第24回 ハワイで仕入れた本からまず2冊

一行翻訳コンテスト2009.05.16

■今月のペーパーバック
インテリジェントなユーモアを
『Dave Barry’s History of the Millennium (So Far)』
(Dave Barry著、Berkley Pub Group刊)

Dave Barry's History of the Millennium (So Far)

今月はとりあえず2冊ご紹介。毎年、ハワイに行って必ず買うのがホラー以外だとDave Barryの新作。今回お買いあげは『Dave Barry’s History of the Millennium (So Far)』。ブッシュの後ろでVサインをしているデイブの表紙が印象的。日本のユーモアものというのは、どちらかというと「くすっ」という笑いが多いと思うんですが、アメリカの笑いは「ぎゃはは」のような気がします(もちろんモノにもよりますが)。英国の笑いは「ぐへへ」かな。たとえば、鳥居みゆきを見ていると(ヒットエンドランではなく、DVDの方。「妄想結婚式」とか「米の吉田」とかぜひ見てください)モンティ・パイソンに近いんですね。「サム・ペキンパーのサラダの日」みたいなものすごいやつまであり。モンティ・パイソンは基本的にインテリジェンスが要求されるし、あれをよく地上波で放送できたとも思う。アメリカのユーモアとか笑いというのは基本的には反インテリ主義に基づいているところがあるように思います。アメリカの知というのは、一つの専門を極めていくのは重要なんですが、プラグマティズム第一であるような気がします。キリスト教という宗教はありますが、欧州的な哲学は少なくとも光の当たらない国だと思います。

もう数十年前、まだ僕が会社員だった時に、BBCに製品の売り込みに行ったことがあるんですが、そこのエンジニアと激論を交わしていると、時間は3時だったような気がしますが、鐘がなるわけです。そうすると、その直前まで顔を真っ赤にして議論していたエンジニアが突然、「It’s tea time.」とかいって、いきなり表情も柔和になり、お茶を用意してふるまってくれるわけです。その間は、先ほどまでのビジネスの話ではなく、哲学の話……。その時は禅とかの話をしたんだったかなあ。ネタが多少でも分かる範囲で助かったです(このへんの教養のすごさというのはアメリカでは感じたことはないんですね。頭がいい人はいっぱいいたんですが)。そしてお茶の時間が終わるとまた仕事上の論争です。その意味で、デイブのユーモアは、完全なスラップスティックではなく、やっぱりもう少しインテリジェントな(ただしTV Ageの)内容なのが僕が読んでいて楽しめる理由かも知れません。たとえば、冒頭の書き出しは

And so we stand together — the human race, plus the members of Limp Bizkit — poised on the brink of the year 2000.

これなんか、ロック・バンドのLimp Bizkitを知らなければ笑えない。でもここの部分がAttila the Hunになると、英国的になるわけですね。入り方・落とし方が違うんですよねえ。あるいはこういうの。

But the greatest scientific advance of the century came in 1687 when Sir Isaac Newton, after watching an apple fall of a tree, wrote his famous Principia Mathematica, which states that there is a universal force, called “gravity,” inside apples. Later scientists would expand this definition to include grapefruit, but the basic concept remains unchanged to this day.

ちなみに、こういう文章(グレープフルーツを除く)は、やっぱりいろいろ勉強になるんで、単に流し読むのではなく、統語とか、表現に注意すると良いです。また、この辺のユーモアとかウィットとかギャグとかの違いは映画を見ていると勉強になりますよ。

■オススメの一冊
海洋学者によるパニック小説
『Sea Change』
(James Powlik著、Island Books刊)

Sea Change

次に今月の2冊目。James Powlikの『Sea Change』を。カナダの作家で、もともと海洋学者だそうです。これまで2冊、「Meltdown」と本作のみを書いています。中身はかなり難しめ。特に関係する用語集が巻末についているくらいです。基本パニック小説で、あまりネタばれをしたくないので、冒頭の紹介だけしておくと、バンクーバーでアワビの密漁をしているピーターズが、一仕事終えて浮上すると、船の上にいるはずの相棒のバージェスが火傷を負ってもがき苦しんでいます。火傷の原因になるようなものは何もありません。そして、ピーターズ自身も助けようとして自分の体が炎症でふくれあがっていくのを感じます。この怪奇な現象の原因は何なのでしょうか……。という具合に、次々と不思議な事件が起こっていきます。この謎を海洋学者のブルック・ガーナーと医師のエリス・ブリッジスが追っていくという内容。特に北極圏の自然の描写はなかなかのリアリティがあります(でもあまり売れなかったのかなあ)。

では、課題文に行ってみましょう。

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