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2023.06.21 UP

第11回 アルゼンチン ブエノスアイレス
相川知子さん(生活編)

第11回 アルゼンチン ブエノスアイレス<br>相川知子さん(生活編)
※『通訳翻訳ジャーナル』2023年春号より転載

海外在住の通訳者・翻訳者の方々が、リレー形式で最新の海外事情をリポート! 海外生活をはじめたきっかけや、現地でのお仕事のこと、生活のこと、また、コロナ下での近況についてお話をうかがいます。

ブエノスアイレスでの生活スタイルを紹介!

相川知子さん
相川知子さんTomoko Aikawa

広島県出身。スペイン語通訳者。愛知県立大学外国語学部スペイン学科ラテンアメリカ諸地域専攻後、JICAの海外開発青年プログラムにより永住ビザでアルゼンチンに渡航し、日本語・日本文化普及に従事。スペイン語通訳、翻訳、語学教師、旅行コーディネーター、日本のTV番組の撮影通訳現地コーディネーター、アルゼンチンに関する記者活動、ラジオ出演、特派員などを務める。NHKラジオ「ラジオ深夜便」、「マイあさ」レギュラー出演。水村美苗著『母の遺産』スペイン語版『La herencia de la Madre』(アドリアナ・イダルゴ出版社)翻訳者。
ブログ:http://blog.livedoor.jp/tomokoar
HP:https://tomokoargentina.wixsite. com/funnyprolatinamerica

誰とでも立ち話が始まる陽気な雰囲気がある街

私がいま住んでいるのは、アルゼンチンの首都・ブエノスアイレスのパレルモ地区にあるイタリア広場という場所です。都心部まで地下鉄で15分ぐらいの住宅街であり、徒歩5分で「パレルモソーホー」というファッションの店が立ち並ぶおしゃれなエリアに行くことができます。1991年から32年間アルゼンチンに住んでいるので、ときどき引っ越しもしましたが、だいたいパレルモ地区に住み続けています。
 
アルゼンチンの習慣で大好きなのはマテ茶を飲むことです。毎日、朝昼夕晩飲んでいますので、バスク系アルゼンチン人の夫よりも、またアルゼンチン生まれの娘たちよりも飲んでいます。鉄分とミネラルが多いので、エネルギー源にも、喉にもいいですし、飲むときにストローを使うので、通訳者としては唇の筋肉を使う効果もあると思います。

またブエノスアイレスでは、些細なきっかけでよく立ち話が始まるところが、おもしろい習慣かなと思います。街を歩いているといろいろな人から話しかけられますし、こちらからも話しかけます。ここの人たちは「見た目で外国人だから話しかけない」とか、そういうことはまったくありません。スーパーでは「賞味期限がわからないから見て」と高齢の方に頼まれたり、バスで隣り合わせの人たちと世間話をしたり。

またワールドカップ中、日本の試合がある夕方に、パブリックビューイング会場に向かっていたら、「あなたは日本人ですか? いい試合をしていますね」と声をかけられて、「応援している」と言われました。テレビなどの仕事で取材をしていても、相手と仲良くなりやすいと思います。すると、さらに色々なことを話してくれたり、思いがけず贈り物をもらったり…そういう人々の気質がとても良いなと感じています。

2022年W杯のときに、パレルモ公園でパブリックビューイングを観る人々とともに。中央右側で国旗を持つのが相川さん。

コロナ禍での仕事と生活の変化

コロナ禍ではオンラインでの仕事のため、PC環境を一新しました。最初はリビングの中心にある大きなテーブルの一角を仕事机にしていましたが、そのテーブルを取り除き、少し小さめのものに替え、リビングの一角に新しい机を置きました。大きめの画面になるよう、PC環境を整え、ヘッドセットなども新調しました。Jabraのヘッドセットは携帯電話にも使えるジャックとPC用のUSBがあり、とても便利で耳へのフィット感も気になりません。

また、Zoomなどを使った録画やリハーサルなども手軽にできるようになりました。読み込みや声出しのみの練習はしていましたが、客観的に自分の様子が見られるツールができたおかげで、日々パフォーマンスを改善できるようになりました。また同時通訳のパートナーと直接会って一緒に勉強するのは時間的になかなか難しいのですが、オンラインミーティングで、交代で資料をサイトラしながら読み込みをしたり、その場でもっといい表現を相談したり、発音などが苦手なところを直しあったりできるので、便利になりました。ブエノスアイレスにいながら、チリの南部の街と東京をつなげて通訳をしたり、ジュネーブにいる講師が、メキシコの企業向けにレクチャーするのを通訳したり、オンラインでの通訳も楽しいですし、仕事の幅が広がったと思います。

生活面の変化では、コロナ禍にちょうど外国人の参政権の手続きが簡素化され、事前登録なしでも、こちらの身分証明書で投票ができるようになりました。ですから在住32年目にしてブエノスアイレス市議選の投票ができ、社会に参画できたことがとてもうれしかったです。

コロナ禍に行われたブエノスアイレスの市議会議員選挙では、外国人参政権を利用して初めて投票を行った。

国中が盛り上がった悲願のW杯優勝

アルゼンチンは昨年2022年、36年ぶりにFIFAワールドカップ優勝を果たしました。私もこの地に住んで32年、いつも「勝つよ、勝つよ」と言われてやっとの出来事でした。伝説的な選手であるマラドーナが2020年末に死去したことで国中が悲しみ、そしてコロナ禍を経て人々の日常が取り戻された直後だったこともあり、アルゼンチンの人々にとって、本当に大きな、うれしい出来事となりました。多くの人々が町中に繰り出し、大変なお祭り騒ぎになりました。それぐらいサッカーというのはアルゼンチンの人々の生活と日常から切っても切れないものなのです。
 
かくいう私も、優勝が決まったときはテレビの取材中でしたが、もう体から湧き出る喜びを味わい、インタビューでも大はしゃぎをしてしまいました。決勝戦を大勢の方々と見たり、街の中心地のオベリスコに集結する人を取材したりしました。夜遅くになっても人が集まるのが止まらず、試合終了は午後3時半頃、その後の特集番組の生中継が9時頃終わったのに、深夜12時まで人が多くて車が出せず家に帰れませんでした(笑)。本当に感無量のワールドカップ優勝でした。

W杯決勝戦の日の、市の中心部にあるモニュメント「オベリスコ」周辺の様子。深夜まで人々が集まってアルゼンチンの優勝を祝った。

W杯取材中、ユニフォーム姿の家族にインタビューしたら「あなたも持って撮りたいでしょ」とトロフィーを持たされて皆で記念撮影。

<地元のオススメスポット>

ブエノスアイレスで私が一番好きな場所はコロン劇場です。1908年に、19年の歳月をかけて建設されたオペラハウスです。当時からヨーロッパの文化が一番に到来してきた場所で、アルゼンチンの歴史の変遷と、文化と芸術を享受できます。この劇場の非日常的な空間が大好きで、私の耳と目の安らぎと栄養源です。また、オペラのセリフや歌詞は字幕が出ますので、鑑賞することで、教養のある言い回しや語彙、特にレジスター(言語使用域)を増やす勉強にもなっているな、と最近気づきました。

コロン劇場の外観。音響の良さから、パリ・オペラ座、ミラノ・スカラ座と並ぶ世界三大劇場の1つとされている。

大好きなコロン劇場の舞台装置工房見学で、劇中の人物になった気分でポーズ。

前編「仕事編」の記事は
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