアル・キラーだったらという意外性のある作品、さらに最近のホラー映画では良くあるパターンのヒッチハイカーものなど、実に多彩。こういうのを読んでいるとやはりアイデア勝負だよなあと思うことが多いです。彼の文体はこんな感じ。

Trinidad was still alive when I found him. Barely. Julio had called and told me that he’d seen the redneck’s pickup heading through the desert north of Cave Creek, hell-bent for leather on the old dirt road that led to Bloody Basin, and while Julio wasn’t exactly the world’s most reliable songbird, I believed him this time, and I decided to follow up on it.

あと、これはぜひ読んでもらいたい本が出ました。ダ・ヴィンチ・コードを訳した越前敏弥さんの「日本人なら必ず誤訳する英文」(ディスカヴァー携書)です。僕は本業が産業翻訳なので、文芸的な表現で結構知らないことが多いんです。(その割りにはこういう連載しているんですけどね。)ですから、この本を読んだら、ところどころに目から鱗がしっかりありました。難しい表現も取り上げていますが、意外にきちんと覚えていない文法的なことや、役に立つ表現が満載です。(はっきり言って僕なんかの連載よりよっぽど役立ちそうだ(^-^;) ぜひご一読を。
では、前回の課題文に行ってみましょう。

■第21回 ウルトラショート翻訳課題の講評

<課題文>
Outside the Crouch End police station, Tottenham Lane was a small dead river. London was asleep… but London never sleeps deeply, and its dreams are uneasy.

<解説>
こういうのが出てきたらまずGoogle Mapで検索してみましょう。そうするとCrouch EndもTottehham Laneも実在の土地だと言うことが分かります。当たり前と思うことなかれ。何でもとりあえず裏を取るのが翻訳の第一歩。さらにおそろしいのは英国の地名の難しさ。たとえば、Birminghamというのはイギリスにもアメリカにもあるんですが、イギリスの場合はバーミンガムですが、アメリカのはバーミングハムだったりします。(Talking Headsの「Cities」という歌に出てくるぞ。)次は、三省堂の「固有名詞英語発音辞典」で発音をチェック。前者がクラウチ・エンドなのは比較的さっと行きますが、後者が実は難物。トッテンハムじゃないよ。トットナムあるいはトッテナムあるいはトテナムくらいが許容範囲です。いや、最初にロンドンに行った時に、地下鉄を降りたのがこのTottenhamですが、まあ分からないですよ。a small dead river。deadというのは死んでいるわけではないです。水がdeadだと動きがないとかよどんだいう感じですね。枯れた川だとrun dryという言い方をすることが多いと思います。ただもちろんここでは比喩的な意味で使っていますから、多少広めに受けてもいいような気もするんですが。で、実際のイメージを考えてもらいたいんですが、警察署(警察関係も特に階級はアメリカとイギリスでかなり違うので、かなり注意が必要です)は、画像検索で「”police station” london」を調べてみましょう。そうすると英国の警察署の写真を見ることができます。Crouch End Police Stationがどれくらいの規模のものかは別にして、視点が中からか、外からか、どちらにしても、明るく光る警察署の窓、外側に動きのない通りというイメージがうまく訳せたらいいなと思います。後半は、ロンドンという街を擬人法で説明しているわけですが、寝てはいるけれど、眠りは浅いし、その見る夢は不安に満ちているという流れをうまく訳出してもらえるといいですね。ここでのポイントは、London was asleepと最初の部分だけが過去形になっていること。残り2つは現在形です。従って、最初はその晩の状態を、残りの2つはロンドンについての事実を表明しているという感じ。

1.
Crouch End 警察署の外には、小さな水なし川のTottenham Laneが続いていました。Londonは、夜の帳が降り眠っていました。しかし、決して健やかな深い眠りではありません、不安な夢の中なのです。

(まず文芸の翻訳の場合、英語を残したらアウトでしょう(^-^; それから地の文なので、やはり敬体ではなく常体で訳すのが基本。やはりルールには従わないと。「小さな水なし川」ってイメージ湧くかなあ。後半の工夫は評価できますが、常体・敬体をきちんと使い分けることからスタート。)

2.
クラウチ・エンド警察署の外を走るトッテンハム・レーンは、以前は小川であったが、今ではもう干上がってしまっている。ロンドンはすでに眠りについていた。しかしこの町は実のところ、決して寝静まることはない。ロンドンの夜は不穏な夢に包まれるのだ。

(トッテンハムはアウト。いや、小川だったわけではなく、そう見えたということです。まず検索してみようね。寝静まるというのは、「人が眠って静かになる」という意味なので、せっかくの擬人法がちょっといかしきれていないようにも思えます。)

3.
クラウチ・エンド警察署の外には、トッテナム小路が水の枯れた小川のように伸びていた。ロンドンは眠っている。……けれど、その眠りは浅く、いつも不安な夢ばかりだ。

(これは意味的には割と良くまとまっている方なんですが、「小路」はちょっとピンとこないかなあ。「いつも不安な夢ばかりだ」がちょっと浮いている感じ。)

4.
クラウチ・エンド警察署の外では、トッテナム・レーンの流れがとだえ、死んだ川のようだった。ロンドンは眠りについていた……しかし、その眠りはいつも浅く、不吉な夢を伴う。

(うーん「流れがとだえ」の流れは何だろう。「いつも浅く」は意味としては間違ってはいないんですが、やっぱりneverを活かしたいところですね)

5.
クラウチ・エンド警察署の外では、トッテナム・レーンの通りが命の絶えた川と化していた。ロンドンは眠りの中にあった。然れど、決して深い眠りに落ちることはなかった。見る夢見る夢、不吉な夢ばかりなのだ。

(レーンの通りというとレーン自体が道路だから意味がだぶっている感じがします。「命の絶えた川」ってどういうイメージでしょう。「然れど」はキングだとちょっと使えないです。レ・ファニュとかウォルポールあたりならいいけど。「見る夢見る夢」は少しくどい感じ。もっとさらっと)

6.
クラウチエンド警察署の外、トッテナム街道は死んだ小川のように静かだった。ロンドンは眠っていた…しかしその不安な夢に苛まれ、決して深く眠ることはない。

(街道は「町と町とをつなぐ重要な道路」だからここでは使えません。それから夢に苛まれるから深く眠るわけではないので、そこはきちんと訳さないとだめですよ。)

7.
クロウチ・エンド警察署の外を走るトッテナム・レーンの干上がった小川。ロンドンの街は眠っているが、決して深い眠りに落ちることはなく、その夢もまた不安に満ちたものだ。

(干上がった小川とすると、トッテナム・レーンに小川があるように思えますね。後半は割といい感じです)

8.
クラウチ・エンド警察署の外には、トッテナム小道が澱んだ小川のように横たわっていた。ロンドンの街は眠りの中にあったが、この街が深い眠りにつくことはない。見るのは不穏な夢ばかりだ。

(「小道」というと「(1)狭い道。細い道。(2)わき道。枝道。」という意味になっちゃうので。何とかレーンという通りは普通にあって、たとえばDrury Laneなんて有名ですけど、どう見ても小道じゃないですよ。ロンドンとかの通りでlnと書いてあるのはレーンの略。後半は三つでセットなので切っちゃわない方がいいです。)

9.
クラウチ・エンド警察署の外では、トテナム・レーンは生気のない小川のようだった。ロンドンは眠っていた……とはいえ、ロンドンの眠りはいつも浅く、見る夢に心休まることはない。

(逆に「生気のある小川」ってどんな川? 小説の書き出しだからやっぱりもう少し「おっ」と思わせないと。後半は割といい感じ。)

10.
クラウチ・エンド警察署の外では、トテナム道が涸れた小川と化していた。ロンドンは眠っていた・・・が、その眠りは深いものではなく、見る夢は不安をかき立てるばかりである。

(「トテナム道」ってピンときます? 「涸れた小川と化していた」というと、何か実際そうなっているように読めちゃうのでもう一工夫。後半は割といい感じ。)

11.
トッテナム通りのクラウチエンド警察署の外は、死んだ小さな川のようだった。ロンドンは眠っていた。しかし、それは決して熟睡しない。そして、それが見る夢は、理解し難いものだろう。

(うーん、「警察署の外は」としちゃうと、周り全部が「死んだ小さな川」ということになっちゃうよ。「それ」を入れちゃうともうリズムが崩れまくりです。逆にねえ、翻訳のこつはいかに「こそあど言葉」をうまく処理するかにあるので、その辺に注意してね。)

12.
クラウチ・エンドの警察署の外側に位置するトッテンナム路地は、小さくひっそりとしていた。ロンドンは眠りにおちていた、、、けれどもロンドンは決して深い眠りにはつかない、そしてその夢は不安に満ちている。

(トッテンナムはアウト。「路地」は「家と家との間の狭い通路」です。和訳の場合、国語辞典が大活躍するんですよ。「小さくひっそり」だと何かずいぶんイメージが違って見えます。「つかない」は「つかず」かな。三点リーダーの代わりに読点使っちゃだめだよ。)

13.
クラウチ・エンド署の外、トッテナム通りは死に絶えた川のようだった。ロンドンは眠っていた……だが、決して深い眠りに落ちることはなく、不安な夢の間を漂っていた。

(うーん、割と工夫はわかるなあ。ただ「死に絶えた川」ってどういう感じだろう。比較的うまくまとめた感じがします。)

14.
クラウチエンド警察署の外では、トッテナムレーンは静まり返った小さな川だった。ロンドンは眠っていたが、決して深い眠りではなく、不安を抱えていた。

(「静まりかえった小さな川」は悪くないんだけど、「川だった」のあたりをもう一工夫かなあ。「?のようだった」とかにした方がすっきりしたかも。never sleepsとits dreams are uneasyだけ現在形である点に注意してください。)

15.
クローチエンド警察署の外では、トッテンハムレーンの通りが小さな枯れた川と化し、ロンドンの街は眠っていた。しかしロンドンは決して深い眠りにつくことはなく、不吉な夢を見るのである。

(クローチとは読まないです。トッテンハムも同様。ちゃんと調べてね。a small dead riverとLondon was asleepは別の話なので、切ってください。)

16.
クロウチエンド派出所の外、トッテナム小道はかつて小さな川だった。ロンドンは寝静まっていた。けれど決して深い眠りにつくことはないし、休まることのない夢を見る。

(派出所はa branch officeとかa police boxかな。「小道」は上述。かつて川だったという意味ではないです。それならonceとか入るはず。後半は意味的には間違っていないんですが、やっぱり3点セットはまとめて欲しいし、あともう少し文章に色気がほしいなあ。)

17.
クラウチ・エンド署を出たところには、トッテンハム・レーンという水の枯渇した小川があった。ロンドンは眠る・・・だが決して熟睡することはなく、悪夢にうなされて。

(まだこの時点では誰も出てない(^-^; これはねえ、夜だから、外の通りがそう見えるという話なんですよ。検索すればわかるんですが。ロンドンは眠っていた、です。残り二つが現在形。)

18.
クラウチ・エンド警察署の外を走るトテナム通りは、まるで枯れた小川だ。ロンドンは眠りについている…が、決して深く眠ることはないし、その夢も心安らぐものではない。

(全体的にはまずまずいい感じです。ただ三点リーダーの使い方がちょっと気になります。というか、三点リーダーのあとに「が」で逆説を持ってくるのはちょっと読みにくいかな。)

19.
クラウチ・エンド交番の外、トッテンハム通りは澱んだ小川のようだった。ロンドンは眠っている…しかし決して深く眠ることはなく、その夢は不安に塗り込められている。

(交番はa police boxとか。トッテンハムはアウト。「不安に塗り込める」というのはちょっとピンと来ないですね。もう一工夫。)

20.
クラウチ・エンド署を出たところにあるトッテナム・レーンは、動きがまったくなく、流れが止まった小川のように静まり返っていた。ロンドンの街は眠ってはいたが、その眠りは常に浅く、夢見が悪い。

(トッテナム・レーンがクラウチ・エンド署を出たところにあるというのはちょっと誤解を招くかなあ。動きが全くなく、流れが止まったって同じことを重ねて言ってないかな。「夢見が悪い」は工夫は感じられるんですけど、ここではちょっとフィットしない感じがあります。)

21.
クラウチ・エンド警察署の外、トッテナム通りはまるで忘れ去られたちいさな川のようだ。ロンドンは眠りについている。だが、この街が深い眠りに落ちることはなく、見る夢も不吉なものだ。

(「忘れられた」というのがちょっとピンとこないです。後半は「ロンドンは眠りについている」を、「いた」にすればなかなか良い感じですよ。)

22.
クロウチ・エンド署の外の、トッテンハム通りは、さながら小さな干上がった川のようだった。ロンドンは眠っていた・・・、しかし、決してぐっすり眠っているのではなく、悪夢だらけの夢にうなされているのだ。

(クラウチ+トッテナムね。「さながら」は悪くはありません。ただ「うなされている」まで行くと、どうも足しすぎという感じがします。あと夢という文字が二度出てくるのもちょっと。)

23.
クラウチ・エンド警察署があるトッテンハム・レーンは小川のように細く、不気味な静けさを漂わせていた。眠るロンドン・・・しかし、夜のロンドンは 深い眠りに落ちることはなく、毎夜悪夢にうなされている。

(トッテナムね。これだと「小川のように細い静けさ」とも読めてしまうかも。後半は工夫は分かるんですが、「眠るロンドン」はちょっと浮いている気がします。)

24.
クラウチエンド警察署の外、トッテンハム通りはまるで干上がった小さな川のようであった。ロンドンの街は眠っていた、がしかしロンドンの街は決して深い眠りにつくことはない、そして幸せな夢を見ることもないのである。

(これもトッテナムね。「ようであった」とすると、多少大仰な印象を与えると思います。「ようだった」とした方がさらっと読めるかな。「眠っていた、がしかし」は「眠っていたが」で十分じゃないかなあ。「幸せな夢」とか出しちゃうとあまりキングじゃなくなっちゃうよねえ。)

25.
クラウチ・エンド署前にある、トッテナム・レーンは細い干上がった川だった。ロンドンは静まり返っていた…だが、この街はぐっすりとは眠らない。夢が不安をかき立てるのだ。

(日本語でそのまま「細い干上がった川だった」というと、本当に川だと思われちゃいます。うーん、静まりかえっていたとしているとwas asleepとは離れちゃうんだよねえ。実際そう書いてあるわけではないから、少し飛躍しすぎ)

26.
クラウチ・エンド警察署から伸びるトッテナム・レーンは、まるで細く、干上がった川だった。ロンドンは眠ったように静かだ…。だが、この街の眠りは浅く、見る夢は後味が悪い。

(「から伸びる」とすると、警察署が起点になっているように読めます。地図ではっきりとそうであることが確認できないなら、無理してリスクを取ることはないですよ。「眠ったように静か」はちょっと訳しすぎかと。それから「後味が悪い」というと、ロンドンがそう感じるという意味になってしまって、ちょっとこれも行きすぎ。)

27.
トテナム通りのクラウチエンド警察署の外には小さな淀んだ川があった。ロンドンは眠っていた。だが決して熟睡はしない。見るのは不安な夢だ。

(川はないんです。通りが川のように見えるんですね。そう思っちゃうと、「トテナム通りのクラウチエンド警察署」と強引な訳になっちゃう。後半は簡潔でいいんですけど、少し素っ気ないかな。)

28.
クラウチ・エンド警察の外には、トッテナム・レーンが死んだ小川のように横たわっていた。ロンドンの街は眠りについていた……だが、ロンドンは決して深い眠りに落ちることはなく、不安な夢の中をさまよっているのだ。

(前半はまあまあ何ですけど「死んだ小川」ってどういう小川? 「さまよっている」とはやはり書いてないよね。眠りは浅く、しかも見る夢はいやーな感じというのがホラーっぽくていいんだけど。)

29.
クラウチ・エンドの警察署を一歩外に出れば、トテナム通りはさながら生き物など住まぬ川と化していた。ロンドンは寝静まってはいたが、この町には安らかな眠りなど訪れるはずもなく、この町で見る夢とて、穏やかならざるものなのだ。

(「さながら生き物など住まぬ川」というのはちょっと大仰で、キングの文体には合わないような気がします。確かにこれはラヴクラフトへのトリビュートなんですけど、そういう複雑な文体ではないんですよ。原文がシンプルな場合は、やはり訳文もシンプルな方がいいです。努力は買いますが。)

30.
トッテンハム通りのクラウチ・エンド署のすぐ外で、小川はよどんだ水たまりと化していた。ロンドンの街は眠っていた・・・が、ロンドンの眠りは決まっていつも浅く、見る夢はどれも不安に満ちている。

(トッテンハムはアウトね。小川はないです。水たまりもないです。「決まっていつも浅く」というのは悪くないです。前半の読み違えがもったいないなあ。)

31.
クラウチ・エンドの警察署の外には、トッテナムレーンという名のよどんだ小川が流れていた。ロンドンの街は眠っていた。だが、決して深く眠ることはない。そしてこの街の見る夢は不気味である。

(悪くないんですけど、それなら「トッテナム通り」としないと、読者はピンと来ないんじゃないかなあ。不気味までやっちゃうと、eerieとかちょっと違う単語を想像します。)

32.
クラウチエンド警察署の外では、トテナム通りが干上がった川のように静まり返っていた。ロンドンは眠っていた…。だがこの街は決して深く眠ることはない。まどろみながら不安な夢ばかり見ている。

(うーん、「静まりかえっていた」までは出したくないんですよねえ。「まどろむ」はしばらくとろとろと眠ることなので、ちょっと違うかなあ。眠りが浅くて、いやな夢ばかり見ているということなんですよね。dreamsだから。)

33.
クラウチ・エンド署を出るとそこはトッテナムの路地。死んだように静まりかえった小さな川だ。ロンドンは眠っていた……だがその眠りは浅く、見る夢にやすらぎはない。

(路地は上述。「路地が川?」と読者は思うでしょうね。「川のようだ」にすれば良くなるかな。ホラー小説なので「やすらぎはない」とするとソフトになっちゃうんだよねえ。)

34.
クラウチ・エンド警察署の外にあるトッテナム・レーンは、命の尽きた小さな川のようであった。ロンドンは眠りに就いていた。…が、不安に満ちた夢を見るこの街に深い眠りが訪れることはないのである。

(うーん、「命の尽きた」というと、何か違った感じがします。後半は、頭から訳していかないと、原文の雰囲気が出ません。全文を読まない状態で訳してもらっているから仕方ないところもあるんだけど、後々、このトッテナム通りに関する一文がいろいろと効いてくるのよねえ。)

35.
クラウチ・エンドの警察署の外では、トテナム通りが流れの絶えた小川のようだった。ロンドンは眠っている……しかしロンドンがぐっすり眠ることはなく、不安な夢ばかり見ている。

(ああ、これはけっこういいかも知れない。)

36.
クラウチ・エンド警察署の外側、トッテンハム・レーンは細く、流れのない川のようだった。ロンドンは眠っていた。しかし、この街は決して深い眠りに落ちることはなく、不穏な夢を見るのだ。

(トッテンハムはアウト。辞書引いてね。「不穏」は「おだやかでないこと。危機や危険をはらんでいること。また、そのさま。」という意味なので、ちょっと違うんじゃないかなあ。)

37.
クラウチ・エンド警察署の外にあるトッテナム通りは、水のない小川だった。眠りに落ちるロンドン……けれど、決して熟睡することはない。憂わしい夢を見ているのだ。

(「水のない小川だった」と書くと、やっぱりピンとこないと思います。「心配すべきさまだ。嘆かわしい。」が「憂わしい」です。何となく訳語を選ぶんじゃなくて、どうしてこの言葉を選んだのかが説明できるように努力してください。)

38.
クラウチ・エンド警察署の外では、トッテンハムレーンは人気のない小さな川のようだった。ロンドンの街は眠っていたが、決して深く眠ることはなく、その夢も不安なものだった。

(これも悪くないです。すっと読めるし。ただ最後のdreamsのニュアンスをうまく出せるともっと良かったかな)

39.
クラウチエンド警察署の外、トテナム通りは流れの絶えた小さな川のようだった。ロンドンは眠っていた。だがこの街は熟睡することは無い。そして見ているのは穏やかでない夢だ。

(これも悪くはないんですが、「この街_は_熟睡すること_は」みたいな助詞の使い方には注意が必要。三つの文章に分けるより、一つにしてしまった方が流れがいいんじゃないかなあ。)

40.
クローチエンド警察署の外には、トッテンハムレーンという、今にも枯れそうな小さな川が流れていた。ロンドンの街は眠ったように静まりかえっていた。だが、ロンドンは決して深い眠りにつくことなどない。常に何かにおびえ、夢など見てはいられないのだ。

(クローチはアウト。トッテンハムもアウト。地名とかはきちんと調べましょうね。そこを調べないので、川だと思ってしまうんですよ。それから「夢など見てはいられない」とも書いてないです。はっきりと夢を見ると書いてます。もう少し注意を払って読んでみましょう。)

41.
クローチ・エンド警察署の外、トッテナム・レーン通は干上がった小さい川のようだった。ロンドンは眠っている。だが、この街は深い眠りとは無縁であり、この街が見る夢は常に重苦しい。

(クローチはアウト。レーン通はどうしても意味が重なって読めます。後半は割といい感じで、「無縁であり」というのはなかなかいいですね。)

<全体講評>
Crouch EndとTottenham Laneの発音や地名を調べていない人は、だいたい本当に川があると思ってしまったようです。大切なのは、いつも申し上げているように調べもの。それはめんどいですよ。でも調べないと本当は訳せないんです。分からないから。翻訳は7割が調べものです。一つの単語の訳語を探して4時間かかることもあります。1ワード10円として、時給2.5円だ(笑)。でもそれが仕事になるんです。もちろん調べるだけ調べても、なお誤訳や誤記、あるいはタイポと完全に縁を切ることはできません。逆に言うと、この2行だけでこれだけ大変なわけですから、1000ページの文庫本ミステリーを訳している翻訳者の苦労というのも分かりますよね。(僕は出版方面じゃないからよけい実感します。)そういう想像力を鍛えていくことで、だんだんいろいろなことが分かってきますから、地道に努力を続けてくださいね。

<講師試訳>
クラウチ・エンド警察署の外で、トッテナム通りは小さな、流れの淀んだ川のように見えた。ロンドンは眠っていたが、この街が深い眠りにつくことは決してなく、その見る夢はどれも不安を感じさせる。

第21回ウルトラショート翻訳課題 MVP

今月、読みやすかったのは18さんと38さん、そしてMVPは35番の岡本ゆかりさんです。他にももうちょっとがんばればという人も多かったのでどうぞがんばってください。またたくさんのメッセージもありがとうございます。拝見するとこっちもがんばってコメントしなくちゃという気になるので、来月もよろしくね。

<次回の課題文>

今月は、ちょっとネットから拾ってきたPINK FLOYDの「The Dark Side of the Moon」(狂気)のレビューをやってみましょう。興味がある人はYouTubeで聞けると思います。ちなみにビルボートチャート200位以内に15年(741週間)ランクインしています。(Wikipedia参照。)トータルで4000万枚売れたといいます。この手の音に慣れるまで大変でしょうけど、’70年代の音楽芸術の一つの完成品です。

We don’ft know where we are, but it’s great, and we don’t want to leave, even though “Time” will ultimately pass and we’ll have to; after probably the best song in the album , with the best Gilmour-solo in “Dark Side of the Moon”, we reach a state of mental ecstasy when even a female voice appears to help us fly the whirlwind of colors; the magic is interrupted by the greedy sound of a cash register, and we are greeted by one of the most famous odd-signature songs ever.

訳していただきたいのはボールド体で示す。「the magic is…songs ever.」の部分です。簡単そうだけどけっこう難しいよ。常体(だである調)でお願いします。来月はひょっとしたらハワイから原稿をお届けすることになるかも。メッセージもお待ちしています。

ではまた来月。

★★訳文の応募は締め切りました★★